ファンが描くシャーロック・ホームズの魅力
オリジナルストーリーに描かれたシャーロックの魅力
シャーロック・ホームズと言えば、誰もが頭に浮かぶのはスマートでポーカーフェイスのイメージではないでしょうか?しかし本作のシャーロックは、そんなイメージとはまるでかけ離れたキャラクターとして描かれています。推理力をひけらかせて初対面のメアリーを怒らせてしまったり、敵と戦って関係のない造船所に入って船を破壊してしまったり、アイリーンに対しての警戒心はかなり甘くいつも騙されてしまったりと、とっても人間味あふれるシャーロックとなっています。一般的に知られているシャーロックとは一味違っていますが、少年時代からシャーロックのファンである監督のガイ・リッチー氏は、アーサー・コナン・ドイルの描くシャーロックの姿を自分たちなりに読み解いた結果、これが本来のシャーロック・ホームズの姿だと確信して描いたようです。
シャーロック・ホームズの小説は、最初の2作が長編となっていて読むのに少し勇気がいるため、多くの人が映画・ドラマ・アニメといったところからのイメージが強いでしょう。しかし、この映画を通してシャーロックという人物に少し親近感を覚え原作を読んでみたいと思う人も増えるかもしれません。
19世紀のロンドンの闇
19世紀ロンドンでの一番の大事件と言えば「切り裂きジャック」ですが、黒魔術も信じられていた時代で、世界的にも戦争が多かった時代ともいえます。この映画の中でも民衆は黒魔術を信じていて、ブラック・ウッド卿の呪いに翻弄されます。そのことが捜査の妨げになっていることは明らかだったでしょう。時代背景としても、決して人々が安心して暮らせるような時代ではなく、そんな不安定な状態が余計に「黒魔術」「呪い」を信じやすい状況にしてしまっていたのでしょう。
この映画の中でシャーロックは「恐怖心というのは、感染しやすい」と言っています。黒魔術や呪いの類を信じていない人でも、目の前の現象に対し誰かに「これは呪いだ」「黒魔術だ」と言われると完全に否定することが難しくなります。ましてやその現象が目を疑うようなものであれば、否定したり疑ったりするどころか信じてしまう人が増えてしまうことになるでしょう。そこには「こんなひどいことを人間がするなんて考えられない」といった心理も働いているのかもしれません。そういった民衆心理をブラック・ウッド卿はうまく利用し、あたかも黒魔術が実在するものであるかのように人々に信じさせていきます。人々の方もこうも理解しがたい現象が続けば、どんどん「呪い」や「黒魔術」といったものを信じやすくなっていっても不思議ではないのでしょう。そして、その根本にある共通の感情が「恐怖心」なのでしょう。いくら目の前の現象が信じられないものだったとしても、この「恐怖心」がなければ、シャーロックのようになぜそうなっているのかを冷静に観察することができるのでしょう。
みんなに愛されているシャーロック・ホームズ
この映画では変人・厄介者扱いをされているシャーロックですが、主要な登場人物たちにはとっても愛されているようです。常に裏切ったり・だましたりしているアイリーンですが、シャーロックにダメージは与えても、決して殺したりはしません。そしてレストレイドも憎まれ口はたたきますが、最後にはシャーロックを助ける立場をとります。そして初対面では最悪の出会いをしたメアリーですが、保釈金を払って刑務所から出したのはワトソンだけという意地悪もしますが、ワトソンを偽医者に扮して見舞ったシャーロックに対しては優しい言葉をかけています。
しかしこれらの登場人物の中でもとりわけ一番深い愛情を注いでいるのはワトソンでしょう、なぜならシャーロックがワトソンやワトソンが大切にしているものに対して、とっても酷いことをしても結局許してしまうからです。ワトソンにとってシャーロックは、本当に手のかかる子どもといったところなのかもしれません。
ここで描かれているシャーロックは、お世辞にもお近づきにはなりたくないような人物ですが、それでも魅力的に感じるのは人柄なのかもしれません。たとえ暴言だったとしても、彼の言動には悪意というものが感じられず、素直に思ったことを言葉にしたら暴言だっただけなのだろうと感じます。やりたかったからやっただけ、思ったから口にしただけという印象しか与えません。それは誰しもなりたくてもなれない人物像なのでしょう。だからこそ嫌うことができず、逆にそこを魅力的とさえ感じてしまうのでしょう。
シャーロック・ホームズのファン(シャーロキアン)からは、シャーロックのイメージとは全然違うといった評価もあったようですが、原作を読んだことのない人たちに「これだけ登場人物に愛されているシャーロック・ホームズとは他ではどんな人物像で描かれているのか?」そんな興味を持たせるに至ったこの映画の監督こそ、この映画の中で一番シャーロックを愛している人物なのかもしれません。
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