魔法少女設定はオプションである
この漫画を普通の魔法少女モノとしてはいけない
本作を読んだ人は誰しもが、ぶっ飛んだ設定に驚くだろう。「なんだまた魔法少女モノか」と期待せずに単行本を手にし、数ページ読んだところで「おいおい、魔法少女がマッチョってwww」と想像を絶する展開に驚く。しかしヘビーな漫画マニアからすると、「この展開はすぐ飽きるだろうからなぁ」と不安になったことだろう。実際に単行本1巻~2巻を読むと、せいぜい5巻くらいで読者が飽きてしまい打ち切りになりそうな展開であった。しかし3巻あたりから本作者の底力が見え始める。
本作は魔法少女モノと思わせておいて、1巻3ページ目には「あ…展開読めた…」と天使が真顔になるシーンでいきなり舵を明後日の方向に取られる。主人公が反則級に強い漫画は数あれど、「チョット思ってたのと違うw」という展開へと進む。ライバル風のキャラが出てきたり、その後あからさまな悪の軍団みたいな敵が出てきたりして、冒頭は確かに「変化球ではあるが王道」であることを見せていた。しかし凄いのはここからで、いきなりラスボスたる「魔王達」が主人公の前に現れ、バトルにはならず首脳会談と言うかたちでラスボスと思われていた者達との「不可侵条約」「限定軍事同盟」が結ばれ全面戦争が回避されてしまうのである。
異色の魔法少女モノと侮っていたが、まさかの魔王との一時的な和平が話し合いで結ばれてしまうのだ。しかしそうなると話が終わってしまうので、ここに新たなる敵が想定される。魔王の反勢力といえば天界と相場が決まっており、確かに天界の勢力が現れる。しかし、どうやら当面の敵ではないということがわかる。会議中にも明示されていた「明確な根拠のない不安」が現れるのである。それが第三勢力、ナイアルラトホテップという目的のはっきりしない存在だ。
本作は主人公らがまさかの中立となり、魔王軍、天界、第三勢力といった国家的なせめぎ合いへと発展する。更には孤高のダークヒーローや、度し難い民族、先代の魔法少女参入などあらゆる立場のあらゆる登場人物の参入によって複雑な物語へと発展。初めは、ただの変化球漫画だと思っていたが、予測不能な「魔球作品」であったと言わざるをえない。
政治と国家運営
本作の見どころといえば、やはり現実世界の思想、政治、歴史へのトリビュート性だろうか。既存の作品のオマージュやアレンジとは違うように思われる。あくまでも現実世界をモデルに作られている。それは本作に面白おかしく描かれてはいるが、誰しもがモヤモヤとした気持ちであるところの日本や世界の情勢に、一つの可能性を具現化したような設定が多く出て来る。
例えば東方の魔王軍には反政府運動を行う団体がいたり、南方魔王軍では卓越された教育システムが紹介されている。西方魔王軍はなぜかお笑い枠としてパンツ一丁の空軍が出てきたりしたが、北方魔王軍では秘密裏に兵器開発が行われているなど、リアル世界の政治や情勢が反映されている。
またさらには、「ダメな民族」としてエゲツナイまでに描かれた難民たちの国家再建などの描き方は、「もしも強大な力があったとしたら? もしもこういう条件下なら?」など「もしも~~だったら」という誰しもが想像する夢想を具現化し、国政を行うという描かれ方をしている。それを行うのは強い力を持ってはいるが小学生女子。初めての国家運営ゲームがルナティックモードでスタートするという展開は実に面白い。この「ダメな民族」がどの国家をモデルとしているかは容易に想像できるが、これをどうすればよいか?というシュミレーションは見ていて面白いだけではなく、妄想テーマを読者に与えてもいるようだ。
本作はギャグでありファンタジーでもあるが政治漫画でもあるのだ。
ファンタジー要素
主人公が「俺強ェェ」的な展開の漫画やアニメは多数あるが、本作品には主人公が最強ではあるものの、それに及ばずとも対抗しうる力をもったキャラクターが存在する。要するに一対一で戦えば主人公が勝利するが、それを行えば第三勢力が疲弊した主人公を容易に屠ることができるというバランスが構築されているのだ。また魔力というエネルギーが有限であることも特徴で、大きすぎる力に対しての魔力補給が追いつかないという設定も実にうまく描かれている。並の作品であれば、どの主要キャラクターをメインに据えても成立するだろうが、本作はそのパワーバランスを天秤を揺らすように保っている。
セックス・アンド・バイオレンス
この原作者は成人向けの漫画も描いている。現在は一般紙オンリーのようではあるが、そのテイストは今も健在である。本作にはセッ○スシーンや、レ○プシーンが時折出てくる。女性も子供も死ぬ。四肢がちぎれたりといった残酷なシーンも多い。作品の味付けとしてエッチなシーンを入れるということは少年誌でもやっていることだし、雑誌・購入層を分けることによって、その度合を調節することに全く意義はない。
物語にリアリティを求めるのであれば、性についての問題は避けては通れないだろうし、無理に省くと気持ちの悪い不自然さを生む。当然、性犯罪は許されることではないが、それはそのように描かれているし、愛情がなくても快楽を得たいという人間の率直な感覚にフタをする必要もないだろうとも思う。それがきちんと描かれているのは、ある意味潔く、むしろ変なフラストレーションをためなくて良いと思う。
当たり前だが、人にはそれぞれの考え方があり全員が同じということはない。本作品におけるセックス・アンド・バイオレンスを許容できない読者も存在するだろうし、それもまた避難するつもりは無いことを付記しておく。
サブタイトルについて
本書の魅力としてストーリーや設定に語ることはいくらでもあるが、あえて些細な部位に注目したい。それがサブタイトルといわれる、各話数の題名である。
・女児向けかオタク向けかは変身シーンのエロさでわかる
・現実にバトルマニアがいたら絶対に関わりたくないよね
・話し合いのためには暴力の裏付けが要る
・無能な王というが民は有能か?
