理解する物語ではなく、流れに身を任せる物語 - GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊の感想

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GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

3.503.50
映像
5.00
ストーリー
2.50
キャラクター
4.00
声優
4.50
音楽
4.00
感想数
1
観た人
1

理解する物語ではなく、流れに身を任せる物語

3.53.5
映像
5.0
ストーリー
2.5
キャラクター
4.0
声優
4.5
音楽
4.0

目次

壮大な同人作品

この作品が与えた「クリエーターへの影響」はもはや、語ることはない。
しかし、映像や演出の話であり、ストーリーは原作を知らなくては理解できないだろう。冒頭で、

企業のネットが星を被い 電子や光が駆け巡っても 国家や民族が消えてなくなるほど 情報化されていない近未来

という説明があるが、そもそもこの日本の近未来の話ではない。パラレルワールドでの近未来であり、「擬体」、「電脳化」という概念も、それが生まれた経緯についても一切語られていない。舞台の街も日本や東南アジアをミックスさせたような架空の都市。原作ですら難解な描写も多いのだが、普通の映画ではそこを分かりやすく改変して映像化するのがセオリーである。

しかし、この作品においては原作をベースに、さらに難解な方向へと観る者を誘導してゆく。冒頭の亡命の阻止に始まり、公安9課という存在そのもの、人形使いといったものまで、セリフの中にヒントを出しながらも、明確な説明はされないまま物語は終える。それらを哲学的なアプローチで「雰囲気を読み取る」「解釈を談義する」といった楽しみ方ができるのなら、監督の個性も強く出ていてうってつけの作品といえる。だが、純粋にエンターテイメントとしてアプローチしたときは「壮大な同人作品」としか思えない。つまり、監督の自己満足に着いてこれる観客だけを選ぶ作品なのだ。

ハリウッドにはこの作品に影響を受けたクリエーターが多いというが、ストーリーやそこに流れる退廃的な空気、動と静の描写など、どちらかといえばヨーロッパの映画と共通した「匂い」を持っている。

CGとの融合

押井守監督作品では、早くからCGを取り入れている。だが、それまではCGを劇中のCG表示として使用していたに過ぎない。それが同作では見事に「融合」を果たした。光学迷彩の演出は言うに及ばず、セル画とCGの背景を巧みに織り交ぜることで、あり得ない風景を実写のように描いているのはこの時代では稀有なことだ。

無論、CGとの見事な融合を見せているのは背景だけではない。

所謂、擬体化・電脳化といったサイボーク手術により、網膜に直接情報を投影する技術にもCGが上手いこと利用され、一人称視点では思わず「羨ましい」と思ってしまうほど、擬体化・電脳化への憧れを刺激する。スマートフォンが当たり前の時代に生きている我々は常にデジタル情報に囲まれており、それが日常となっている人ほど、その憧れは大きくなるだろう。特別なデバイスもなしに、スタンドアローンでネットとの接続、情報の共有、情報の呼び出しが行える。まさに「手が届きそうで届かない」技術的なリアリティがこの作品の醍醐味でもある。肉体をサイボーグ化する擬体化についても、そのおかげで超人的な力を出せるのだが、それだけではただのヒーローでしかない。その恩恵として、海へ長時間の素潜りができたり、体内に摂取したアルコールを瞬時に分解できるなど、我々が日常生活でもあればいいと思える技術、しかも、近未来の科学なら実現できるのではないかと期待を抱かせる技術。

そうした鑑賞者の共感を得るという点では、この物語の設定はうってつけだ。勿論、現実世界では倫理的・道徳的な問題などもあり、技術レベルで実現できたとしても実用化は難しいだろう。だからこそ、その「ギリギリ手が届かない」憧憬が観る者を惹き付ける。

そこにはストーリーを追う必要などなく、まさに世界観を楽しむ仕掛けとなっている。

セリフから読み取る物語

「そう囁くのよ。私のゴーストが」

主人公である少佐の名セリフだが、ゴーストという存在は物語を構成する鍵であると同時に、物語を理解するための壁となっている。このゴーストも他の設定同様に作中では説明がなされない。少佐は脳以外のすべてをサイボーグ化しており、自分が人間だと確信できる拠り所としてゴーストを信じているようだが、ゴーストとはアイデンティティのようなものであり、直訳の「幽霊」「魂」といった非科学的なモノではないらしい。もしこのゴーストが消滅してしまえば、自分という存在はどうなってしまうのか?それが人形使いとの融合により示されている。

だが、ゴーストを語るのは少佐だけではない。他の登場人物もゴーストを語り、人形使いはゴーストそのものであるとも言える。言葉で説明するのすら難しい存在が物語の理解の障害となるのだが、同時にセリフの端々から「ゴーストとはどのようなものか」というヒントは臭ってくる。これもまた「雰囲気を読み解け」といった作り手の囁きであり、知的好奇心を刺激される者も多いだろう。

また、押井監督の作品ではしばしば聖書からの一文を引用することが多いのだが、この作品に関しては比較的、原作通りになぞっているためにそうした描写がないのも特徴である。反対に「ツーマンセル」、「実効制圧力」といった軍事用語も会話の流れの中に自然と挿入されており、アクション性の高さを引き立たせているシーンも見受けられる。

この物語の最大の魅力は「流れ」であり、余計な説明が一切ないというのは、裏を返せば「流れ」を止めることなくそれぞれのシーンに身を任せて楽しむという「受動的な」見方こそこの作品に相応しい。

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