単なるラブコメファンタジー、バトルものではない噛めば噛むほど味の出る奥深さ
練りこまれたSF要素
この作品では、後半から、魔法世界の存在、未来人、異世界の存在、平行世界の存在というものがテーマとして取り扱われますが、こういったものを取り扱っているあらゆる他作品と比較しても、本作品は、これらのテーマに関して、かなり深いところまで切り込んでいます。例えば他作品の大半であれば、こういった異界の住人は、主人公サイドよりも圧倒的な力を所持していたり、とにかくぶっ壊れたいわゆるチートな能力者が多く出現したりということも多く、ただ強敵が現れ、その敵をどうやって倒していくのかといったところに重点を置かれているものが多いのですが、本作品では、現実世界(旧世界)の住人に対し、魔法世界の住人達の能力というものではなく、そもそも魔法世界に存在する人間以外の亜人や物質そのものが、魔法で生み出されたことによって成り立っている幻想であるという定義があり、この魔法世界そのものが、異次元の火星が膨大な魔力によって人工の異界と化したものであり、さらにはこの世界が近い将来、魔法力の枯渇の為、世界消滅することが明るみになってきたことに対し『完全なる世界』という勢力が本作のメインヒロインとも言える神楽坂明日菜に宿る力を使い、大量の亜人や魔法世界そのものを犠牲にしようとも、せめて魔法世界に住む人間の楽園である完全なる世界へ送るという計画が行われていきますが、これを主人公のネギが代替案としてテラフォーミングによって異界の火星を地球と同じ緑溢れる星に変え、魔力の源である生命を育める環境にすることによって魔力の枯渇を防ぐ計画を提案していくところで物語は結末を迎えていきますが、実はこの連載当時には、我々が住む現実の地球上、つまり、この文章を書いている私や、読んでくださっている貴方が住む実世界の地球上においても、都市伝説界隈のみならず、一般的にも、火星での生命の存在の可能性や、火星を人間が住める環境に整備し、移住をする計画といったものが取り上げられるようになった時期ともリンクしており、単なる漠然としたSF要素というよりは、より現実のものとリンクさせ、また、幻想世界の亜人や街並みが、創造主の掟という力でいとも簡単に消される描写の根源を読み解いていけば、そもそも我々が住む地球がいったいどのようにして誕生し、何故地球が誕生し、人間という生命体が生みだされ、何ゆえに争い、過ちを繰り返しながらも進んでいるのかといった壮大なテーマが実は隠されている点に、読めば読むほど気がつく要素が多く、そこまで掘り下げていけば噛めば噛むほど味の出る作品だと考察しております。
それぞれの正義ゆえの熱い展開
単に正義と悪といった構図ではなく、それぞれの登場人物にとっての正義や理想とするものがあり、また、その掲げる正義の中にも『本来はこうありたいが、現実はそう甘くはないので、こうするしかないのだ』といった思想が、超鈴音やフェイトの発言、行動からもチラホラ見てとれる部分があり、序盤こそ、東西のそれぞれの魔法勢力の抗争というありがちでチープな争いではあったものの、この時には既に少しずつ各キャラクターのバックボーンが明らかになっていく時期であり、物語としては大事な部分であり、こういった背景ありきで後半に差し掛かった時期には、我々の現実世界でも、東日本大震災がおこり、その際に原発の再稼動反対派と、稼動を継続しなければ電力の供給が維持できないとする意見。また、計画停電の話題もあがりましたが、実は都市部の人間の生活の維持の為に近郊の地方民が負荷を受けているのではないかという批判や、憲法9条改正の問題、北朝鮮の最高指導者の地位を金正恩が後継した後の混沌とした情勢といったものが浮き彫りになった後、大統領選を経てトランプ氏のアメリカ大統領就任という時代の流れがありますが、こういった激動の時代に作者の赤松健さんも思うとところがあったのか、物語が進むに連れ『君の気持ちもわかるが、譲るわけには行かないんだ』という心の葛藤や、単なる戦いだけでなく、各々が何を感じ、何を想い行動に移しているのかといった描写がかなり人間臭く描かれており妙にリアリティーがあります。特に、ネギが世界の真実という重たいテーマに直面した際にどう現実と立ち向かうのか。立ち向かってくる相手に対し、それをただ否定するのではなく、どうわかりあっていくのか。揺れ動く世界の情勢に対し、こういった考えや解決の道があるのでは?と思わせるぐらいに人間の心情をリアルに捉えていると考察します。
複雑に絡み合う伏線と、その奥深さと物語の入りやすさ
物語序盤は、非常にラブコメ要素やギャグ要素が多く、そういったものが苦手でなければ非常に入りやすい導入をしているにも関わらず、物語が進んでいくに連れて、それぞれのキャラの過去や背景。点として描かれていたものが少しずつ線になっていく速度、また、31人という多くのヒロインが登場しますが、それらをゴチャゴチャと出すわけではなく、ある一定の主要ヒロインをレギュラー化していくことにより、しっかりと肉付けされた生きたキャラが描かれつつも、そのメインキャラとの関連性や、それぞれの役割立ち位置が細部まで練りこまれている為、ただいるだけではなく、しっかりと個性が滲み出ています。よく、某国民的アイドルグループに対して、これだけ数十人単位の女の子がいれば、一人くらいは自分の好みの子がいるだろうなんて意見を小耳に挟みますが、まさしく、そんなヒロインが一人は現れるくらいには肉付けがされており、さらには、そんなヒロイン同士の関係性、また、この子にはこんな伏線があったのか!という場面に出くわした頃には、よりそのキャラへの愛も深まっていきます。前述のとおり、噛めば噛むほど味の出る作品で、中には、ネギ少年との冒険のなかで大きく成長していく少女もおり、軽く読んだファンとじっくり読んだファンとでは、作品に対してはおろか、各キャラに対しての評価さえ大きく変わってしまうほどにつくられており、あえて最後まで読み終えてこそ完結するカタチをとったであろうことが、かなり早い段階でフェイトを登場させていたり、そういえば、かなり序盤にこんなことがあったなと思わせる描写が、その何年も後に出てくる場面は、かなり作者のこだわりが見て取れます。改めて、噛めば噛むほど味の出る奥深さと考察します。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)