魅力的なキャラクター・演出
峰倉かずやが描くキャラクター
峰倉かずや先生の作品のファンである方なら、峰倉先生の描くキャラクターに魅力を感じられずにはいられないと思います。
私自身、『最遊記』をはじめ峰倉先生の作品は網羅していますが、『WILD ADAPTER』を読み返す度に改めてこの主人公に何かを感じられずにはいられません。
一見平凡で、普通の青年に見えるこの男。(まぁ普通にしてても高校生には見えませんが・・・)
「久保田誠」という人物に対してどんなイメージを抱いたでしょうか。無邪気で己の気持ちのままに行動する時任とは真逆のクールな印象を受けるミステリアスな眼鏡男子・・・。
作品の中では時任に異常なほど執着する久保田を描き、狂気的でありながらも孤独な一面を見せ、久保田の人間性やこれまでの生き方を場面場面で匂わせています。
ふとした表情や言動を細かいタッチで描き出しキャラクターの心情を表現するのは峰倉先生の十八番です。
時任と久保田は正反対のようでいて表裏一体であり、お互いに執着している姿はよく似ています。来るものは拒ず、去ろうとするのならそれでいい。行くなという一言を容易に口に出来ないことを互いに理解しているから側にいる。相手の存在が自分の中で大きくなり過ぎてどうしたら良いか分からない。
そんな内情を外に出すことはないけれど、獣が鼻先で触れ合い相手の匂いを確かめるように、好きだからこそ互いを互いに探り合っている。そのような印象を受けます。
久保田誠という男
普通の一般人のように見えるが、異様な性質を持つ久保田。彼と関わった人たちは皆、彼から垣間見る時任への普通ではない執着心や、他に対する心ない残虐性に身体を震わせ、警戒し、恐怖を抱きます。
獣の手を持つ時任ですがチャーミングな性格もあるため、「ありえない」と思わせられるのはやはり久保田です。彼の常人から逸脱した人間性に私もぶるりと鳥肌が立ったこともありました。
しかしよく考えてみると時任と久保田、どちらが人間らしいといえるのでしょう。本能のまま素直に喜怒哀楽を示す時任は、ある意味野生的・動物的で、それこそ獣に近い面を持っていると言えます。
一方で久保田は冷静な態度を保ち、時に虚無感や残忍性、また時任を失う強い恐怖心を感じているシーンもあります。大切なものを奪われる怒り、そして孤独への恐怖に苛む姿はある意味人間そのものです。
久保田の酷薄な姿に目を奪われがちですが、実際のところ私たち人間にそういった面がないと言い切れるでしょうか。
峰倉先生は久保田という男を登場させ特異な存在だと読者に感じさせつつ、現実では誰もがこの男のような人間の性を内在しているというメッセージを込めたのではないか、私はそう読み取りました。
ザ・峰倉ワールド
この作品は未だ完結しておらず、今後は時任の知られざる過去に迫っていくはずです。時任の過去を知ったたとき久保田はどのような行動に出るのでしょう。
一度出回った薬を全て回収することなど不可能に近いと思います。薬に侵された街でどう生きていくのか、二人のこれからが楽しみです。
『WILD ADAPTER』は峰倉先生の魅力を峰倉先生らしく、描き出しているといえる、まさにザ・峰倉ワールドを表現している作品です。
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