自分の意見をはっきり言えるってすごいこと
毒舌とも違う芯の通った誠実さ
聖なる学校を追われた悪魔、可愛マリア。彼女は転校先のクラスでもその“悪魔”ぶりを炸裂させ、凶器にも近いその誠実なメッセージでクラスの歪みをぶった切る…。
マリアは美しく、歌が神がかり的にうまくて、羨望だけでなく妬みすらも惹きつける。ていうか、転校してきたクラスがすげーところだったんだよ…こんなクラスあるんかい…いじめだけじゃない。裏切りと、まさかの“偽善”、妬み、そして恋する気持ち…渦巻いている。どんな学校にだって渦巻いていることなのかもしれないけれど、露骨で、痛々しい、そんな状況をうまく描いている。
マリアはとにかく鋭い。気持ちを敏感にとらえることができ、予想ができ、心に秘めておきたいことをそのままの言葉で伝えてしまう。それを受け入れがたいクラスで、マリアは一気に孤立。イケメンな人からは気にかけてもらっていることから、女子からのいじめを受けることになる。それでも、甘んじて受けようとするマリア。「正しいことを言っただけだ。それでも私はみんなと仲良くなりたい。」…響くよね。こんなふうにぶつかってきてくれる人を、友だちに持ちたいって心から思うよ。
確かに、正直であることはきっと正しい。だけど、誰かを傷つけてしまうこともあるね。本音と建て前という言葉があるが、誠実に生きていきたいと思うのに、嘘をつかなければならないときもある。そんな自分を許せなくなる時さえあるのに、自分を守るために嘘をつかなければならない…そんな曖昧で弱い人の心を揺さぶり起こしてくれるのが、マリアだ。確かに誰かを救うことがあるのに、誰かを傷つけてしまうこともある。でもそれは、マリアを知らないからで、知れば知るほど、理解できるはずなんだと信じたくなる。苦しくても、1つ1つに真剣に向き合わなければ、マリアのような人間にはなれないかもしれない。
答えがあるのかどうか
最初こそ、みんな辛かっただろう。マリアにつつかれ、自分で目を背けてきたものに無理くり正面からぶつからされて、闘わずにはいられない状況になってしまう。これは、本当に大切な経験で、この経験のある大人とない大人では成熟具合が全然異なる。高校生でこんなつらい経験ができたこのクラスは、きっと大きく羽ばたくに違いないよ。大人になったら、振り回されて、騙されて、自分を守るために自分も嘘をつかなければならないと覚えていく。慣れてしまえば、それは当たり前になって“大人の事情”と呼ばれるようになる。そんな醜いもの、できることなら覚えたくもない。本気で向き合いたい相手に対してどう行動するべきか?それを示してくれたのがマリアなのだ。
合唱コンクールが成功するまで、本当にマリアもクラスメイトも辛かったね。分かり合いたいと思っているのに、心はどんどん離れていってしまうような、そんな気持ちにさせられた。
お互いに譲れない部分があったっていい。だからこそ、ぶつけ合って分かり合うことだって必要なんだ。そんな強いメッセージを感じるね。かなりの荒療治だが、マリアは本当に聖母様のようなポジションだと言えるかもしれない。何が答えなのかもわからないけれど、いいところがあると少しでも思えるのなら、道は閉ざされてはいないのだろう。答えなんてないから、正直に伝え合いたい。
誰かを思いやるってどういうこと
嫌だろうから伝えない、と決めること。そして間違っているから教えてあげよう、と決めること。どっちが正しい?どちらがその人のためなんだろうか?その選択肢の先に、関係性の終わりに繋がるものもあるだろう。マリアは絶対、間違っているから伝えてあげようとするね。言葉で遠慮したら、間違いなく伝わらないかもしれない。そのほうが、マリアみたいな性格の子には許せないことなんだ。一方で、嫌なことを避けたいと思う人間もいる。できるだけ波風立てないように生きたいと思う人だっているのだ。どちらが正しいか?ということじゃなくて、その時々で、お互いが選んでいなければならないんだよね。
思いやるっていうことは、相手にいい方向に進んでもらいたいと思うから行う行為だろう。それでも、どちらも同じことを望んでいるのに、アプローチが全然違う。何を大切にしたいと考えるかも、人によって全く違うのだ。そう考えると、もうあらかじめ私はこういう風にコミュニケーションをとる、と宣言したほうがいいんじゃないだろうかと思う。空気で伝えるより、言葉で、間違いなく、相手の目を見て伝えることが、まずよい関係性を築くために大切なのではないだろうか。
先生が腐ってた
担任の先生…あいつだけは絶対に許せない奴だ。自分が楽に生きていくことだけを考えて、自分で選んだはずの仕事を放棄して、誰も救わず、関係ないと言い切る。あんな奴こそ消えればいいと思うね。教える側の責任は重い。だからこそ、まっすぐでなければならないと思う。というか、まっすぐでいようと心がけられるような人が、なるべき仕事だなと思うね。子どもだった馬鹿じゃない。きっとおかしいところは見抜いてしまうよ。年齢を重ねるということを、もっと大切に、有意義にしていくことだけで、自分の事も周りの事も助けるのではないだろうか。
ここまでくるとね、もはや自分自身の生活を見直してしまうよね。人の事考えて言葉を選んでいるんだろうか、自分が誰かを傷つけた可能性がなかったか、自分を守るために相手を傷つけてしまったことがないだろうか、とういうことをぐるぐる考えて、苦しくなって。優介も目黒も、いじめ女子だって先生だって。みんな、マリアのおかげで向き合う勇気を持てた。読者も、向き合う勇気をもらえたね。年齢関係なく、悩む問題であるため、誰も答えを知らないし、教えてくれないんだよ。自分の足で立つしかないんだ。もしこれから2つの選択肢で迷ってしまうときがあったら、より正しいを選ぼう。
ラストはすっきりしない終わり方だった
マリアにとって大切な人…それは目黒なのか、優介なのか。最後の最後まで、どちらに転んでも納得がいくなーと思える展開だった。優介はマリアと誰よりも一緒にいたね。目黒はマリアの苦しいときに必ずいてくれる人だった。どちらもマリアのおかげで進めた人であり、マリアも優介と目黒がいたからこそ、クラスのみんなと打ち解けて、友達をつくって、学校生活を豊かにすることができた。だから、どちらか一方を選んでしまうことは、とても難しい問題だったと思う。
目黒をパートナーとして選んだのは、まぁよかったとして。でも一緒にいることは選ばなかったのが納得できていない。アメリカにいっても、友だちは友だちでいられたはずなのに。それに、アメリカのほうが文化的に分かり合えることもあったんじゃないのかな。優介も目黒もキープ状態なんじゃないの。
優介とは、結局一緒にいる時間が一番長いことになるね。目黒は、大事な時に一緒にいる。そのスタンスが全然変わらないまま終わりを迎えることとなった。マリアにとって幸せなのは、自分が大切にしたい人が幸せでいてくれること。そして自分が友だちの近くにいれることなんだろう。
結局は、ラブソングとはいえ、ラブの意味はもっとライトなものだったんだろう。孤独なマリアが人に囲まれるようになっていく。それまで描く物語だったということだ。ドロドロなクラス状況は辟易したけれど、言いたいことはすっごく心に響くものだった。誠実ってどういうことか、考えたくなるお話である。
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