藤田まことさんの後を引き継ぐ田原さんの演技に注目 - 必殺始末人の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

必殺始末人

4.004.00
映像
4.00
脚本
3.50
キャスト
3.50
音楽
4.50
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

藤田まことさんの後を引き継ぐ田原さんの演技に注目

4.04.0
映像
4.0
脚本
3.5
キャスト
3.5
音楽
4.5
演出
4.5

目次

主水のいない江戸の街

藤田まことさん演じる、主水は亡くなってしまった設定になっており、この作品では登場していない。あまりにも強烈なインパクトを残した藤田さんの演技を果たして超えられるのか?そんな期待がかかったこの映画で、田原さんは苦労したのではないだろうか。田原さんを見ると、どうしてもジャニーズの笑顔が頭に浮かんでしまってストーリーに入れないと言う人もいたし、イメージをどう覆して新たなキャラクター山村只次郎での仕事人にするのか。それも期待された作品だった。

蓋を開けてみれば仕事人らしく振舞っている田原さん。役にしっかりと入り込んで、浪人として世の汚いものに目を向ける仕事をする難しい役柄をよく演じ切っている。むしろ田原さんのジャニーズ時代を知らない、現代の人がこの映画を観れば、普通にこういう役者さんなのだろうと思えるはず。

舞台は江戸の街で、主水という最強の仕事人がいなくなってしまった街。誰にもその存在が知られていなくても、同じように闇に紛れて法で裁けぬ人間を裁く仕事は自然とまた生まれる。人が人である限り、どこにでも悪は生まれてはびこる。新たな仕事人の誕生と、決してきれいごとだけでは済まされない刹那も表現したこの「必殺」シリーズは、何度もリメイクされるほど、人気の高い物語。驕らず、気取らず、粛々と仕事に向かう彼らの、少し悲しい表情や、いいことをしたとは決して言わないその姿に、胸を打たれるものがあるはずだ。

薄汚いタヌキ

この映画では、白鳥右京といういかにも悪そうな名前の男が黒幕。浪人の山村只次郎は、男にしつこくつきまとわれて困っているという娘を助けようと、はずみでストーカー男を殺してしまい、南町奉行所へぶち込まれ、死罪を言い渡された。しかしそれは、右京が只次郎を闇の暗殺稼業の捨て駒として引き入れるための巧妙な作戦だったのである。右京は自分の罪もあるからと、生かしてくれた右京の仕事を引き受けて仕事をするが、それがもっと大きな悪事につながっていたことが発覚。しまいには用済みとして消されそうになる。

おなじみの悪代官。どの時代劇のシリーズでも、必ず役人の中に悪代官がいて、賄賂とともに人の命をぞんざいに扱うのが定番だ。この作品においても例外はなかったが、味方のふりをしてこれほどまで主人公の近くに接近し揺さぶりをかける悪代官はなかなかない。時代劇においては、ラストまでその存在が明らかにならずに、証拠をつかんだところで「成敗いたす!」となるもの。逆に命を取ってやる!と迫ってくる悪いキャラは、水戸黄門にだって出てこない。

それにしても、薄汚いキャラクターは必ず政治をからんでいるふうに描くのが時代劇だよね。確かに、いかなる国であろうと、頭がいいからこそ薄汚く、お金があるからこそ薄汚いと描かれることが実に多い。そのせいでお金に対するイメージも相当に悪いものになっている。がんばって働くクリーンな政治家なんぞいるんかな…って悲しくなりつつ、そのおかげで生きていられることも感じながら、どこまでの悪を許し、どこからを許さないと決めるのかは、実に難しいなと思う。

型破りを表す奇抜スタイル

普段は街に溶け込んでいる只次郎、リュウ、かもめ。只次郎はただの浪人だけど、かもめとリュウに関しては夜に紛れぬその奇抜すぎるスタイルがいつも気になってしまう。かもめなんて、南野陽子のおみ足を見たかったんだろう?あんな半ズボン履かせてヒザ下ばっちり見せてさ。のちに登場する東野さん主演の仕事人のときは、松岡がその針刺しのキャラクターだったけど、別に半ズボンじゃなかったもの。赤と紫の派手な着物に身を包み、頭巾をかぶって静かに針を刺すその殺しは、暗殺っぽくていいよね。なんで死んだか、当時の人ならわからないまま自然死ってことで処理したかもしれない。

