何度でも手に取りたくなる秀逸な4コマ! - 殴るぞの感想

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殴るぞ

4.004.00
画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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何度でも手に取りたくなる秀逸な4コマ!

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

いつでもどこからでも読める手軽さ

この作品の長所としてまず挙げたいのが、やはりいつでも、どこからでも読める手軽さである。続きものの漫画を読むとなると、普通は1巻から読まなくてはと思いがちだが、この漫画は3巻から突然読み始めてもきちんと面白い。

読みかけのまま、ちょっと部屋に置いてあるとつい何度でも手にとって読んでしまう。サラリーマンで賑わう飲食店にあってもいいだろう。昼休憩の合間に、家から出かけるまでのちょっとした時間に、寝付けない夜に、少しずつ読むことができる。読む順番があるようでない、4コマ漫画ならではの手軽さを感じる。

個性的なキャラクター

この作品をはじめ、この作者の漫画には個性的なキャラクターが数多く登場する。特にこのシリーズでは、際立った愛すべきキャラクターがいるのだ。

飼い主から犬への愛情ではなく、犬からの飼い主への深い愛情が表されていたり、家政婦の和歌子の常識から外れた努力、のぶ子のついつい行き過ぎてしまう妄想など、漫画ゆえの誇張表現はされているとはいえ、彼、彼女らに少なからずシンパシーを感じる読者は多いはずである。

なぜなら日常生活の中でも、私達はこのキャラクター達に出会うことがあるからだ。飼い犬に並々ならぬ愛情を注ぐ人を目の当たりにすることがあったり、頑張っているのは伝わるが、努力の方向を間違えている人と接したり、仕事中になにげなく耳にした言葉から、他人には決して言えない様なくだらない妄想をしてみたり、ということは誰にでも少しは当てはまる経験があるのではないかと思う。

普段なら当たり前に過ぎていく日常生活の中に、埋没していく出来事や経験が、決してそのまま描かれているのではなく、小気味のいいギャグへとテイストを変え、キャラクターを介して、作者の独特な切り口、表現で見事に4コマに納められているのである。このキャラクター達が表しているのはただのギャグではなく、作者の実体験を通した、読み手へのメッセージなのではないかと感じることも少なくはない。

もう一度読み直した時にふと、じわっと懐かしい感覚を味わうのはきっと、生活のどこかにある面白さが絶妙なテイストで表現されているからだろう。

日本語に対する愛情

作品の中で、私が最も感じているのは、作者の日本語に対しての愛情深さである。特にその愛情を感じるのが、PRである。初めて読んだときには、単語やちょっとした一文をPRするというだけの事が、こんなにも面白いのか!と大いに感銘を受けた。

日本語の成り立ちや、セオリーなどの細かいことは、この際置いておいて、音の響きや言葉の意味だけを強調し、煽り文句を添えた1コマのイラストだが、見る人には強力なインパクトを与える。

日々の中で、深い意味もなく目にしたり、口にしたりするツールとしての言葉、言語ををあえて脚色する。しかも、言葉そのものの目線に立ってPRするなんていうことは、思いもしなかった着眼点であり、まさに目から鱗であった。ネガティブな響き、意味合いの言葉でも、作者が焦点を当て、独特な煽り文句とイラストで、PRされる事で、その言葉自身の持つ価値が上がり、まるで店で売られている商品のを見ているような気分になる。日本語そのものが持つ音の響きの楽しさや、漢字とひらがな、カタカナが組み合わさって出来る、無数の言葉の持つ可能性への挑戦なのではないかとまで感じてしまう。

また、既存の単語を言い換えて新しい単語を提案するというものも作品の中によく見られるが、これも読めば読むほど、なるほどなと感心してしまう。

今使われている日本語の中にも、分かりにくい言い回しであったり、使いにくい日本語は存在するが、そういったものに対して、新語を提案というのではなく、特に疑問を持たずにあたりまえな使われているものを、新しくこう呼んだらどうだろうと言ってしまう、作者の遊び心があるのだ。このハイセンスな視点についつい笑みがこぼれてしまうのである。

現代人は、つい日々の忙しさから遊び心を忘れてしまいがちだが、単語ひとつでこんなギャグが思いつくのかと思うと、作者の型破りな発想力に勇気付けられる。この漫画を読み直した後は、日常生活の中の当たり前に感じていることを、話している言葉を、目にしているものを、少し立ち止まって違う視点で考えてみるのも面白いのでは?と思う。それは決してギャグ漫画の世界だけの話ではなく、私達が日々見ているものに色を添えるものになるのではないだろうか。この発想はなかったな!と感心することは、決してマイナスではない。物事を多彩な視点で見ることができるようになる1つのきっかけになるのではないかと感じる。

読み手をこんな気持ちにまでさせてしまうこの作品は、軽やかなギャグの裏側にある、作者の日本語に対しての深い愛情が伝わってくる。

全ての人にもう1度とは言わず、暇なときに何度でも読み直してもらいたい作品である。

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