初っ端から犯人はばれている
双子コンプレックス
つばさにとってのありさは自慢の妹。かわいらしくて、勉強ができて、お互いを大切に想いあえる気持ちのいい関係。両親の離婚で離れ離れになってしまったことで、文通だけの付き合いだったけれど、手紙の中に語られている話はどれも楽しかった思い出ばかりだ。久々に再会できることが決まり、ありさの家に招待され、そして…ありさはつばさの目の前で自殺を図るのだった。
なんだこの展開。これほどかわいいイラストなのに、内容が怖すぎる。姫椿中学校でいったい何が…?まさかの推理サスペンス。しかも学校のクラスの中で巻き起こる、より陰湿なタイプだ。ありさが自殺未遂をするまでに追い詰めたのが何だったのか。それを突き止めるためにつばさは姫椿中学校2-Bに潜入し、ありさとして学校生活をしながら黒幕探しを始める。外見上は気づかれないだろうが、さすがに彼氏は気づくだろう…?しかし気づかれない。もはやこの時点で、犯人は緑なんだろうなと気づいたよ。
物語が進むにつれ、話は大きく動いていく。なんでも願い事を叶えてくれる王様はいったい誰なのか?仕組まれたストーリーは絵に似合わず巧妙で、驚きを隠せない。犯人がわかっていたとしても、そこにたどり着くまでのフェイクがたくさんあるのは推理小説っぽいと言える。さすがに殺人まで起きたのは…どうかしているが、緑はさらにデカいものを狙っていたからね。
最終的には、つばさに対するありさの想いもきっかけの1つになっていて、無関係とはいえない双子のコンプレックスみたいなものも感じた。同じ時間に生まれたのに、やっぱり別の人間。お互いを鏡に似ることもあれば、敢えて離れることもあったりするらしい。ありさがそもそも始めたこのゲームは、ありさに罪がないとは言えない。それを、つばさへのコンプレックスとして、うまくいかないことへの当てつけにされたのでは、ちょっと性格悪すぎる。
ラストまでの道のりはうまし
ありさがつばさになりすましていることに気づいていないふりをしている緑。あの嘘くさい笑顔と優しさが気持ち悪い…なのにつばさはよかったーバレてない!って安心している。おいおい恋人だぞ?バレないほうが奇妙だぞ?
途中までレイの暗躍がすごくて、その先の黒幕までたどり着けないようなストーリー展開になっているのが上手だった。いかにも悪者顔な人物よりも、一見優しそうな味方がてのひら返しをしたときのほうが数倍怖いんだよね。これは定番だ。なんでも願いを叶えてくれる「王様」を信じ切っている大衆効果のほうが恐ろしくはあるが、それを作り出すのはいつも誰か人なんだろうと思う。2-Bのクラスメイトたちのお願い事のエスカレート具合がひどい。最初はかわいいものだっただろうが、なんでも叶うと分かれば、誰かを傷つけることや、奪うこと、死に追いやること…どこまでも求めるものが大きくなっていく。願うことは自由で、実行した者だけが悪いのか?実際に行動しなければ罪にはならないのか?そんなことを考えてしまう。結局は、この2-Bから追放された人たちのほうが幸せになれると思うよ。毬子も静華も転校することになったし、これからは普通の生活ができるね。
ありさが最も大きな被害者である、というカモフラージュがあり、実は事の発端はありさ。そして、ありさの行動が導かれた原因には、つばさという双子の存在と、コンプレックス、寂しさがあった。小さな罪が、大きな罪を呼ぶ。かわいいイラストなのに巧妙な展開だったと思う。なんでも願いを叶えてくれるなんていうものは、インチキだ。願うより自分でどうにかするしかない。
ラブストーリーは抑えめに
せっかく真鍋とつばさが出会い、協力してゲームの首謀者を暴こうとしてきたのに、恋は芽生えなかったね…。ドキドキしながら結ばれる展開を今か今かと待っていけれど、真鍋はありさにほれ込んでいて、つばさを向いてくれることはなかったな。つばさと真鍋は思考が似ているし、行動力がある性格も似ていたので、お似合いだったと思う。さらに、真鍋が病院送りにされてからは物語の中心から外れてしまい、ほぼつばさ1人で乗り込んでいった形。影が薄くなるとともにつばさが選ぶパートナーはありさということになった。ピンチになるたび、必ず真鍋は飛んできてくれたから、最後までヒーローなんだろうと期待していただけに、残念である。
ありさには、つばさの友達である健がドンピシャ。明るくかわいい健なら、ありさの闇も全部照らしてくれそう。つばさと長く仲良しコンビを続けてきた健だからこそ、ありさとうまくやれると思ったんだよね~。物語の続編があれば、間違いなくその組み合わせでよかったと思っているよ。
個人的には、つばさがまさかの緑を改心させて付き合うようになる…っていう展開も想像してしまった。つばさなら、緑のダメなところも全部理解して受け入れてくれそうだし。妄想は大きく膨らんだが、本編では恋愛面はさほど広がらず、ありさとつばさの双子がどのようにして歩み寄り、ハッピーになれたのかを描いていた。何より、真鍋がハッピーになれなかったことが悔しい。
SNSの恐怖
この漫画の中で描かれている掲示板は、まさに現代っぽい。しかし、実際に行われる行為は、必ず誰かがやっているわけで、神様とかネットがやってくれるわけじゃない。ネットがやってくれるのは、炎上や誰か一人を孤立させること、もしくはもてはやしてつるし上げることだけだ。それすらも、人の手によって為される。インターネットの上だと、なんか人がやったって忘れるよね。しかも、SNS上で叩かれるのって…妙に痛い。声という音としてでなく、文字として攻撃されるほうが、もしかしたら最強なのかもしれない。
王様探しをしたり、逆らえば必ず罰が下る。粛清されるよりもお願い事をしてやり過ごそうっていう彼らは怖い。緑1人で監視してたわけではなくて、その下にカモフラージュの人たちがたくさんいたから、誰かが裏切れば天罰が下るようにコントロールできたんだろうね。職員室でもいいし警察でもいいから、個人プレーで動いてどうにかすることができたんじゃないのかと思うけれど、幹部が嘘をつけばバレないし…システムがうますぎて怖いわ。
姉妹の愛でシメ
恋愛は控えめなので、少女漫画としてよりは、推理漫画のゆるいバージョンだと思って読むとちょうどよい。
緑に関しては、過去は悲しいものだった。双子の大切な弟を虐待で失った悲しみ。母親への憎悪。だからこそ、ありさとつばさを見て傷つけたくなったのかもしれないね。自分は得られなかった幸せを、同じ双子に重ねてしまった。さらには、母親に対しても、本当は誰より認められたいという気持ちが強かったことも伝わってくる。恵まれた頭脳を持っているのだから、彼にはまだまだできることがあるはずだ。
犯罪解決シリーズの漫画では、たいていが、何らかの犯罪を犯す人は、子どものころに負った心の傷が影響していることが多い…という設定だ。いろいろなパターンがあるにせよ、どう育ったかで大きく人生は変わると思う。これは間違いないことだ。そこをバネにより正しくなろうとする人もいれば、悪くなろうとする人もいて、最終的には性格もあるだろう。それでもありさとつばさみたいに、お互いを想いあえる家族をつくりたいものだ。少しせつないラストだったが、深く思考を巡らせることのできる物語だった。
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