映像化の難しさ - 絶愛[1989]の感想

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絶愛[1989]

3.503.50
映像
3.50
ストーリー
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キャラクター
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声優
4.00
音楽
4.00
感想数
1
観た人
1

映像化の難しさ

3.53.5
映像
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
声優
4.0
音楽
4.0

目次

イメージ通りだったら

私は原作の大ファンで、この『絶愛』のOVAが発売された時はすっごく喜んだのです。喜んで、急いで購入して見た時、私は思わず脱力してしまいました。あまりにもイメージと違いすぎたのです。まず、ヴィジュアルですが、原作ではシャープな輪郭と鋭い眼差しが印象的で、少女マンガでありながら、少年マンガの要素も併せ持っている。それが『絶愛』の魅力です。ですが、アニメ化になった途端、どこか薄っぺらい印象が強くなりました。キャラクターの輪郭はただ顎がシャープなだけで、あの鋭い泉の眼差しも、晃司の冷淡な裏に隠れている情熱的な眼差しも、アニメではあまり感じられませんでした。スタイルも、原作ではスラリと背は高いが筋肉質で、ただ細いだけではないという感じでしたが、アニメでは普通の少女マンガに出てくる、ただ細いだけの男の子といった感じで、正直ガッカリしてしまいました。そして、ヴィジュアルと同時に大切なのが「声」です。連載が始まった頃から、私の中で晃司の声は速水奨さんでした。氷のような冷たさと、相手を離さない情熱的な声を持っているのは、速水さん以外考えられませんでした。ですが、正直な所、泉役の子安武人さんは意外でした。もちろん、泉の声が弱々しいというイメージはなかったのですが、子安さんがされるとは思ってもいませんでした。子安さんの声は大好きなんですが、泉の孤独で繊細な心情を表現するならもっと違う声の方がピタッと合ったのではないかと思います。ヴィジュアルと声のイメージが原作通りだったら、もっと違う作品に感じられたのではないかと思います。

詰め込みすぎ注意

『絶愛』の魅力はキャラクターのヴィジュアルだけではありません。ですが、アニメでは物語の要素が「これでもかっ」と詰め込まれすぎて、これでは『絶愛』の良さは伝わりません。製作者側は一体何を伝えたかったのでしょう?ただ人気があるから映像化しただけだったのでしょうか?本来、『絶愛』はテレビシリーズ向きだと思うんです。もしくは前編と後編に分けるとかしないと、原作を知らない人にはチンプンカンプンな話です。もっと、晃司と泉の出会いのシーンや、泉が晃司に向かってサッカーボールを蹴るシーンなど小さなシーンも丁寧に描いて欲しかったなと思います。何気ないシーンの中にも泉と晃司の複雑な心情が出ていると思うんです。それに、渋谷や芹香の扱いもちょっと雑ですよね?渋谷は晃司にとって唯一の理解者です。彼のサポートなしでは晃司は輝きませんし、泉が大切にしている芹香と優吾の存在ももっとクローズアップされるべきです。泉がなぜあれほど過酷な過去を持ちながらも凛としているかを物語る為には、やっぱり芹香と優吾の存在は欠かせません。伝えたい事を目一杯詰め込もうとした結果、全てが中途半端になった気がして、「もったいない」の一言です。もし、シリーズものにしたらもっと良い作品になったのではないでしょうか。

時代の最先端

この『絶愛』が発売された1992年は、まだBLという言葉はありませんでした。男同士の恋愛は「やおい」(ヤマなし、オチなし、イミなしの略)と呼ばれ、一部の愛好家だけのものでした。書籍も少なく、一般にはあまり認知されていない中での製作は、かなり大変だったのではないでしょうか。見出し2で、製作者側が人気だけで映像化したのではないかと書きましたが、実際は違うのだと思いたいです。男同士の恋愛というだけでも偏見の目で見られた時代です。そんな中でも映像化しようと思ったのは、製作者側が晃司の泉を想う深すぎる愛情に共感を得たからではないかと思うのです。私も、原作を初めて見た時は、晃司のあまりにも深い愛情に圧倒されました。どんなに拒まれても、ただひたすらに泉を想い続ける晃司がいじらしくなりました。ですが、もし実際に晃司のようなタイプに出会ったらきっと泉と同じように拒んだと思いますけど(笑)。きっと製作者側も晃司の深く激しい情熱を、泉の辛い過去を乗り越えて立ち上がる強さを伝えたくて映像化したのではないでしょうか?そして、その情熱が強すぎたが為にカラまわりしたのではないでしょうか。そう思うと、ますますこの中途半端さがもったいないと思います。現在、もう「やおい」という言葉は使われなくなり、BLというおしゃれな表記になりました。知名度も上がり、ワイドショーなどでも度々BLという単語を見かけたり、アイドルの女の子がトーク番組で平然と「BLが大好きなんですッ」と熱弁しています。書店に行っても、普通にBlの表紙が並び、店員さんも顔色ひとつ変えません。ここまでBLが世間に浸透するキッカケとなったのはおそらく、この『絶愛』があったからだと思いますし、そしてそれを映像化しようとした製作者側の努力があったからだと思います。いろいろな意味でこの作品は時代の最先端だったなと改めて思います。

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