スポーツ漫画の新形態 - 新テニスの王子様の感想

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漫画レビュー数 3,135件

新テニスの王子様

4.254.25
画力
4.00
ストーリー
3.75
キャラクター
4.50
設定
4.00
演出
4.25
感想数
2
読んだ人
2

スポーツ漫画の新形態

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

前作「テニスの王子様」の設定を継承するも、描く視点が変化

新テニスの王子様は2009年頃から連載が開始された、テニスの王子様の続編に当たる作品。当該作品を語る上で、多少なりともテニスの王子様の世界観に触れておく必要がある。テニスの王子様は、主人公、越前リョーマが青春学園中等部テニス部のメンバーと様々な試練を乗り越えながら、全国大会制覇を目指すストーリーである。よくあるスポ根漫画とは違い、主人公は至ってクールな性格な上、天才プレーヤーである設定だ。一匹狼で他者を寄せ付けなかった主人公だが、テニス部の活動の中で、部員同士の絆やライバルたちとの交流を経て、人間味あふれる魅力的な主人公に成長していった。

全国大会後、越前リョーマはアメリカへ旅立ってしまうのだが、「新テニスの王子様」はその間のストーリーを描いている。今まで主人公が在籍する青春学園を中心視点として進めてきた物語は、氷帝学園、立海大附属中学などライバル校にも平等にスポットライトが当てられるようになった。さらに中学生だけでなく、新たに登場する高校生プレーヤーたちの姿も詳細に描かれている。主人公の属する学校という中心軸から各々の一個人のプレーヤーに焦点が切り替わっていることが、当該作品の特徴の一つである。

爽快スポーツ漫画からの多元的進化

新テニスの王子様の魅力の一つに、予想の斜め上をいくトリッキーな試合運びであったり、空前絶後なキャラクターたちの必殺技などがある。このような作風に賛否両論はあるが、通常のスポーツ漫画と明らかな一線を画したことは評価に値する。現実ではあり得ないような現象の数々を読者たちに「許容」させてしまうところが、この作品のすごいところだ。例えば選抜合宿で幸村精市は「相手の五感を奪う」という技で試合に勝利してしまうのだが、どういった理屈で、なぜ勝ったかのかは具体的に描かれてはいない。けれどもそれでいて問題はない。そのことが作品自体の構成や面白さに影響を与えないのだ。今、読者が新テニスの王子様に求めているのは痛快さとクールさだけでなく、あり得ないからこその面白さであったり、そのギャクセンスなのだ。

さらに、新テニスの王子様に登場するキャラクターたちが、当該作品の人気を支えていることは、言わずもがな周知の事実である。個性溢れる美少年、美青年たちがコート上で戦う姿は、多くの女性ファンをひきつけたであろう。従来のスポーツ漫画にある、どこかむさ苦しい、男臭いといったイメージを一掃し、まるでアイドルのコンサートを見ているかのような気持ちにさせてくれる。そのキャラクターたちの人気っぷりを象徴する出来事が、毎年2月に行われるバレンタイン投票だ。お気に入りのキャラクター宛に(実際は出版社宛に)チョコレートを送り、その数が毎年集計されて本編で発表される。さらに上位にランクインしたキャラクターは、本編やサブメディアでの活躍機会が増えるとも言われている。テニスの王子様時代から行われている当該企画は、年を経る毎に盛り上がりが増し、近年では一番人気のキャラクターには、万を超える単位でのチョコレートが届く。本来のスポーツ漫画をいう枠組みを超えた、こうした様々な取り組みが作品の人気に供していると言える。

楽しければそれでいい。それが作者からのメッセージ

上記のことからも、新テニスの王子様という作品は、良い意味でかなりぶっ飛んだスポーツ漫画であることが言える。では作者は一体この作品を通して何を伝えたいのだろうか。私が思うには、純粋に作品を通じてテニスというスポーツを知って欲しい、そしてこの作品を楽しんで欲しいの一点に尽きる。どんな滅茶苦茶なストーリー展開であっても、どんな非科学的な情景描写であっても、描いてる人、読んでる人が楽しめる、心から笑える。ただそれだけで良いのだ。そのメッセージは、前作のラストのシーンからも伺える。主人公が全国大会にて「天衣無縫の極み」を覚醒させたきっかけ、それは誰もが持っている「テニスを純粋に楽しむ」という感情であった。そのコンセプトは今作にも引き継がれている。

人は大人に成長するにつれて、何事も損得勘定や場の空気、世間の目といったしがらみが付きまとうのだが、誰もが一番最初に持つ感覚、「楽しいからやってみよう」という気持ちを、作者は当該作品を通して呼び覚ましてくれたのだ。あえて特記しておくべきは、作者は独りよがりに作品を面白おかしく作っているわけではない。あくまでも読者のニーズや読者の惹きつけ方を十分に掌握した上で、あのような作品構成を行なっているのだと思われる。言い換えれば、作者は読者と共に新テニスの王子様を創り上げている最中なのだ。さらに言えば、作者は非常ファンへのサービス精神が旺盛で、自らを漫画家ではなく、ハッピーメディアクリエイターと呼んでいる。そのこだわりの数々が作品の中で垣間見れる。例えば、各話に付けられているサブタイトルの中には、キャラクターソングタイトルからの引用があったり、映画版のオリジナルキャラクターを漫画の本作に登場させたりなどしている。次はどんな破天荒なことをしてくれるんだろうという期待がファンを魅了して止まないのだ。

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