『君のためなら千回でも』:冷戦に翻弄された少年の"罪物語"。アフガニスタンの代表作。
ホッセイニの原点となる著作
『君のためなら千回でも(上・下)』(原題:The Kite Runner)は、カーレド・ホッセイニの初めての大ヒット作品である。また、本作品は彼がその後執筆した『千の輝く太陽』(原題:A Thousand Splendid Suns)及び『そして山々はこだました(上・下)』(原題:And the Mountains Echoed)の原点であるとも言える。
本エッセーでは、上記の三作品の比較を行ない、ホッセイニが描くメッセージを考察する。
比較① 登場人物の設定
ホッセイニは全作品において、登場人物を対比的に描写することに注力している。著者は対比を行なうことで、その格差の残酷性を描写し、当時のアフガニスタン社会を忠実に表現している。
例えば『君のためなら千回でも』においては、アミールとハッサンは「金持ちのマジョリティ(パシュトゥーン人)と貧しいマイノリティ」であることを強調するような描写が多く見える。他にも、両者間では「臆病者と勇敢な者」という対比も行なわれている。この対比を対して、ホッセイニは同じ「アフガニスタン人の子供」であっても、当時のアフガニスタンには大きな経済・社会的な格差が存在したことを示唆している。更には、物語の終盤において二人が異母兄弟であったことが発覚すると、二人の「差」がより一層残酷なものとして読者に映る。
また、他の作品にも同じ兆候が見られる。例えば、『千の輝く太陽』においては、マリアムという非常に貧しい女性と、ライラという比較的に恵まれた女性が出てくる。この2人は後に同じ夫に嫁ぎ、共に生活を送ることで、より対比的な存在として際立つのだ。尚、『千の輝く太陽』には『君のためなら千回でも』では見られなかった特徴が存在する。一つ目は、主人公の二人が女性であるため、作品が女性の視点から描かれている。このことで、『君のためなら千回でも』で見られなかった、アフガニスタン女性ならではの苦悩が見られる。加えて、本作品は途中までオムニバス形式となっていて(第一部はマリアム、第二部はライラ、第三部は2人が主人公である)、第一部と二部は似たような構成で描かれている。このことによって、2人の女性の対比がより明確に行われている。本作品においては、君のための世界でもては達成できなかった登場人物より明確な対比が行なわれてると言える。
次に、『そして山々はこだました』における登場人物の対比を考察する。この作品にオムニバス形式によって、兄弟、親子、女性等の様々なテーマで対比が行なわれている。したがって、今まだ疲れてきた異母兄弟2人、女性2人だけではなく、一気に幅が広がった作品となっている。
このように、ホッセイニは三作品を通して、登場人物の対比を行なっている。そして作品の発表順から見るに、『君のためなら千回でも』を原点とし、段々と人物対比の幅と深みを発達させている。
比較② 物語の展開(登場人物の終着点)から見える、ホッセイニが表現したかったものとは
『君のためなら千回でも』においては、それぞれの登場人物に様々な終着点が存在する。また、他の2作においても、ある登場人物はなくなり、ある登場人物は生きる。個性にはこのように登場人物の終着点を操ることで、ある種の「希望」を描こうとしているのがないかと考えられる。
まずは『君のためなら千回でも』を考察する。本作品においては、ハッサンは亡くなってしまったが、その息子の生き、彼のことはアミールが育てて罪を償うという展開である。あくまで私的な見解だが、私はハッサンが冷戦及びマイノリティにとっての世界の残酷さ、そしてその息子がアフガニスタンの未来の希望を表現しているように思える。一方で、彼の息子は、アフガニスタンの希望表現しているのではないだろう。確かに彼は、当初は表のように扱われ、非人道的な待遇を受けていたが、最終的にはアミールに救われ、これからは幸せに生きていくとし思われる。このような表現を行うことで、著者は作品に「救い」、つまりは「希望」のようなものを作っているのではないだろうか。
著者は、『千の輝く太陽』及び『そして山々はこだました』においても、似たようなメッセージを表現している。本作品をまだ読んでいない読者もいると思うので具体的には言及しないが、注意深く読めば「アフガニスタンの未来の希望」というテーマが見えてくるだろう。
比較③ 本作品だけの特徴
以上の通り、『君のためなら千回でも』は、ホッセンの他の作品の原点のような存在である。一方で、本作品においてのみ表現されているものも存在する。そして私が考えるに、それは「親子愛」(強いて言えば「愛」そのもの)、そして「償い」である。本作品は他の作品に比べて登場人物間の対比に分量を割いていないからこそ、このようなテーマをより深く表現することに成功している。例えば、これも個人的な見解だが、他の作品において「愛」あまり見えないか、あまりバラエティが豊富ではない。一方で、本作品においては親子愛のみならず、友情愛、そして恋人愛がよく描かれている。具体的には、主人公アミールの償いのみならず、父親の償い(妾の子として生んでしまったハッサンを可愛がる)、そして妻の過去の過ちに対する償い(過去に貫通したことで妊娠が出来ない描写)が観察できる。
このように、本作品は原点ではあるが、本作品が一番優れている点も多く存在するのである。
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