ひとつの店をつくりあげる楽しさを味わえるドラマ - dinnerの感想

理解が深まるドラマレビューサイト

ドラマレビュー数 1,147件

dinner

5.005.00
映像
5.00
脚本
5.00
キャスト
5.00
音楽
5.00
演出
5.00
感想数
1
観た人
1

ひとつの店をつくりあげる楽しさを味わえるドラマ

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

自分にも他人にも厳しい救世主

ドラマでは毎回登場人物それぞれにスッポトが当たるようなストーリーが用意されていますが、主人公は間違いなく江崎です。

ただ単に料理が好きだという域を越えた情熱を持ち、それは変人として見られるほどですが、ときおり人間らしい一面をちらりと見せる、魅力あるキャラクラーを演じる江口洋介は最高のキャスティングだと実感できます。店を渡り歩いて来たという中年の貫禄がにじみ出ていること、料理人らしい肉体のたくましさがあること、こだわりがありそうな私服のシーンなど外見だけを見ても360度どこにも違和感がありません。度を超えた執着は料理バカと呼ぶにふさわしく、ゆえに結婚生活には向かず、妻を不幸にしていると分かっても修正する手段を持たない、という一人の男性としてもピタリと当てはまります。

物語の中での役割は、シェフとしての腕で料理長不在の店を安定させ、発展させること、そしてスタッフの成長を促す、その2点だと思います。本人は基本的にするべきことをするだけ、その結果まわりが巻き込まれていくという形を取りながら、ドラマの回を重ねるごとに江崎のプロ意識と人間性によってその役割がきっちり果たされていくことに、視聴者は充分納得できるように仕上がっています。

辰巳という絶対的信頼を失った状態の店に漂う不安は、江崎には甘えと映ったのかもしれません。君の仕事の本質は何か?料理を提供するということはどういうことなのか?そんなことを自分の働く姿勢を見せることで、問いかけていたのではないでしょうか。

エンディングの意味

テレーザのシンガポール店料理長というポストの誘い受けながら、江崎がそれをなぜ断ったのか?そこに込められたメッセージをどう受け取るかが、見終わったあとの満足感を左右させるポイントであり、同時に彼がどうして店を辞める決意をしたか、につながっていくように思えます。

誰もが最高の場所だと思うところからのスカウトをあっさり引き受けたとしても不思議ではありません。でもどれだけ江崎にとってこの店が特別であるかをみんなは知りません。初めてロッカビアンカで食べたときから江崎の心にはずっとこの店があり、そして自分が厨房に入ることで、尊敬する辰巳シェフが作り上げてきた料理、人間、空間に直に触れることで、これから料理人としてしたいこと、目指すことは何かを悟ったのではないかと思います。最後に心を込めてまかないを作る江崎の姿は、今までのどの場面よりも料理への愛情を感じました。

最終回、沙織は江崎の言動からかすかな異変を感じていたようです。その予感が的中しても彼を引き止めたい気持ちを抑えて旅立ちを喜ぶシーンは、彼女に芽生えた仕事への意識の変化、成長があったからこそのものだと受け取れます。市場で車椅子の父親を介護しながら買い物していたときに、会うことはできなくても江崎の気配を感じて微笑む彼女の表情は、店を愛する気持ちは江崎と同じだ、と確信したうれしさに満ちているようで、印象的です。

ドラマの始まりにはオープニングの曲とともに必ず店の外観が映ります。本当にどこかの街にポツリと存在しそうな店構えです。フロアも厨房もロッカールームもすべてひっくるめた、この店そのものこそが本当の主人公だった、と気付かされるエンディングでした。

リアルさを楽しむ

湯気の立つ狭そうな厨房内で、ひしめき合うスタッフの会話はまさにリアルな職場感にあふれていました。同じ職場で働く仲間でありながら、みんなそれぞれの人生を歩いている様子が細かく設定されており、脇役でありながら決して、その他大勢という雑さがありません。

特に第7話で登場する皿洗い担当の博巳は最年少であり、まじめで傷つきやすいです。そんな彼をからかう数馬と信成はいたずらっ子全開で、それをたしなめながらもどこか抜けている今井、完全に勘違いしたまま突っ走る夏野、相変わらずの低音でボソっとつぶやく浜岡、ゴタゴタにまったく気付かない江崎、それぞれ持ったキャラクターが色濃く出ている回でした。

唯一リアルさに欠ける脇役を挙げるとすれば、料理人を目指した経験もありながら、給仕長を天職と思わせるような瀬川です。こういう人が一人いたらどんな会社も円滑に事が進むのではないかという願望とともに、ちょっと出来過ぎ!と思わずにはいられません。彼の視点からのドラマを作ってみてもおもしろそうな気がします。

そして脇役たちを少し俯瞰するように見ているのは弥生です。彼女は女性陣の中で最年長であり、子持ちであり、豪快な力持ちのおばちゃんなので生活感があり、そういう意味では視聴者に近い視点かもしれません。ガハハタイプでありながらドルチェの担当で、調査に来た自分好みの銀行員になりふり構わずアプローチをする姿には、敗北の結果を想像しつつも、つい応援したくなってしまいます。

この厨房に集まるスタッフたちのリアルさが輝いて見えるのは、人間の本能に関わる部分であり、もっとも身近である、食べる、ということが丁寧に描かれているからではないかと思います。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

dinnerを観た人はこんなドラマも観ています

dinnerが好きな人におすすめのドラマ

ページの先頭へ