最後の最後までかわいくてイケメンだった
全部を中和してくれる方言たち
これは、もはや心と千登勢が標準語しゃべってたらおもしろさ3割減になるくらいの影響力がある。最初から最後まで究極に訛らせているのは新しい試みだなと感心するね。完全に東北弁だから驚くが、東北出身者としてはありがたいと言わざるを得ない。だって東北の訛りは敬遠されるから。すっごいイケメンとすっごいかわいい子なのだが、ギャップ萌。心なんて訛りが究極すぎてしゃべる言葉が制限されてる始末。かわいすぎる。
福島の人からしてみれば、こんなに訛っていないと言いたいだろう。でも、よく考えてみてほしい。…読んだら理解できるだろ…?これ、都会の人が読んでも若干分からないワードがあるんだよ。そこを難なく読めるのは東北の人だからこそだと気づいておいたほうがいい。おばちゃん・おじいちゃんたちからの魂が脈々と受け継がれているということを。
心の姉や親に関しても、しっかりと訛りは隠さない。見た目が美形ぞろいで、心をいじっておもしろがりつつ、血がつながっていないとか、母親がどうだとか、いろいろ複雑な状況。それでも応援に来てくれる家族は、あったかいとわかっておかないとね。
慣れてくれば千登勢と心の訛りはもはや2人だけのコミュニケーションツール。その言葉でなければ伝わらないものがいっぱいあるんだろう。バイリンガルを楽しむと思って、しっかりと読み届けてほしいと思う。
とにかく主人公たちの魅力に心打たれる
物語の始まりですでに出会ってしばらく経ったところを描いている。安定感があって、絶対好き同士。やきもちも不安もピュアそのもので、お互いをつないでいるのが小さなころの故郷での思い出だから、2人は常に…子ども。沢田さんがやきもきするのもよくわかる。
千登勢のかわいさは、お団子をおろしたっておろさなくたってばっちりだ。コロっと小さなそのサイズに、真ん丸の大きな瞳、しっかりと前を見据える意志の強さと、心のための努力を惜しまない姿勢、さらには疲れがたまると熱を出してよく寝込むという…かわいがってあげたくなるもの全部詰め込んでいるのだ。小さくてきれいじゃないことをコンプレックスに思っていたようだが、そんなの好みの問題やねん。
常に千登勢に嫌われたくない・好かれたい・付き合いたいと一生懸命な心は童貞そのもの。心は中学生で止まっている…苦労するね沢田さん。しかもアニオタでけっこう手が付けられないメンタルの弱さを持っている。イケメンの無駄遣いみたいな人だが、千登勢の応援さえあれば、吹っ切れてフィギュアに打ち込み、間違いなく成果を残せるすごい人物だ。
お互いがはじめはお互いの存在が無ければ生きていけないような状態だったね。千登勢がそばにいてくれなきゃできない・心がいてくれなきゃ心が満たされない、そんな依存関係にあったと思う。小さなころの思い出がすべてを支えてくれていて、いつまでもそれを手放したくないと思っているようだった。結局お互いに自信がなかったんだよね。そこから自分の持っているもの・手に入れたいものを見つめ直して、心はリンクに立つ。千登勢のためでもあり、そして自分が心の底からやりたいと願ってからが、スタートだったんだと思う。千登勢が病気と闘うと決めたのに、男の俺ががんばらないなんてことは絶対にしたくない。頑固で意地っ張り、千登勢を誰よりも大切に想い、自分が支えたいと願う。そんな心が好きだ。
フィギュアスケートを学ぶべし
これはもう作者の小川さんがフィギュアスケートを好きすぎるんだと思う。巻末の詳細な語句集がとってもお役立ちで、ファンのマナーまで学ぶことができる。そんなのテレビ見ているだけじゃ絶対わからないところですけど…?という部分までつっこんでよく作られているのも素敵だ。
前作の「キス&ネバークライ」のときもフィギュアスケート(というかアイスダンス)がメインに描かれていて、いろいろ説明されていたけれど、今作はよりみっちりと学ぶことができるだろう。物語の内容的には別にそこまで突っ込んでいるわけでもないのだが、とにかくファン目線の情報量が多いように思う。もちろん、技、得点もそうだが、ファンの期待する選手同士の友情や首位争い、私生活の部分にかなりフォーカスしている。
また、四方田晶が出てきてくれているのも嬉しいところだ。別にいい働きするわけでもないけど、心の成長を見守ってくれているのがよくわかるし、モモから始まって男性キャラがどんどんつながっていってくれるのは、読者にとっては嬉しい構成だろう。
ケガをするっていうのがどういうことか、本作を読むとよくわかる気がする。落ち込んでいるけれど、落ち込んでいないような気持ちにもなるし、何かをきっかけとしていつでもぷっつり切れてしまう予感もさせる、フィギュアスケート。いかに精神的な強さありきなのかを感じる。一発勝負で、そこでたたかうその瞬間は一人だけ。つらくても痛くても笑うその姿。もうフィギュアスケート選手がなぜ人気になってしまうのか、わかってしまう。
愛ある人に支えられて
心と千登勢は両想いだった。でも、盛山さんと沢田さんがいなかったら、絶対にうまくいっていない。このことだけは覚えておかないといけない。
盛山さんは、心の父親に雇われたマネージャーではあったが、常に心を見守り、叱り、時には落として、時には持ち上げて、メンタルを本当に強くしてくれた。そして、千登勢を利用すると言いながら、千登勢自身の気持ちを尊重して、見守り続けてくれた。そんな盛山さんだったからこそ、千登勢はがんばることができたし、心も結果的には気づいたら成長させられていたのだ。ドSの女王として副業もしながら、心のマネージャーとして数々の策を講じてきた彼女。最終目標は心をフィギュア界で輝かせることだっただろうけど、心の気持ちも、千登勢の気持ちも、大事にしてくれて本当にありがとう。いつか盛山さんにとってのご主人様が登場することを願いたい。
そして沢田さん。当初、これは完全に当て馬として盛大に邪魔をするキャラだろうと思っていた。本当にごめん。沢田さんが引っ掻き回していたのではなくて、結局は千登勢と心の言葉足らずのすれ違い。そこを沢田さんがいつもつないで、絶妙にアドバイスをくれて…そのおかげで2人は成就できたんだよ。自分も不倫しながらで大変だったし、千登勢という人間に支えられていた部分もあっただろうけど、去り際から普段のジェントルメン行動から、何から何まで君は名脇役だった。ただの当て馬なんかじゃない。恋のキューピッド野郎が沢田さんなのだ。
たくさんの障害を乗り越えて
千登勢は自分の心臓の病気と向き合い、心はケガと手術を克服してオリンピック出場を果たす。これまで大変だったね…付き合ってても、いろんなことを乗り越えていかなきゃいけないってことを学んだね。ただの寂しさや苦しさを慰めあう関係ではなく、本当に相手を想って、誰よりも尊重してあげられる。そんな素敵な関係になったと思うよ。
最終章に入ってからは、すっかりオロオロしなくなったね。自信を持って、今目の前にある自分のやりたいことを一生懸命やっている。それが伝わってくるようになったよ。お団子じゃなくなった千登勢も、大人になったなーと思った。ぎゅってしてほしいとか言ってたのが嘘のように、2人の愛の営みはとてもきれいで、美しいシーンだった。DT卒業おめでとう心。
微笑ましく、楽しすぎた11巻の道のりだった。あっという間に通り過ぎたねーって思ってたらセリフにも出てきてビビったわ!心と千登勢のかわいすぎる物語。何回でも読み直したい。
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