最初の段階で絶対気づかない展開がおもしろい
すごく想像力が豊か
種村有菜さんは本当に想像力が豊かな人だね。言葉遣いもそうだけど、世界観が変わってて、そこにファンがつく。特に海外ファンがすごい多くて有名。アニメ効果だろうか。お金持ち学校の中でも金銀銅のランク付けがあったり、コスチュームにも相当こだわっていたり、絵本の世界と現実をリンクさせるような表現を多数用いてよりドリーミーな世界をつくっている。想像力が豊かじゃないと、こんなふうには漫画を描けないと思う。たまに何のことを言っているのかわからないときもあるから、そこは思考の差なのかな。種村さんの世界がまだまだ広がっているようだ。とりあえずわかるのは、雰囲気を言葉にするのをすごく大事にしているんだろうってこと。
さらには多様に張り巡らされたものを、終盤までにきれいに回収していくのがずいぶんとお上手。序盤じゃ絶対わからなくて、後半になって「あれってそういうことだったのか…!」とわかる。全体を通して読んでいれば必ずわかるそのシーン…。まさかそこが…!と思わせるところにダークホースを置いている。
バイトしながら学校に通っている灰音の状況も、自分が居場所をお金で買っていたんだと気づかせるようにできているのが秀逸。お金で解決することに敏感だったはずの自分が、お金で家の中に居場所をつくっている気でいて、でも親はそうじゃなくて。ちゃんと、やっぱりオトナで親なんだなって思わせてくれるからさすが。よく思いつくなーと毎回感心させられる。
まおらが素敵
まおらがね…素敵なんだなー。あの感じだと、まおらはバイセクシャル設定かな。時にまおらであり、由貴であり、郵便屋さんでもある。郵便屋さんのときのまおらは本当にイケメンで、いつでも灰音を攫って行ってくれそうな気がした。灰音のことなら高成よりも間違いなく知っていただろうし、今でもトップシークレットな女子トークの部分はなおさらのこと。彼が生徒会のブレーンとしてうまく事を運んでくれたおかげで、事なきを得たことがたくさんあったね。
自分が好きな相手は真栗で決まっているけど、振り向いてくれない気もして、試してみたり、押してから引いてみたり…小悪魔ぶりを発揮するまおらも素敵だった。見事に振り回された真栗がおもしろかったし、恋した郵便屋さんすらまおらだったと知ってしまった後のぎくしゃくは普通にきつかったよ。うまくいかないかも…って不安もあった。
男バージョンのときのまおらが本当にイケメンで、賢そうで。真栗を攻めまくる甘い夜も見たかったなー…初めは絶対まおらが遊びまくって、でも大事なところはちゃんと真栗が決めてくれるのだろうって思っている。妄想だけど。
少し気に入らないことと言えば、まおらの姿のとき、どう考えても灰音や潮よりも背が低くて華奢だよね…ってことかな。リコールしたときのバージョンは明らかに背格好から何から、男って感じの体格だったし、いつの間に高成と同じ身長に?と考え込んで見返してしまったよ。
ヤンキー灰音を救った経緯が謎
閑雅との初対面は、まだ灰音が香宮家にいた小さなころに、高成が描いたんだけど閑雅が描いたことになっている絵本が大好きだと言ってきた…というシーン。あれがあったから、彼はヤンキーになってやさぐれてた灰音を救った。確かにその事実はゆるぎないもので、最初に恋したのは高成の絵本、次に恋したのは閑雅の人柄、恋を確かめ合えたのは…ってな感じで、どちらの人も好きな状態になってしまった。同じ顔、別々のタイミングで積もった好きの感情。どう清算したらいいのかわからないけれど、もはや手放すこともできない。欲張りではあるが、わからなくはない。
ずっと謎だった。たまたま再会したあの時の女の子が、目の前で金髪のヤンキー女になっている。そこであの優しい言葉をかけたのは、恋だったからなのか、気まぐれだったからなのか…。ラストでの双子の和解を考えると、もはや閑雅のヤンキー灰音を救った行為すら、いずれは高成に…と考えた兄想いの優しさだったのかもしれない。本人は何も言わないけれど、憎んで憎み倒して、最後に自分が死んだら、高成が生きていきやすいように、幸せであるように、願っていたのかもしれないなー…。
あれほど憎しみの言葉を吐いていたのに、それも全部愛情の裏返しだった。さすがに目つきから何から、怖すぎだったから、どうやってこのドロ沼を終わらせるんだろうって心配だったんだよね。うまくまとまりすぎて、驚きだった。
潮ラブ
これは好みの問題だろうが、どう見たって潮がかわいすぎる。黒目の多いあの瞳、好みすぎる。そして、小さなころから傷ついてきて、灰音に救われて、恋にも似た独占欲を覚えて、そこから生徒会の人たち・千里先生との交流を通して変わっていった彼女。しかも、千里先生にとっても潮は運命かのような出会いだったらしく…美しい物語だった。
もちろん、フォルムも好きだけど、言葉が少ないところ、少しずつ友達の輪を広げていこうとしていること、普段どれほど灰音よりも頼れる存在であったとしても大事なところは灰音にいつも従ってしまうところ…不器用な彼女は本当にかわいい。千里先生は、まずその見た目で持って行かれただろうけど、知るほどに潮にハマり、溺愛していく姿がこれまた萌すぎだった。いびつでも、いびつだからこそ、君を愛したいと思う。もうね、ドキドキしっぱなし。灰音と高成がふざけている間に、こっちは違った部分で心を通わせている。ドキドキの割合でいけば、潮がダントツ、2番目は和仁様と灰音の母親であるマイカ様、3番目はまおらと真栗、4番目が緑香さんと樹さん、5番目が草芽と小牧、灰音と高成は最終6番目ってところだね。色気とか、切なさとか、狂おしいくらいに君が好きだ…!って気持ちの強さを考えたら、全然灰音たちとは別格のすごさがある。まだまだ子は親に勝てませんな。和仁様の表情の変わりよう・まさかの妊娠…!何歳になっても愛しまくるんだろうなー素敵…。
絶対ハッピーエンドに持ってくる
種村有菜さんの作品では、絶対ラストは上手い具合にハッピーエンドになる。今作も、まさか悪役ポジションだった人がこんなにいい人だったなんてね。まるっとハッピーエンドによく持って行ったなーと思う。影武者制度をなくし、兄弟が憎みあうことのない一族の繁栄を目指す。影武者制度なんてなくたって、大丈夫だって。争いあうことなく、あたたかく育てることのほうがずっと大事で、それを知っているからがんばれることがある。まぁ、辛い経験をした分だけ、これからの関係性を大事にできるという意味では、ものすごく意味ある試練だったのかなーという気もする。
ヤンキー姿の灰音はさすがに怖くて、憂いあるヒロインとは言えない感じだったけれど、種村さんのつくる作品のヒロインではよくあること。表情がくるくると忙しく変わる元気なところ、どこか切なげで、常にロマンチストで、若干ウザい気も…というヒロイン。妙に駄洒落に反応するとか、ボケてすべるキャラはいつも健在だなー。なんといっても、ジャンヌのころから絵も進化していて、扉絵の気合いの入りようといったらすごい。それを楽しみにしちゃっているファンもいるくらい、衣装から表情から、今作も美しさがあった。
灰音の恋は家の問題と切っても切り離せないところにあって、どうしても複雑なものになってしまう。それをぶち壊すことができて、一安心。高成は素直になるまでに時間がかかった分、デレるようになってからは愛しすぎたので、良しとする。
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