完成度が高い
赤坂アカ
作者であるこの人は以前、インスタントバレットという作品を描いており、私はその頃からこの人の素晴らしいアイディアを生み出す力に惹かれていた。前作のインスタントバレットのほうは残念ながら打ち切りとなってしまったが、作者は最後まで続きを描き切り、ネットに無料で投稿してくれた。それほど思い入れのある作品だったのであろう。
さて、今回のこの作品について、作者は結末が完全に白紙の状態であると述べている。思い入れがないのか?と一瞬思うかもしれないが私はそれは違うと思う。これは、すぐに思いつくようなありきたりなエンディングにはしない。と作者が考えている証ではないかと私は勝手に想像する。
完成度の高い第1話
この作品のすごいところは第1巻でメインキャラクター達3人の特徴を色濃く、自然に表現しきれているところではないかと私は思う。特に第1話は完璧だ。会長とかぐやに哲学用語などを言わせ教養の高さを示し、そして互いに裏をかきあうことで頭の回転の速さを表現している。かぐやの腹黒い性格も完全に表現されている。オチは一見普通に見えるが、藤原書記がちゃっかり2人の行動を阻止してしまうという展開に持っていくことで、彼女のド天然さを読者の脳裏に焼き付けることとなる。
恋愛が迷い込んでくる
第2話からは恋愛要素が少しずつ強くなり、ラブコメというジャンルの色を鮮やかに引き出してくる。第2話では、第1話と同じように2人の頭脳戦が繰り広げられるのだが、今回は前回よりも2人の原動力に恋というものが加わっているように見える。計画が失敗したときのかぐやのがっかりとした表情がなによりもその証であろう。
第3話までは少し悪く言うとワンパターンであったが、第4話からは変わった展開になってくる。
第4話では会長とかぐやの2種類の天才が表現されている。かぐやはなんでもできる万能型の天才であるのに対して、会長は勉学一本の努力型の天才なのだ。そのため会長はこのとき初めて触れるなぞなぞというものではかぐやには足元にも及ばない。ちなみにこの話のコマの中に全国模試のことが描かれているが、なんと会長は全国2位で、会長の上には四条帝なる謎の人物が1位に君臨している。しかもこの謎の人物は会長と同じ東京都在住で現役高校生であることが読み取れる。まだ作中には登場していないが、いずれ必ず出てくるだろう。この物語には変わり者ばかりでてくるため、彼も相当な変わり者であることは確実だろう。さらに、この模試の順位が8位まで表示されているがその中にかぐやの名前がない。このことから推測できることは2つ。かぐやは理系ではなく文系、もしくは勉強はそこまでできるわけではないのかもしれない。この話のオチでは会長がなぞなぞの勉強を馬鹿みたいに真剣にやり、かぐやに対抗できるまでに成長した。会長の努力型の天才という特徴が色濃く出るオチとなっている。
第4話では会長が情けない姿を晒したのに対し、今度はかぐやが失態をする。今までは頭脳戦が繰り広げられていたのに対し、今回はすれ違いが繰り広げられている。そしてここで初めてかぐやと藤原書記の関係が深く取り上げられる。かぐやは会長のお弁当を食べてみたいのだが、プライドが邪魔をしてしまう。ここでそんなかぐやの複雑な感情を一言で言い表す伝説の名言が誕生する。
「そのタコさんウインナーでいいのに!!」
ここまで的確な表現を思いつくとは、この作者の創造力には恐れ入る。そんなかぐやを尻目に会長のお弁当を食べている藤原書紀をかぐやはこう表現している。
「プライドが無く、他人に依存することにばかり長けた寄生虫・・・胸ばかりに栄養が行ってる脳カラ・・・」
気づいただろうか、かぐやの特徴と正反対なことに。かぐやは藤原書紀に軽蔑だけでなく、嫉妬も感じていたのだ。結局かぐやは会長からはお弁当をもらうことはできなかったが、藤原書紀から間接的もらい仲直りして終わるというきれいな締めくくり方をしている。
第6話では初めてモブが話しに絡んでくる。このモブは会長に恋愛相談に来たのだが会長はご存知の通り恋愛経験に乏しい。努力型の天才である会長にはとても難しいことで、何度も的外れな回答を繰り返す。しかし最後にとんでもない名言を言い放つのだ。
「とにかく告白しなきゃ何も始まらん。恋に策略を練って駆け引きなんてしても話がこんがらがるだけで良い事ないぞ」
この作品を説明するのにこれほど的確なセリフは他にないだろう。だれかにこの作品を伝える時はこのセリフから引用すれば完璧だ。それほどこのセリフはうまく作品を表現しているのである。
ほのぼの展開で意外な一面を表現
第7話、8話では頭脳戦を繰りひろげるが、第9話では初めてほのぼの展開が来る。生まれて初めて1人で歩いて学校に行くことになったかぐやは新たな計画を実行しようとしていたが、道中で困っている女の子に遭遇する。計画遂行のために見殺しにするかと思いきや、意外なことに助けに行ったのだ。このギャップがたまらなく愛おしい。作者はキャラを描くのが非常にうまい。
総評
この1巻は非常にバランスがよく作られており、細部に至るまで楽しませる工夫がしこまれている。このクオリティーを維持するのは難しいことだろうが私はこの作者の今後の展開に期待せざるを得ない。
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