正直であることも使い方次第
毒舌とまた違う深さ
可愛マリア。聖なる学校から追放された女子高校生。彼女の転校してきたクラスは、いじめ、裏切り、偽善、無関心…ネガティブなモノの集まりのようなクラスでした。マリアはその美貌で周囲を惹きつけ、同時に妬みも引きつける女性。そして、その正直すぎるモノの言い方で人を遠ざけてしまう女性…彼女が、どうやってこのクラスの人たちと共に学校生活を送っていくのか・お互いが持つ闇をどうやって取り払っていくのか。これがこの漫画のメインテーマであったように思います。
マリアはとにかく感が良く、ズケズケと本当のことを正直に話し、誠実であろうとする人です。こういう人、割といると思います。ただ、その誠実さがまぶしいとか、苦しいとか、感じてしまう人が多いんですよね。みんな誰かに何か後ろめたいものを持っていて、それは他人に打ち明けられないものもたくさんある。受け入れてもらえないことが怖くて、ひた隠しにして、同調して、自分の居場所を確保しようとする。そういった壁の一切をぶち壊していくのがこのマリア。相手の図星を突き、正直な気持ちを自然と引き出してしまう強い言葉は、毒舌とはまた違って聖なる剣みたいな気がします。
ただ、この剣はまさに諸刃の剣で、誰かを救うこともあれば、傷つけることもたくさんありました。というか、ほぼ傷つけたと思う…。傷つけて、自分も傷ついて、そしてお互いの正直な気持ちをさらけ出して、お互いのためになる道を歩もうとする。マリア自身も、クラスのみんなも、傷つけ傷つけられて心が成長していきました。偽善と善がどう違うのかとか、正しい思うことが本当に正しいのか・誰にとって正しいのかとか、考えさせられることがたくさんありましたね。
最後は正しいことが勝つのか
ズケズケとマリアに言われまくって、最初はみんな辛かったことでしょう。見たくないからと見ないふりしてきたものに向き合わざるを得なくなる辛さ、それに直面して戦わなければならない辛さ。こんなのは、大人になってからのほうがたくさんあることで、高校という限られた時間・限られた空間の中で起こることなんて本当に容易い。でも、限られているからこそ、その分色濃くなるんですよね。強烈なインパクトを残す。大人の都合に振り回されても、友だちと呼べる人に恵まれなくても、生きていくためにこの社会に溶け込んでいかなくてはならないこのジレンマも…経験した人としない人では全然厚みが変わってくるからね。彼らはきっといい大人になるだろうな~…マリアにぶっ壊されたおかげで、このクラスは、この学校は、新しくなれたんじゃないかなとすら思えてきます。合唱コンクール編の最後で、マリアの歌声のおかげでやっと一つになったクラス。教師ですら、いろいろな汚いもの・自己中な想いを置いといて純粋に子どもたちを信じようと思うことができました。
年齢なんて関係なく、人を動かすのは人であり、感情であり、知性であり…その時代にあらゆる人が正しいと信じて疑いすら持たなかったものも、いつの間にか薄れてなくなってしまうこともある。これが正しい方法ですと言われて、後から正しくないことがわかったりもする。わからないよね~その時の最新・最先端を駆使しても、まだまだ世界は謎だらけなんですから。おかげさまで最近は正義とか悪とかわからなくなってきたよ。
思いやりの裏表
「きっとこうされたら○○ちゃん、嫌がるだろうな…こうしたほうがいいだろうな…。」
「なんでこうすることが間違いなく近道なのに、わざわざ回りくどく迂回して時間をかける必要があるんだろう…?ここはストレートに伝えたほうがベストだ。」
人によって考えることは実に様々。前者は思いやりがあり、後者は思いやりがないのでしょうか。それとも逆?最終的にはどちらが得をするのか?人情的な方法か、理論的な方法か…もうこうなってくると好き嫌いの感情でしか決められないって気がしてきます。マリアは後者ですよね、間違いなく。
一生懸命がんばっているのはきっと同じなんでしょうけど、どの方向にがんばるかってかなり大事なことですよね。重要な部分をきちんと押さえずに、余計な部分ばかりに力を入れるのではだめだって会社ではよく言われます。芸術家とかだと、余計だと思うところにこそ美があり、気づきがあると考える人が多そうですよね。どっちがいいかなんて、しょせん好き嫌いだなと思うしかありません。「思いやり」って、相手がそう感じ取ってくれなきゃ意味ないんですよね。自分が属したいと思うコミュニティーにおいて、分かり合うための議論を何回でも重ねて、妥協点を見つけ出さなければならないし、相手を許してあげることも必要になるかもしれない。マリアは真正面からぶつかって、自分と相反する考え方の人たちと分かり合っていった。その姿勢が本当に素晴らしいと思うし、逃げない気持ちを教えてくれていると思います。
学校の先生だって人間だもんね
一番どうかしてるのは、学校の先生でした。というか担任の先生。自分の身の保身ばかりで、教師という職業がどういう仕事か、生徒を導くということがどういうことか、全然わかってないというか…確かにリアルな学校にだって、変わった人が1~2人くらいはいた気がするので、マリアたちは運が悪かったと思うよ…生徒の家庭環境にいろいろあるように、教師だっていろいろある。同じ人間だけど、教える側は気高く、教えてもらう側は従順でないといけない気がしてくる。私も高校生のころまでは、先生はお父さん・お母さんは悩んだらなんでも教えてくれる人だと思っていた節がありました。疑いようがないというか。それが自分が大人になってからいろいろ見えてきて、自分がいかに人の一面だけしか見ていなかったのか、自分しか見えていなかったのか、どうやって毎日を過ごしていたのか…とか振り返りましたよ。もっと早くにこんな気持ちを味わっておくべきだったと後悔しました。誰も教えてくれないんですよね、こういうのって。いや、自分が見えていなかっただけ…?(汗)みんながみんな悩んでいるから、答えのないものは教えようがなく、経験してそれをバネに何かを生み出すことでしか変わることはできないというか。困ったものだ…。
悪魔のように人の醜いところを引き出してしまうマリアも、何が正しいのかわからなくてもがいている途中でした。それを教えてくれる存在に出会えたことが、何よりの財産だったなと思います。
恋愛模様は複雑
恋愛に関してはかなり複雑でしたね…目黒をとるか、優介をとるか。一緒にいる時間が明らかに優介のほうが長いので、優介になりそうだなとも思いました。気持ちをいつも救い上げてくれる人でしたしね。でも、目黒を選びました。かゆいところに手が届く、大事なところでぐっと心をつかむ。やはりギャップってやつ?大胆に迫るマリア、かわいいなと思いました。目黒は手ケガしてるからやめといたほうがいいよ…?
ただ、最終回では、目黒にアメリカに行かないかと誘われて断り、大好きな友だちに囲まれて生活することを選びましたよね。これは不穏な気も…目黒も優介も「キープ」されているような気がしてならないのです。目黒は離れていたとしてもマリア以外を見ないだろうし、優介もマリアの近くでマリアのために働くことを選ぶだろうし。オンとオフ、どちらのパターンも手中にある気がして、納得できないな~という気はします。アメリカに歌手として羽ばたくこともありだったと思うのです。アメリカのほうがむしろ気の合う友達がすぐできそうだし…。
そんな感じで、とりあえずはグロいことにはならず、ハッピーエンドを迎えました。マリアが手に入れた友は本当に素敵で、それぞれがきっとあのどす黒いクラスのままでは見つけられなかったであろう夢に向かって歩んでいます。人に対して誠実であろうとするとき、読みたくなる漫画です。
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