気になる部分がほっとかれて終わった - なのは洋菓子店のいい仕事の感想

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なのは洋菓子店のいい仕事

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気になる部分がほっとかれて終わった

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
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設定
3.5
演出
3.5

目次

女の子がかわいいから

若木さんの作品では、前作のほうがとにかく人気だったという。それは女の子がとにかくかわいく、ただただニヤニヤできる漫画だったため、オタクたちが虜になったからだった。

本作では、もちろん女の子は登場するものの、主人公が男兄弟3人ということと、妙に深さを出そうとする方向へ走っていることで、もやもやの気分がおさまらず、賛否両論の作品となってしまった。その深みこそ妄想のタネであり、語られることのない余韻が楽しいと言う人もいれば、いきなり話がぶっ飛んで終わってしまったという読者もいた。個人的には、何かを言いたげであるにも関わらず、何も言わずに6巻まで終了し、まだ続くなーと思わせておいて、7巻でびっくりするほどネタを広げて去っていったという…不思議な物語だったと言いたいね。

確かに、女の子たちはかわいいというか、胸がデカくてムチムチ。好きな人は好きだろう。男の子たちは冴えなくて、らんま1/2のような、めぞん一刻のような、ふたりエッチのような感じ。それがまたエロく見えたりする。ただそれを楽しむにしてはインパクトはほとんどない。

ではストーリーがどうかというと、なぜか事故で死んでしまったはずのタイムがお坊さんの幼なじみ・祐天の不思議なお香(タバコ型)によって現世で実体化できているのが不思議で、現実離れ。やることなすことセージやパセリたち遺された兄弟のためにはならないであろう、お菓子作りの拒否。いったいなんでこの世にいるのか。彼のやり残したことは何なのか。早くしゃべれ!と思っているうちにいきなり終わった感がある。

何がしたいかわかりづらい

タイムは、お客さんのためにケーキを作ってやる気はさらさらない。セージとパセリ、自分の家族のためにお菓子を作っていればいいのだと言う。セージからすれば、お菓子の腕は超一流なのに、どうしてそのケーキを作ってお店を繁盛させないのか、納得できない。毎日開店していようとも休業状態の「なのは洋菓子店」とはいえ、お客さんはやってくることがある。誰かの心を助けたり、見捨てたり、タイムは本当に意味のわからない奴だった。

最後の7巻を振りかえってみてタイムの心境も少しは理解できるようになる。タイムは自分のお菓子を否定するお客さんがいたことで、イライラむしゃくしゃし、結果交通事故で死んでしまった。お客さんへの否定、おじいさんへの否定、自分への否定。いろいろな気持ちがごちゃ混ぜになって、彼は誰かのために作るお菓子を精一杯拒否する。ただ、それが兄弟たちの将来のためにはなっていないと気づいていて、自分ではない誰かに後継者になってもらいたいという気持ちがあったのも確か。そこで、セージが出てくる。お菓子を作り、長く続く洋菓子店を守ろうとする彼なら、もっと柔軟に、もっとお客様のためになるお菓子を作るはず。タイムにはその確信がなぜかあった。

それなら最初から、セージに作り方を教えてお店を繁盛させればいいじゃないか、って思うが、タイムの気持ちはそんなに誠実で正直でわかりやすいわけではない。お店が流行るということすらも、彼にとってはいろいろと確執がある部分。おじいさんのこと、自分を殺した耕作のこと、彼の力でどうにかできたことがあったのか?と考えると、何もないかもしれないよね。

単純に、裕天のお香を吸い続けるために、たばこを吸いながらお菓子を作っている姿を誰かにみられるのはまずいから、客を遠ざけている、と考えるパターンもあるみたいだけれど、あまりにおもしろくない。

タイムくんになくてセージくんにあるもの

十中八九、誰かを幸せにするケーキを作ろうとする、気持ちの部分だろうね。タイムがお菓子を作ると、どうしても作品になるし、人のためではなくて自分のためのようなケーキが出来上がる。セージにとっては魔法がかかったみたいに綺麗で、尊敬すべきものだけど、タイム自身にとっては価値がない。セージ、パセリが自分たちの足で歩いていけるように、いまこの世にいることをフルに活用して、死んでからももがきながら考えているのだ。

7巻でようやくぶつかりあった兄弟。セージは死んだ兄ちゃんが今この世にいるんだから、がんばってもらえばいいみたいに考えているところがあっただろう。そうれなければ、彼がこの世にいる意味がないって思っていた。兄弟を助けるためにここにいるんじゃないのかって責めたくなるセージ。タイムは死んだ人間なのだから、これからがんばるのはセージたちでなければならない。だからこそ、ケンカして、セージが気づかなくてはならなかったんだと思う。…たぶん。(作者の若木さんもどこに終着点を持ってくるかで相当悩んで、こんな中途半端なタイミングで終了することを決めてしまったのだから、結局どうしたかったのかはわからないけどね。)

タイムがワガママだったのではなく、セージもワガママだったというオチなんだろう。そして、お菓子への情熱は、セージのほうが強かった。柔軟に、おいしいお菓子を作る努力をすることができるタイプ。そして、確実に今命があって生きている。やらなくてはならない道は、セージにとっては1つだけだったんだなーって気づかされるのだ。

ショートケーキに始まりショートケーキに終わる

第1話では、ショートケーキを食べに来た苺ちゃんにケーキを一切食べさせず、なぜかブリュレをあげるという物語だった。…はっきり言って、全然関係ない。いったい何がしたかったのかわからない話だったよ。確かにブリュレは苺ちゃんを倒れさせるほどおいしかったみたいだけど、だからと言ってブログでいい事を書かれたわけじゃなかった。タイムがただお客さんに意地悪をして帰してしまっただけ。

しかし、ラストで苺ちゃんは華麗に戻ってくる。セージが作って大繁盛している「なのは洋菓子店」のショートケーキを食べに。しかしこれまたちょい役で、趣深くさせるような、感慨深くさせるような印象はまったくなし。「このお店、まだやってたんだ~」ってだけで、物語の深みはあまり感じられなかったね。

あれだけタルトタタンがどうだとか言っておいて、お店はショートケーキを作るだけのお菓子屋さんとして大ヒットをするのも、なんで?って感じで、変にうまく構成を整えようとしすぎなのかな?と思った。

駆け足かうまい具合か

ラストが駆け足だったなーという人もいれば、何とかうまくまとめたと言えるだろう、と言っている読者もいる。ラストに関しては、駆け足だったわけではなくて、いきなり紆余曲折なくズバッと切った、って気がするね。今までさんざん引っ張ってきて、小出しにもしてなかった情報を、いきなり大公開されてそのままタイムが自由になって終わってしまったのだ。わかったのは、タイムは自由になりたかったということ。セージがしっかりしているようで自分のことは何も考えていない奴だったこと。確かに、あーそうだったんだ、とは思うし納得もできたけれど、シリアスじゃない話が大量だった中で、最後がこれほど真面目なまとめ方をされるのは妙に気持ち悪い気がする。ギャグ路線を走っていたのにいきなり濃い展開がやってくるのが許されるのは、「銀魂」くらいだなーとつくづく思うね。

若木さんの作品は人気であるため、この考察しがいのある物語はけっこう話題になった。いい意味でも、悪い意味でも、話題になるだけやはり売れっ子と言ったほうがいいんだと思う。前作に比べれば流行らなかったかもしれないが、落ち込まないでほしいなと思う。

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