DTB 物語から出ることができない
幸せになれない物語と黒ガールズ
Darker than BLAK-ダカーザンブラック 黒の契約者(以下「Darker」)は二話一組で完結する連作短編であり、その一つ一つの物語が異様な完成度を誇っている稀有な作品であることは最後まで視聴すれば頷けるものだと思う。
だが、各物語はその物語のメインキャラにとってほぼ全て不幸な結末に終わっている。
第一話二話、黒ガールズ第一号となる篠田千晶の末路はただただ哀れ。単純な死ではなく、存在そのものが曖昧になり、意味を失う寂しい死。(攻殻機動隊GHOST IN THE SHELLのテーマも重なってくる)
第三話四話、柏木舞もまた寂しい。凡人が能力者として目覚めていく物語であり、僕が好きなタイプな物語でもある。(ニンジャスレイヤーにおけるヤモト・コキ覚醒エピソード。西尾維新人間試験シリーズにおける能力者覚醒エピソードなど)舞も黒と一瞬心を通わせ、父親とも和解するが、そんな幸せへの予感も一瞬で崩れていってしまう。(物語の最終盤、舞は物語の道具として使い捨てられることになる。うう……)
五話六話のハヴォックなんて超萌えだ。こんなにかわいらしい元大量殺戮者なんてみたことがない。ハヴォックは平穏を願った。ただそれは叶えられない夢だった――。
願望充足への予感、それは切なさへ
その他の黒ガールズの最後も悲惨だ。ミーナ・カンダスワミは研究所という狭い世界に閉じ込められ、塔の中のお姫様のまま漫画版で無惨に殺されてしまう。アンバーは消滅し、二期の蘇芳・パブリチェンコもとびっきり切ない別れを食らわせてしまう。霧原美咲は死なないが、李くん(黒)の影を追いながら一生生きていかなければならない羽目になる。(BL派はノーベンバー11も黒ガールに入れてしまうかもしれない。彼も死んだ。超格好良く)
びっくりするほど誰も結ばれない。黄も結ばれなかった。生きたままうまくいったのは、ヤクザの舎弟・健児とそのドールぐらいではないか。(エリックは死の跳躍によって妹と共に夢を叶えることができた。あからさまにこれはもう一人の黒の可能性を描いている。能力も一緒、境遇も一緒。非常に上手い技巧だ)
黒は銀と結ばれたではないか――と言われるかもしれない。ただ、Darkerの物語世界の法則通り、それは願望充足への予感としてだけに終わる。二期、外伝までみて残る感情は圧倒的な切なさだ。それは一期を見終わった時より大きなものになる。(一期の終わり方はカタルシスと、前向きな幸せへの予感があった)
僕がここでよく使う「願望充足への予感」という言葉は、アニメ評論家でありラノベ作家であり市井哲学者であった本田透の物語研究における言葉だ。視聴者・読者を惹きつけるのは幸せな結末そのものではなく、幸せな結末への予感である――ということ。
お互いに両思いなのに一向にくっつくことがない現代ラブコメ漫画、ラノベなどを思い起こしてもらうとよい。僕達はルートが固まり、完全にくっついてしまうと興味を失ってしまう。セックスそのものではなく、ひたすらラッキーエッチや、もしかしたらこいつ俺のこと好きかも……といった予感によって延々と読み続けられるのだ。
Darker世界ではびっくりするほど誰の願いも叶わない。
安易に幸せが手に入らない物語は現代オタクにとっては忌むべきもののようだが、そうであってもDaerkerの魅力は色褪せないし、より一層輝くことになる。
上手く作れば、悲劇の連続の物語であっても、人々に受け入れられるのだ。
永遠に続く第三期シンドローム
美し過ぎる構成と、願望充足への予感に満ちた第一期は、視聴者に物語への続きを渇望させ、熱望させた。
外伝においては銀とのいちゃいちゃロードムービーを繰り広げることで、視聴者のやり場のない思いをある程度受け止めることができた。しかし、Darker世界を続けていく以上、二人は引き離されなければならないのだった。視聴者の心は引き裂かれ、切なさだけが心に残った。
第二期は批判されることが多い。確かに第一期に比べれば、完成度は落ちるが、一人の少女の成長物語として及第点の出来だと思っている。一期と比べるのが悪いのだ。
ただ、この結末もただただ切ないだけなのだ。僕は全て見終わった後、胸が苦しくなり、蘇芳が愛しくて哀しくてどうもこうも堪らなかった。
どうかこの願望充足への予感を埋めてくれ――。
それは第三期が制作されることによって埋められるはずだった。
僕は、いや、僕達は一年待った。そろそろ続報があるはず……。
二年待った。まぁ、あれだけの物語の続きだもんね。時間もかかるはずだよ。
三年待った。え、え……。なんか作る気ないっぽいんですけど……。
四年、五年、六年……。
岡村天斎監督はDTBのあとも多くの作品を手掛けている。僕はそこにDTBの痕跡をみようと、続きの予感を見ようとチェックを続けているが、そこにDTBの面影はない。DTBネタを重ねた作品もあったが、DTBに遠く及ばないものだった。
もう残された方法は僅かしかない。ファンそれぞれが同人小説でも書いて、DTBの世界から脱出するのだ。二期の最後で少年銀など解釈に困るものを放り込まれているので、技術的にもものすごく困難なものになるには違いない。
ゲートの向こう側に出るために、偽りの空の向こうを見るために――。
DTBをみたものは、この切なくも心地良い呪いにかけられることになる。
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