笑顔が心に残る物語
笑顔がポイント
ポニーの家から始まる主人公の運命は、すさまじくドラマチックです。そのストーリーの魅力をさらに引き上げているのはキャンディのキャラクターでしょう。アニーやスザナのような女の子らしさ120%という女子をそばに配置することで、おてんばで、明るさ、辛抱強さ、ユーモアがあり、男子と対等に付き合える、という彼女のキャラクターはますます目立つようにできています。
そしてそこにとびきりの笑顔という魅力が加わる背景には、丘の上の王子様に言われたフレーズが彼女の生きていく上での重要なキーワードになっていることが分かります。だからこそ次々に待ち受ける過酷な運命を受け入れなくてはならない場面でキャンディが涙をこらえる姿が、より鮮明に映り、見る人の心を打つのだと思います。
アニメの主題歌のサビ部分でも「笑ってー笑ってー」と繰り返されますし、「その笑顔を忘れずに」というセリフが、大事なエンディングシーンにも使われていることから、この物語におけるポイントはキャンディの笑顔にあり、物語が終わっても見る人の心の中にずっとその天真爛漫な笑顔が残るような、そんな効果を与えているのでしょう。
死を受け止めて成長する
戦争によってステアが亡くなることは、大きなメッセージ性を帯びていると思います。発明家で、誰とでも仲良くなれる楽しいお兄さん、そしてパティやまわりの人物を包み込むように愛する姿、という今まで描かれたステアの背景が、自ら戦争に志願するという行為に自然に結びつくようにできています。兄弟でも絶対にアーチーは志願しないでしょう。あまりにも簡単に仲間の命が奪われていくことに呆然とし、仲間のかたき討ちをすることの無意味さを感じて死んでいく彼の姿に、戦争のむなしさを感じずにはいられません。
彼の死に取り乱し、自分も死のうとするパティをキャンディが止めることができたのは、愛する人の死に直面するという経験がすでにあったからではないかと思います。当時打ちのめされていたキャンディは、「彼に出会えたことを喜ぶんだ、運命は自分の手で切り開くものなんだ」という言葉をかけてもらうことにより、残された人間にできることは何かを考えたのだと思います。そして何度も彼の死を悔やみながらも立ち直ったという事実が彼女を支えているように見えました。
そして「どんなに深い悲しみも乗り越えられる」というアンソニーの父親の言葉を実感し、再び死を受け止めるとはどういうことかを学び、他人に寄り添う気持ちを持つことのできる、強く優しい女性へと成長を見せるのです。
物語を動かす重要人物
物語の重要な場面でいつも登場する、丘の上の王子様、そしてウィリアム・アードレーであるアルバートさん。こんな人間のできている人いるだろうか?と思うほど彼の行動やセリフは思慮深く、慈愛に満ちています。ときどき現れてはストーリー展開に大きな役割を果たすのですが、その中でも秀逸だと思われるものは、記憶が戻り姿をくらましたアルバートさんが、キャンディに小包みを送るエピソードです。
送り主の住所を手がかりにその場所に探しに行くであろうキャンディの行動を見越して、落ちぶれたテリィを発見させるために、アルバートさんがしくんだことと想像できます。
このとき彼がどこまで何を思ってしくんだのかは想像の範囲でしかないのですが、この出来事は誰にとっても幸せをもたらすようにつくられています。まずテリィが結局自分はだれも幸せにできていないことに気付いて一から出直す覚悟を決めたことは、スザナにも幸せなことで、陰で息子の行く末を案じていたテリィの母にも希望を与えることができたはずです。そしてなにより、この場面なくしてキャンディの恋は終結しなかった、と思うのです。
決定的な別れを経験した二人が、もしそのまま後腐れなくスッキリだとしたら、この物語の魅力は半減するでしょう。別れた後のほうが二人の苦しみが深い、という展開は、この二人になんとか未来への希望を持たせたいと思わせます。
お互いの姿を確認するだけの再会のシーンを入れることによって、それぞれ別れを引きずったままの二人に本当の意味での決別を促したことは、そこからようやく一歩踏み出せることを意味する重要なエピソードになっていると思います。
物語の続きを想像する自由
物語はアルバートさんが正体を明かすところで終わるので、このあと二人がどうなるか、については自由な想像を許されます。
正体を明かす少し前にアルバートさんは眠っているキャンディに「君を幸せにしたい」と言っていますが、これが男としてなのか、彼女の人生についてなのか、どちらにも取れるような人間性を彼は持っていると思いますし、一方、最後ポニーの丘でアルバートさんを丘の上の王子様として認識するキャンディを見ると二人が結ばれそうな気持ちにもなれますし、続きの想像が楽しいこのエンディングが大好きです。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)