ロドリゴ=ガルシアにサスペンススリラーは似合わないし、似合わなくっていい - パッセンジャーズの感想

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ロドリゴ=ガルシアにサスペンススリラーは似合わないし、似合わなくっていい

3.63.6
映像
4.0
脚本
3.4
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
3.4

目次

サスペンススリラーという描き方に無理がある

2008年作品。ロドリゴ=ガルシア監督がサスペンススリラー?と興味を持って見たら、容れ物は違えど、やはりロドリゴ=ガルシアらしい作品になっていました。

しかし、もっと彼にとっての初期の作品だと思っていたのです。実績がまだ少なくて、請け負ってやった仕事なのだろうな、となんとなく思い込んで見たので、本作が「美しい人」の後に撮られた作品だということにちょっと驚きました。

何か、製作上の縛りがあったのかもしれないけれど、そもそも、この作品を取り立ててサスペンススリラー的に演出する必要ってあったのだろうか。

色々と齟齬や、ぎこちなさのようなものを感じます。ロドリゴ=ガルシアには、一貫した世界観があって、それが自分もとても好きで、今後も大事にしていってほしいと思います。彼のもつそういう良さと、「サスペンススリラー」というジャンルがそもそも噛み合わないというか。見る人に、どういう風に感じて欲しいのかがぶれているように感じ、戸惑いながら見ていたように思います。

ホラー的にびっくりさせるような演出や、登場人物をどういう風に捉えたらいいのか計りかねる流れが終盤まで続いて、ラストのどんでん返しで「みんないい人だった」と急に言われても、なんだかすんなり腑に落ちにくかったです。

キャメロン・クロウが、トム・クルーズのご指名で「バニラスカイ」というサスペンス映画を撮りましたが、それに似た違和感を覚えました。ロドリゴ=ガルシアには、サスペンススリラーは似合わないし、似合わなくっていいです。

人生の敗者を優しく抱きしめるロドリゴ=ガルシアのまなざし

ただ、物語の意図というのは、持っているメッセージそのものは、とても彼らしいと感じられます。彼の作品どれにも共通するのは、人と人とはけして完璧には分かり合えないこと、けれどもそれぞれがその人なりの切実さをもって、その人なりに善くあろうと努力して生きていること、それでもそのことがうまく受け取られるとは限らないし、理不尽なものごとに取り囲まれて人は生きており、時に無力であること。そういう悲しみと苦しみにに満ちた世界観です。

そして大事なのは、人生とはそのような理不尽と苦しみと孤独の中にあるものだけれど、それでも、自分なりにベストを尽くし、悔いなく生きる、生き続けることが大事なのだと言っているということです。

ロドリゴ=ガルシアの映画は、いつも柔らかい悲しみに包まれているような感覚があります。力強さのようなものは薄くて、一見、諦めたような無気力さえ感じさせます。けれども、とても優しいのです。誰の目にもとまらず、報われもしない人生を、ただこつこつと生きていく、その中に小さな喜びや幸せを見出しながら。そういうささやかな人生を、優しく抱きしめ、励ますようなまなざしがあるのです。

そういう視点は、ロドリゴ=ガルシアという人が、コロンビアのボゴタに生まれで、また父親がガルシア=マルケスであるといった、彼の生い立ちや環境が深く関わっているのだろうなと想像します。

ともかく、アメリカ的な価値観とは全然違う。むしろ、彼の見つめているものは、宮沢賢治に近い。極端な言い方をすると、きっと彼は勝者には興味が無いのだろうと思います。敗者にしか興味がないのだろうと。

そして、人生とは、必ず負けるものです。だれひとり勝ち続けることはできない。いかに勝つか、いかに負けないようにするか、という物語で今の世界は溢れています。負けることをある意味是とするロドリゴ=ガルシアの優しいまなざしは、もちろん悲しいし、救われるわけではないんだけれど、なんだかとてもほっとする。許されているような気持ちになるのです。

魅力的なアン・ハサウェイ

本作のヒロインは、ニューヨーカーで、舞台女優を母に持つ、アン・ハサウェイ。良い女優さんだと思います。単なる美人というのではなく、全てが大作りで、ぱっと目をひくし、2006年の「プラダを着た悪魔」での田舎もののかわい子ちゃんが徐々に垢抜けていく、ある種のシンデレラストーリーのヒロインとして一躍脚光を浴びた彼女でしたが、流行の女優にとどまらず、色んなキャラクターをそれぞれ印象深く演じる抽き出しの多さを感じさせます。

2008年は、本作よりはむしろ「レイチェルの結婚」での大きな成功が彼女を飛躍させましたが、これも難しい役でした。本作のクレアのような才媛ではなく、精神が不安定で、傷ついた薬物中毒の女性、家族のはみ出し者、といったある意味真逆の役柄。どちらも真実味のある存在感だったと思います。

アン・ハサウェイは、どんな役柄を演じていても、いつも心が震えているような、切実でひたむきな感覚があります。あやうさと言い換えることができるかもしれない。そういう風に観る者の心をざわめかせることのできる女優は、きっと多くはありません。これからの活躍も楽しみです。

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