最後に感情が本から離れてしまいました。 - 海の見える街の感想

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海の見える街

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文章力
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キャラクター
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演出
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感想数
1
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最後に感情が本から離れてしまいました。

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
2.5
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
2.5

目次

大人のための恋愛小説

大人のための恋愛小説と背表紙に解説があり、拝読すると、そこには職場での複雑な人間模様が描かれており、社会人として働いたことのある人が共感できる内容である微妙な距離感がうまく表現できていた。職場恋愛を体験したことのある方なら、公私混同の使い分の難しさがわかると思うが、その点がよく書けていて、読んでいて感じ取れたと思います。

キャラクターそれぞれの恋愛観

一人称で書かれている小説の中で、キャラクター一人一人に話が展開していき、生い立ちからくる恋愛観や、性癖などが細かく書かれており、人間観察に優れた作者だと思いました。

生まれた地域や育ちで本人の恋愛観が育成されていった結果、大人になってどのような人間を好きになるのかがとてもよく書かれており、それが狭い職場の中で展開され、感情が時と場合で変化していく模様がリアルで、それを短い文章で表す文書力に驚嘆いたしました。

全体の展開

小説自体は4人の恋愛観が描かれていて、実際メインの主人公が誰なのかわからない展開で、一人一人の恋愛に対する感情はよく描かれていると思いますが、恋愛小説であるのであれば、恋に至るまでの内容に終始するのではなく、恋が始まってからの部分を具体的に書いて欲しく思いました。

1人目は本田が話の主であり、本田の目線から後の話で主となる人物達への評価などを行っていましたので、登場人物の人物像がイメージでき、後に別の人物の話を読む際に、非常にわかりやすく、読みやすかったです。

図書館勤務の話だけあってキャラクターは落ち着いており、インドア派でインコを飼っている設定は想像通りの図書館職員と言う感じで期待を裏切りませんでした。

本田の件で起こるトラブルとしては母親がインド人と再婚する点が出てきますが、図書館の話とは遠くかけ離れ、興味深かったです。

2人目の日野は1人目の本田を好きだったはずが、叶わぬ恋に徐々に心が移り変わっていく姿がよく描かれており、読み手としてとても読みやすかったです。

またキャラクターはインドア派のオタク系女子で、何故成長してインドア派になったのかの理由に学生時代のいじめ問題が描かれており、まさに方程式に当てはめたようなキャラでした。

ただ人を変えるのは人であるというように、突然現れた派遣社員の春香を最初は嫌ってかかわることすら避けていたのに、その春香と徐々に友情が目覚め、外見を変えられたことによって内面も変わっていく姿が描かれており、人は変われるんだとの希望を見いだせました。

3人目の松田は1人目の本田の話から変な人間とキャラ設定がされていたため、初めから先入観があり、読み進めていくうちにその先入観が薄れていく描き方に書き手のうまさを感じました。

30代でありながら中学生への性癖を持ち、そのことが徐々に行為を寄せていた日野にばれてしまうい、職場での気まずくなった人間関係の空気間はよく描かれておりました。

また1人目の本田の件で植え付けられた松田の性癖が、後に図書館で起こる小学生への性的暴行事件で、読み手は松田の仕業だと誰しもが思う展開だったのに、その期待を見事に裏切る描き方のうまさ。暴行された小学生の心の恐怖から人間不信になり、その母親のカウンセリング的役割に松田が当たる点の後ろめたさなどがよく伝わってきました。

性癖に関して自分に好意を寄せてくれている日野にばれた時の、図書館をクビになるのではとの身体の危うさなどスリルある表現に一気に文章に引き込まれ、読む手が止まらなくなりました。

また中学生との性行為が美人局である展開や親にそのことがばれた時のことなど、松田の話は読み手としても気が気でない状況で、男としては誰しも起こりうる可能性のある展開で、まさに事故が起こった状況でしたので、他人事には思えませんでした。

4人目の春香に関しましては1人目からすべての話で出てくるため、最終話ではキャラクターの性格が構成されておりましたが、ここから春香の過去が明かされ、1人目の本田の話で本田が見舞われたトラブルの謎も解明する書き方となっており、一人称で構成されている小説ながら、それぞれの視点で複雑に話が絡み合っていく点はプロの作家の表現力を見せつけられた思いとなりました。

ただ春香の過去の生い立ちや恋愛観を読んでいくと、図書館で働いている春香と少々キャラが追い付いていないのではと感じました。春香は暴力的な男性と交際しており、浮気がもとで彼氏を束縛し、彼氏に対しても暴力を振るうキャラクターでしたが、本田や日野や松田の視点からはそれは見受けられませんでした。しかし徐々に本田を好きになっていく過程で、過去に本田が好きだった泉が登場したあたりから、過去のヤンキー時代の心が出てきて、愛らしかったキャラクターから徐々に嫉妬深いキャラクターへと変わり、どんどん不細工に見えていき、これからクライマックスへと進む前に感情が覚めてしまった点が残念でした。嫉妬深く暴力的で、過去ヤンキーだったキャラクターを愛せる男性は多くはないと思います。最終的には本田と付き合うことになりますが、本田は告白する前から春香と住む家を探し、引っ越した当日に告白して一緒に住むようになるというのは展開が急すぎてついていけませんでした。

読み手も十人十色で女性の好みも違いますが、やはり女性は暴力的でないキャラクターがいいですね。

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