・根拠のない精神論は聞いてはいけない
など、ツイートのように作者の一言がここに表されている。
これは世の常であるが、宗教・民族・政治というテーマは特に炎上しやすい。本作はまごうことなき作者の考えを反映した作品で、いいたことを言ってやる!というスタンスである。個人的には作者の人格や思想についてはどうでも良いと考えており、それが犯罪者でも宗教家でも政治家でも特殊性愛者でも構わない。大事なのは生み出された作品であり、作者はあくまでも検索用のタグであると見ている。勿論、有名な歌手やスポーツ選手のことをもっと知りたいという感情を、真っ向から否定するわけではないが芸能ゴシップなどのメディアを見る限り、概ね残念な気持ちにしかならない。しかし好奇心には逆らえず、本作の作者のTwitterを覗いたことがある。そこにはやはり作者の考えがつぶやかれ、賛同するフォロワー、否定し炎上するフォロワーが散見された。
しかし、忘れてはいけない。この作者はキャラクターに「幅広く討論を見ろ。何も考えず、何も判断せず。頭を真っ白にして情報を蓄積する。状況全体を把握できていないのに何かを考えて出した答えがあるなら全部捨てろ。きちんと判断に必要な材料が揃えば、特に何も考えずとも勝手にわかる。10年、100年先を想定し考えるのはそこからだ」と演説させている。このシーンは民主主義に於ける市民のあり方を説いているシーンではあるが、なにも政治や国家情勢についてのことだけではなく、「ものの考え方」を説いたものでもある。それは本作についても言えることで、作者が描き続けた考え方や現実(リアル)ですら、そのまんま、鵜呑みにするんじゃないよ。と言っているように思えてならない。
メディア展開
さて、最後に本作のメディア展開について推察したい。
多分アニメ化は出来ない。
と思われる。先述のセックス・アンド・バイオレンスについての表現項目だけが理由ではなく、場合によってはフィクションでは片付けられない未熟な人間が、妄信的な思想を描いてしまうかもしれないからだ。
とは言え、「では作者の心情としてはどうだろうか」と想像してみると、「できれば展開してもらいたい」と考えているのではないだろうか。作品への愛着や信念強いものであれば別だが、メディア展開は副産物と言うには大きすぎる収入になるからだ。乱暴な言い方をすれば、自分が何もしなくてもほぼノーリスクで入ってくる収入となるのだ。この魅力は捨てがたい。
この漫画を愛読する者にとってもアニメやドラマCDが出来たら「見てみたい。聞いてみたい気持ち」になるだろう。しかし愛読者だからこそ、「1クールや2クールで終わるようなアニメじゃない」「民放で流せる内容ではない」「視聴者を選ぶニッチな作品が、繰り返し制作される訳がない」ということを承知している。また「半端な映像化は避けてほしい」とも考えるはずだ。
以上から、何かの謀略が張り巡らせられない限り、本作が他のメディアに展開することは考えにくいのではないかと推察する。
余談。作者について
これも先述したが、本作の作者の人格には興味はない。しかし巻末に「どうせ映像化されない作品だから自分でMMDモデルを作ってみた」というようなことが書かれてあり、興味があったのでニコニコ動画を鑑賞してみた。MMDというのは簡単に言うと無料で配布されている3Dソフトを利用した映像作品である。ここに面白い動画がある。それが「漫画家になる方法」という動画だ。自信は漫画を描いたことがないので、「なるほどー」以外の感想はなかったのだが、漫画家の知り合いにこれを紹介した所、「正に真理」というコメントが出るほどだった。作者は「ロジックの人」なんだなぁと改めて思わされた。
今後も本作品の応援を続けていきたい。
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