リュウは忍者らしく、水の中から、屋根の上から、なぜ音がしないのかわからないが、闇に紛れて小刀で一刺し。長髪で寡黙・ぼけっとしているようで情に熱い、リュウは本当にいいキャラクターである。かもめほど奇抜ではないけれど、殺しが奇抜だと思う。抜き足差し足で音は消せるのかもしれないが、さすがに水って無理じゃない…?そうとう近くで水の流れが急な場所があって、ドバドバと大きな音が出ていたのかもしれないけど…そして、首を一突きされて、血が噴き出るでもなく、また下人がそいつを運んでいくのも滑稽で…奇抜だよね。

かもめとリュウは一発で殺しを完了させるが、主人公の只次郎はそうはいかない。ラスボスを殺さなくてはならないため、少し勿体ぶる。奪われた命の分すべてを込めて、日本刀でぶった切るところは、なかなか鋭く機敏な動きができているので、田原さんをちょっと尊敬した。格好は浪人らしく一番まともな只次郎。殺しは豪快にド派手だ。

おなじみのテーマソングにのせて

仕事人シリーズと言えば、殺しに赴くときのあの音楽。あれがなければはっきり言って仕事人じゃないって言うレベルまでいく音楽だ。今までの恨みつらみが全部吹き飛んで、ただ敵を殺すことにだけ集中し、他の何ものも寄せ付けない雰囲気で殺しを遂行する3人は、カッコ良くすら映る。

やっぱり藤田まことさんが主水を演じていたときのインパクトや、話の深みは少なかったのかもしれない。それでも、変わらぬテーマソングと、地味だからこそできる真面目な演技が自分はとても堅実で見やすいように思う。

意外と大事になるのが、おとらのポジション。この作品ではなんと樹木希林さんがその役を演じており、ここだけ大御所感がハンパないことになっている。さすがは樹木希林さん、殺しの仕事を紹介し、金をみんなの目の前に置きながら、世を憂いて言葉を吐露する。その姿と雰囲気が様になっていた。そして、残ったお金をほくそ笑んで懐に入れる姿から、人殺しであろうと仕事であること、どこにでもお金は発生する事、たとえ地獄に堕ちようと生きていくために働いていることなどを感じられる。只次郎、リュウ、かもめが仕事をもらうとき、笑っている人は一人もいないんだよね。これから人を殺しにいく。その決意とか、覚悟みたいなものが感じられて、おとらから仕事を引き受ける、あのシーンが一番好きだ。そしてここから新しい仕事人のスタイルが決まっていったんだよなーって思って感慨深い。

東野さんにも引き継がれる

田原さんのシリーズも終わって、のちに藤田まことさんも含めた東野さんの新しい仕事人が始まることになるが、そのときのプレッシャーと言ったら、ハンパなかったらしい。大先輩たちがつくってきたものを、どうやってこれからより面白くしたらいいんだろうって…困ったよね。古いものと新しいもので違うところと言えば、新しいものでは、仕事人でも家庭があり、前向きに生きている感じがより強くなったことだと思う。前は、闇に紛れて、裏家業をする者らしい、薄暗い表情が多かったけれど、東野さんでそれは新しい世界に変わっていた。同じものでは、やっぱり藤田まことさん、田原さんがつくった仕事人には敵わないからね。みんなそれと比べて、深みや、シリアス感や、演技の巧さを比較してしまうもの。

時代劇は展開が序盤で完全にネタバレしてしまうし、ストーリーもどれだけ長くても80分ちょっとくらいで終わる構成になっている。わかりやすいのがいいところではあるが、何作も続くと若干飽きがやってくる。それを毎回どう工夫して面白くさせるか?が難しいところで、仕事人シリーズではそのあたりを一生懸命やってくれている気がする。動機はシンプルなのに、殺しを覚悟するまでは大変な葛藤があるもの。それが当たり前になってしまっては怖くて、地獄に堕ちるとわかっていながらそれを生業とする者たちがいたことを、少し悲しげに見せてくれる。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

必殺始末人が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