サナギさん――言葉遊びが紡ぎ出す不思議な中学生の世界―― - サナギさんの感想

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サナギさん

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
5.00
感想数
1
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サナギさん――言葉遊びが紡ぎ出す不思議な中学生の世界――

4.54.5
画力
2.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
5.0

目次

漫画家・施川ユウキの進化

「サナギさん」の作者・施川ユウキは前作の「がんばれ酢めし疑獄!!」がデビュー作でした。酢めし疑獄では作者独自の世界に向ける視点と、豊かな言葉遊びによって、一部の漫画オタクからは存在を認められていました。しかし、あまりにも絵が下手過ぎてどう考えても一般受けするような漫画家になるとは考えられませんでした。(施川は後に「えっ!? 絵が下手なのに漫画家に?」というエッセイ漫画を発表しているほどです)私も今から初めて施川ユウキの作品を読む人に、酢めし疑獄を教えようとは思いません。
施川はサナギさんで元々の持ち味を生かしながら、大きな方向転換を図ってきました。画力が無さ過ぎて背景やリアルな人物が書けないという欠点は直すことを諦めました。そのかわりに徹底的にデフォルメを入れて、簡単作画の中でもかわいらしくみえるように頑張ったのです。他の漫画家の例でいえば、西原理恵子の作画が思い浮かびます。
サナギさんの登場人物は中学生なのですが、この中学生という年代を描くことが施川には合っていたようです。中学生というのは何にでも興味を持ち始めますし、この世界の不思議なことに対して小学生よりも複雑に、大人よりも真面目に考えるようになります。それが、施川の言葉遊びや少し哲学的に発想を転換して世界をみる作風を上手く生かせる設定になったのです。
酢飯疑獄の時は3本に1本ぐらいは、なかなか理解しがたいようなネタがあったのですが、サナギさんのネタは全て読者が理解できるようになっています。漫画オタクが酢飯疑獄を評価するのはそういったギャグがあるからなのでしょうが、多くの人にわかりやすく読んでもらうというのが漫画家にとっての技術になるので、そうした意味でも施川は第1作の時と比べて進化したとみることができるでしょう。

フユちゃんは作者が思い描く理想の友人

「サナギさん」は基本的に主人公のサナギさんと、親友のフユちゃんの会話で物語が進んでいきます。
どちらもボケて、どちらも突っ込むそのスタイルは、お笑い芸人の「笑い飯」を思い起こさせますね。実際、施川ユウキのネタに影響を受けている若手お笑い芸人は多いと思います。
ただ、二人の関係性の中ではサナギさんのほうが中学生らしい素朴な世界への見方をし、フユちゃんのほうが世界を反転させるような鋭いことを言います。
中学や高校時代にいた、ボソッと笑いのセンスの高い発言をする友人を思い出させます。ああいう人と親友になれたら面白いだろうなと憧れたものでした。
フユちゃんはまさしくそんなキャラクターなのです。どこか斜に構えているところがありながら、サナギさんとの友人関係は心から大切にする女の子です。サナギさんはそんなフユちゃんを尊敬していますし、フユちゃんはそんな関係をどこか嬉しく思っている感があります。
ただ、サナギさんのほうが面白いことを言ってしまった時に意地を張ってネタを被せてくるのは、何か彼女独特のプライドのようなものがあるのでしょうね。
フユちゃん以外のキャラクターもそれぞれ独特の味を出しています。中学生が考える様々なこと――心の闇から妄想まで――をそのまま擬人化してキャラクター化した感覚なのですよね。
サナギさんに出てくるキャラクターを全て足し合わせたら、一個の中学生の集合的無意識みたいなものが完成するのかもしれません。施川は毎巻コラムを描き下ろし、世界の新しい見方を示しているので、おそらくはそこまで考えているでしょう。

サナギさんに漫画家・施川ユウキの全てが詰まっている

サナギさんの最終話は、特に事件といった事件が起こらずいつものような雰囲気のまま終わるというものでした。これは打ち切りではなく、施川が意図したもののようです。
施川はあとがきでこう書いています。
「日常のなんでもない一瞬を抜き出して永遠まで引き延ばした世界」を想像することがサナギさんを描くきっかけだったと……。だからこそ、明確な終わりを与えずに作品をしめたのですね。
サナギさんの世界は本当に優しいユートピアのような世界だと私も思います。
リアルな世界なら弾き出されてしまうようなキャラクター達が、仲良く暮らしている雰囲気がすごく出ているのですね。
施川のこうした作風は、「森のテグー」や「オンノジ」に受け継がれていきます。それらは施川の持つ優しい世界観を発展させたものと言えるでしょう。
一方のギャグ・言葉遊び要素は「バーナード嬢曰く」や「鬱ごはん」などに生かされています。
そして、中学生的な妄想やストーリテラーとしての素質は「ハナコ@ラバトリー」や「少年Y」の原作者として花開いていきます。
処女作がその作家の全てを表しているという表現はよく使われます。
いまや、有力なギャグ漫画家であり気鋭の漫画原作者である施川ユウキの原点は「サナギさん」において、その全てを見ることができるのです。
そして、サナギさんは現代言葉遊び系ギャグ漫画の古典ということができるでしょう。ギャグと世界観は絵の拙さを補って余りあるものです。

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