横浜が舞台のほろ苦いアングラBL
謎多き2人が主人公
この作品のメインとなる2人の少年。年齢的には少年と言えるのだが、言動や時折見せる全てを諦めているようなある意味自虐的とも思わせる表情や態度は少年と言うはあまりにも多くの事に関わりすぎたような雰囲気を纏っている。そんな2人だが、まず出会い方が普通ではない。誰なのか、名前も顔も知らない人間を捨て猫のように拾って帰った久保田の思考回路がまず謎である。その後もお互いの素性や詳しいことを知らないま生活を共にする2人の事は、読者も中々真実を知れないところがまた魅力的であり、どんどん作品にのめり込む理由とも思える。また、その他の登場人物の多くにも簡単には知れない秘密や謎、人物の性格などにまつわる過去があるというのも深く読み込める理由である。
体ではなく精神での繋がり
この作品は所謂BLにカテゴライズされるものではあるが、だからといってキスシーンや2人の性的な表現があるわけではない。それどころか2人の関係は世間で言う恋人関係ではないし、2人もその様な関係だとは思っていないのだ。にも拘らず読者にこれほどの萌えと興奮を与える。それはお互いがお互いを信頼以上の感情で無意識に繋ぎ、恋人関係などといった型には収まらない存在として認識しているからである。体でよりも深い、絶対的な絆で繋がっているのだ。久保田は特に時任に依存しているような描写が見られる。でも恋愛感情ではない。だからこそ彼らの言葉や行動、表現一つ一つにドキドキし、ハラハラするのである。その2人が周りの大人達に翻弄され、騙され、ある時は引き離されたりするのにお互いがお互いのために行動し、自らの死も厭わない所がある意味恋愛よりも純粋な感情なのだろうとも思える。
殺伐とした中での穏やかな日常
舞台の横浜では、特殊なドラッグやそれに伴う反応を見せる死体、ドラッグを巡る組合同士の争いなど平和とは言えない事件がすぐ目の前で起こっている。久保田の叔父や時任の右手のこともあり何かと巻き込まれたり自ら巻き込まれたりしている2人は生傷が絶えない日常を送っている。そんなシリアスな物語の中でたまに見られる普段の2人の会話や暮らしぶりがまたギャップがあって良いのである。雪にはしゃぐ時任や2人並んでベランダで花火をするシーン、時任がスパゲッティを自慢気に作る所など、何気ない日常が微笑ましくなる。2人の意思の疎通がうまくいかずに呆れたり暴れたりする時任や、甘いものや新商品に目がない久保田など可愛らしい年相応のような2人が見られる。そしてナチュラルにくっ付いていたりそれを何とも思ってない2人に私達読者はまた静かに萌えと興奮を覚えるのである。
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