楽しさ4倍・それぞれの恋道はどれも酸っぱい
ふうの場合
東京アリスのメイン主人公であるふうは、恋とか愛とか、好きになるってことをわかっていない30歳目前のお年頃。お買い物大好きで、ブランドもの・かわいいものの安売りには目がない女。そのため貯金は常にないようなもの…こんな女なんてモテなそうですけどね…生活能力も全然低いし。そんなふうが奥薗さんとどのような恋路をたどるのかというのがお話のメインになっています。奥薗さんは、普通にふうのことはかわいいと思っていて、仲良くなるたび、趣味の合わないものの力説をくらったり振り回されてばかり…もうM男なんだろうという気しかしません。イケメンで物静か、笑うとちょっと幼くなる。これは鉄板の母性本能をくすぐるやつですが、奥薗さんがふうに振り回されてあーだこーだやっているのはちょっとかわいそうな気もしますよね。
そんな我が道を行くだけのふうが、恋がどんなものかを知り、付き合うことがどんなものなのかを知り、ラブラブを極めて女性らしくなっていく(見た目じゃなくて恋する乙女って感じの思考を手に入れていく)過程は楽しかったです。奥薗さんとは何もかもが違っているのに、お互いに惹かれあう。自分らしく生きていることを認めてくれるようなストーリーに、元気づけられた読者も多いのではないでしょうか。終盤、まさかの結婚は考えていないという方向へいき、似ている者同士でくっつくのかと思いきや、やはり奥薗さんでした。ここまでずっと奥薗さんできたんだから、まさかひっくり返されても胸くそ悪い気分になってしまったと思うので、最後におさまってくれてほっとしています。
お買い物と恋愛。これを対比させたような言葉は、いつもハッとさせられました。
理央の場合
まさかの百合疑惑。数多くのセフレたちと体だけの関係を持つ日々。女医でありまさにクールビューティーな女性。好きな人(ふう)とは結ばれないと言っていた彼女。カラダは男にあげても、心は絶対誰にもあげない。途中、泉くんと対峙し、その恐怖とも向き合っていた理央。なんかかっこいいなと思っちゃいましたよ。恋い焦がれる気持ちをそっと隠して毎日仕事頑張って、友達のために頑張って…だけど、やっぱり理央も恋を知らない人だったんですよね。ふうに対する気持ちが何なのか、みずほのためと言いながら自分の泉に対する気持ちが何なのか。ちゃんとわかってなかったと思います。みずほを助けようとしていたときは、自分が泉を振ったことが関係しているのだろうかという罪悪感・責任みたいなものも感じていただろうし、でもセフレたちを断ち切る勇気は持てない理央の弱さもうまく表現されていましたね。てゆーか、理央と対峙したときの泉の顔…やばい怖かった。あれは怖い。ぞっとしすぎて夢に出てきましたよ。表情のない恐怖って破壊力抜群ですね…
憧れや尊敬と、恋は全然違うもの。頭で考えているだけではどうにもならないもの。東雲さん、理央を変えてくれてありがとう。どんどんかわいくなっていく理央の姿に、やはり恋って素敵ね~と思いました。あなたに愛されたいっていう気持ち、正直に伝えないと損です。やっぱりクールビューティーにはかわいい系のお顔とおちゃめさが似合うよね!妊娠して気づくこともある。これって女の特徴ですよね。ぐるぐる考えていたことが、命を宿してガラッと変わるんです。
みずほの場合
最もかわいそうな子でしたね…ダメ男とばかり付き合ってしまう、漫画家として成功することを目指している女性。最初のミュージシャンを目指してた男はあっさり別れましたけど、泉がほんとに…ひどかった。束縛。DVの数々。理央へ向けていた愛がこじれたせいなの?もともとそうだったの…?みずほも苦しいし、理央も苦しかったよね…しかも、そのあと例の編集の人とうまくいってくれるのかと思いきや、DV野郎の子どもをすでに身ごもっていたという驚き…添い遂げようと思う男に対して嘘をつくのは最低だよ。そりゃ無理だ、付き合っていくのは。みずほはとても弱かったね。でも、女性ならわかる。いつも自信がなくて、どうやって生きていったらいいのかわからない。どこに居場所があるのかもわからない。がんばっているようでがんばれない。でも認めてもらいたいと思ってしまう承認欲求の強さ…女性の悪いところをぎゅっと凝縮したような彼女。応援できないのに、共感はしてしまいました。
そんなみずほも、シングルマザーへの道を選択したことで、変わっていきましたね。もともと得意だった手芸雑貨を販売することで、どんどん成功していく。最初からこの道だったらよかったのかもしれないけど、道をそれながら進むのが人ってもんだからね。最終的にはいい人が見つかってよかったじゃないか。逃げてうじうじしている場合じゃない。卑下している暇があったら、進むべきなんだってこと、ひしひし伝わってきました。
円城寺の場合
円城寺…顔変わりすぎじゃない?正直最初の男とっかえひっかえカラダの相性のいい人を探している頃のほうが美しく、これぞ円城寺という表情だったと思います。それが、翡山と出会ってがっつりもってかれて、顔のつくりまで変化を遂げるとは…恋とは恐ろしきものですね。ほとんどふうと区別つかないくらいの顔ですよ?わざと?
まさかパリで結婚式挙げてますってところでかっさらわれてゴールインするとは…相手がかわいそうで仕方ないです…お見合い結婚と恋愛結婚のどちらが幸せになれるのかとかはわからないですけど、誰かが悲しい思いをしなきゃいけないっていうのはちょっとね。つらいものがあります。手練手管なのかと思いきや、やっぱり円城寺も女の子ですよね~…関西弁のおとこ、確かに魅力的。強引さって胸が躍りますし。
しかし、円城寺の男関係よりも、みずほとのケンカのシーンのほうがぐっときたな~…あれだけお互いにひどいことを言い合っていても、ちゃんと集まってご飯食べたり、謝ったりして、元通りに戻れるっていうところが素敵です。女友達って本当に曖昧なもので、つながっているようでつながっていないじゃないですか。お互いが遠慮でつながっているような。だから、この仲間のようになんでも言えて、一緒にいることに違和感がでない感じ、尊敬モノでした。
恋に年齢って関係ないと思えてくる
4人のアリスたちは30歳目前。でもちゃんと恋愛はできていない独身の集まり…そんな彼女たちが見つけた幸せはまったく別々の道。探していたものが同じでも、やっぱりどういうことになるかはわかりませんね…働く女性の恋の戸惑い、4通りも見せてくれるのでずいぶんとお腹いっぱいな作品になっていると思います。東京アリスを読んでいると、いつまでたっても心はピュアなままだなーって思うし、大人ほどめんどくさいってことも分かってきます。知っているふりして知らないことってきっといっぱいあるよね。
4人が別々の選択をする中で、ちゃんとお互いがお互いを励まし刺激しあい、いい関係をより良くしていく。これはうらやましいです。特に、ふうと奥薗さんが結婚式を挙げないことを見越して、手作りの結婚式をしてくれた…こんな友達いたら最高じゃん。最高すぎるよ、これで泣けないわけがない。4人の友情の集大成がまさにここに持ってこられていたなと思います。こんな関係を築けるよう、精進したいですね~。
ていうか、男の登場人物全部奥薗さん関連の人じゃん。どこまで仲がいいんだ…
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