動物園が動物の職場である、という斬新なアイディア
短すぎた放映時間
大人の事情でたったの20話で打ち切られてしまったこの作品は、残念ながら原作のおもしろさを伝え切れなかったという感じがしました。もともとストーリー展開のドキドキを味わうのではなく、絵から漂う雰囲気やセリフの間を想像して楽しむタイプの玖保キリコ作品のアニメ化は難しいのかもしれません。
それでも上野原動物園を職場とした動物たちの社会、というコンセプトを柱として、大所帯で上下関係もあるペンギンはサラリーマンを思わせ、パンダには生まれながらにして貴族のような特殊階級を匂わせ、近所の猫の奥さんには専業主婦ならでは悩みやコンプレックスを背負わせ、種族や性別を超えた恋愛をしたり、それぞれの個性がぶつかりながらひしめき合っている人間社会とうまくオーバーラップさせるという面では成功していると思います。
ただ原作で描かれている、家出から戻ったロンさんが今までの自分の考え方を改め、息子リーチのことを本当に思ってやれる親へと変わっていく様子、動物園内で仲間に受け入れられていく様子はなかなかジーンとくるものがあるので、そのエピソードまで入れて終了であれば打ち切られたという残念感も少しは解消できたのではないかと惜しいが気がします。
ゼロからの親子関係
ズブロフスキーさんとタボンの関係は人間社会では養子縁組のようなものです。ただタボンはゴミ捨て場で発見される前、実の母親から虐待を受けていました。
そのことによる精神的なダメージを抱えている様子はリアルで、次いつ食べられるか分からないことからくる食事に対する異常な執着や、たたかれるのではないかといつもおびえている様子にズブロフスキーさんが初め彼をどう扱ってよいのか迷う気持ちがよく分かります。
詮索をしなかったのも、聞かれたくないだろうと思いやる気持ちとともに、どう考えても不幸な生い立ちである身の上を思うと、不憫だ、かわいそうだという気持ちが先立ってしまい、彼の告白を聞く心の準備ができていなかったから、という理由も考えられます。
引っ越しを終えた後、突然家出したタボンはギンペー一家に保護され、今まで言えなかった虐待について語ることができたのは、ギンペーのお母ちゃんのマイペースさがあったからでしょう。おそらく年の功で、酒を飲み、虐待するような母親が世の中にいてもおかしくないということを知っていること、大概のことには動じない人生経験の豊かさがあることがタボンを安心させたのだと思います。
変な気遣いをしないこと、本当の親子かどうかいうことを抜きにして、大人として躊躇せずタボンに教えるべきことがあることを、ズブロフスキーさんはそこで初めて感じ取ったのではないでしょうか。
まず彼の好きそうなことを見つけるためにじっと見守り、それが分かったら関連する仕事をまかせる、という方法を取ったズブロフスキーさんはだんだん親らしく、そして傷は簡単に消えないものの、そんな自分でもここにいてもいいのだ、と分かったタボンはだんだん子供らしく、家族になっていく様子が丁寧に描かれていると感じました。
根性と努力
いかにお客様に喜んでもらうか、ということへの情熱、仕事の上で持つミミの根性はギンペーと基本同じだと思うのですが、ギンペーは分かりやすく他人を巻き込む努力の仕方であり、一方ミミはひとりで黙々と努力し、隠れて訓練してこそ成果は倍以上と思っているタイプのように見えます。
人間社会で言う性同一性障害者で、性別が男性であり心は女性であるミミは、恋愛においても苦労しています。同じ男性を好きなったフラジーをお子ちゃま扱いして見下す態度を取るものの、体も心も女性である彼女とはスタートラインが違うと分かっている部分があり、だからこそ相手への細かい気遣いや態度にも努力を怠らないのだと思います。その心がけは世の中のおねえたちがとても女らしく見える瞬間があることと共通しているのではないでしょうか。
つまりミミは仕事上ではギンペーに、恋愛においてはフラジーに、一見仲が悪いようで実は尊敬されているのだと思います。
就職に変化が見られた時代
原作の連載が始まったのが1993年という時代を考えると、一つの会社を勤めあげるという風潮が崩れてきたころかもしれません。
もしギンペーの上野原動物園での職歴が長ければ、みんなをまとめるのにあんな苦労はいらなかったでしょう。会社を良くしたい、という熱意がありながら空回りしてしまう、という中途採用ならではの苦しさが見えます。また「自分が面接受ける側の方がよっぽどラク」と言っているように、逆に面接官として中途採用をする側の経験をすることで、だれかの人生を左右する責任を感じる経験もするのです。そして新入社員が入ってくれば研修もしてやらなくてはならない、というまさに現実の社会と同じ構図になっています。そしてパンダという競争相手を登場させることで、お客さんの数を比較し、営業を意識するという方向は成果主義を感じさせます。この時代の就職を反映した、会社としての動物園、という側面もよく描かれていたと思います。
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