どうしてここまでコンスタントに高いクオリティーの作品を作り続けることができるのか - 映画と恋とウディ・アレンの感想

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どうしてここまでコンスタントに高いクオリティーの作品を作り続けることができるのか

4.44.4
映像
4.1
脚本
4.3
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.3

目次

ウディへのインタビュー映像の多さが貴重

古いジャズをBGMに、独特の真っ黒な画面に白抜きのフォントで作品が始まるたびに、独特の心地良さを感じていつも少し鳥肌立つのです。どれも判で押したように同じ映画の始まりに、ああ、ここからしばしウディの映画の世界に入り込んでいくのだなあという心持ちがして、毎回嬉しくありがたく思います。

現在80歳。にもかかわらず、毎年1本という驚異的なペースで作品を作り続けている、自分にとっては最も尊敬すべき映画人のひとりであるウディ・アレンの軌跡をたどったドキュメンタリーです。

この作品の公開は2012年。撮影はテレビや映画の監督及び脚本家でもある、またコメディでエミー賞の受賞歴も持つロバート・B・ウェイドが1年半かけて撮りだめたもの。作品中の素材から察するに、撮影当時に製作されていたウディ映画は「恋のロンドン狂想曲」「ミッドナイト・イン・パリ」「ローマでアモーレ」あたりでしょうか。

近年の彼の作品の中では「ミッドナイト・イン・パリ」は最も興行的に成功した一作で、そういう意味でも景気がいいというか、インタビューに登場するたくさんのセレブたちの存在も相まって、とにかく現役な存在としてウディが描かれているのが好ましかったです。レジェンドとか、巨匠みたいな仰々しいことがひとつもなくて。まあ周りがどうであろうと、ウディ自身はいつでも淡々と物語を生み出し続けているわけですが。

ウディの仕事や考えについての研究はこれまで多くされており、インタビューや書籍はいくつも出版されていますので、この映画の語る内容は、それらを読んでいる者にとってはある程度のことは了解済みではあります。ですが、実際に「今の」ウディ自身が映像でもってざっくばらんに語っている姿が多く出て来る、しかも彼のNYの書斎で、窓の外にははらはらと雪が降っているような静かで心地の良い部屋で、というのは、やはりファンにとっては見られて嬉しいものですね。

ウディ映画を彩る女優たち

ウディがオファーしたなら、何はともあれ断る俳優は少ないでしょう。いわゆる「ハク」がつくし、名誉なことでもあるし。ウディ自身は役者に固執することなく(時代時代にお気に入りの女優はいるけれど)、いいと思えばどんどん起用する、というこだわりのなさが柔軟でいいなあと思います。この作品にも多くの人気俳優がインタビューで登場します。

こうして振り返ると、彼の作品には本当に多くの女優たちが名を連ねてきたなあ、俳優というよりはやはり女優の印象がすごく強いなあと改めて感じます。

そして同時に気がついたこと。自分が個人的にとても愛着を感じるウディ映画というのは「ブロードウェイと銃弾」までなのですが、その後の作品ももちろん見続けていますが、何か近しくは感じていない。そして「魅惑のアフロディーテ」以降の作品は、ミラ・ソルヴィ―ノを皮切りに、ダイナマイトボディーなセクシー女優を起用しはじめたという事と一致しているなあそういえば、と思いました。

ダイアン・キートンやミア・ファロー、ダイアン・ウィーストといった人たちがやはりウディ映画には一番しっくりくるなあとは思ってしまいます。

最近の作品で登場しているペネロペ・クルスやスカーレット・ヨハンソンといった女優たちのいかにも感溢れるインタビュー、ウディの彼女らに対する絶妙〜なデタッチ的なコメントはそれはそれで見ていて面白かったけれど、最も印象に残ったインタビューはもちろん!ダイアン・キートンです。

ダイアンが本当にさっぱりとして素敵で、今もウディの良い友人でいるのだということが画面から伝わって来て、とても嬉しかった。笑顔がお花みたいで、素晴らしい年の取り方をしているなあと感服して見ました。

ミア・ファローとのああいう顛末があり、もちろんミアはインタビューにも登場せず話題にもほとんど登らないということがあるだけに、映画全体が救われるくらいのダイアンの素敵さでした。

自分が人生の落伍者のように思えるんだ

「アニーホール」や「ハンナとその姉妹」「重罪と軽罪」といった70年代後半から80年代後半にかけての作品を特に偏愛してはいるものの、近年の作品にも好きなものはたくさんあり、必ず一定以上のクオリティーでもって作品を届けてくれることは驚嘆すべきことだと思っています。

ですのでやはりウディの人となり、創作の秘密に迫るにあたっては、「どうしてここまでコンスタントに、クオリティーの高いものを創作し続けられるのか」という興味に尽きると思います。

映画の中で、今も印象深く最も忘れがたいひと言は、

「仕事を始めてから、仕事が絶えたことは一度もなかった。やりたかったことは全て実現した。こんなにも運が良かったのに、なぜだろう。自分が人生の落伍者のように思えるんだ」

というウディ自身の言葉です。折りに触れて、この言葉を思い返し続けていました。

そうして、自分も年を取りながら、色んな映画を見続けてきたわけですが、今では「このように感じるウディだからこそ、これだけの作品を生み出し続けられているのだ」としみじみ感じています。

映画という華やかな世界にあって成功するということは、多くのオプションを成功者に与えます。

有名になる事、沢山お金を稼ぐ事、多くのファンを持つ事や、多くの人に好かれること。多くの有名人との関わり、豪勢で、華やかで特別な経験。

ウディ・アレンという人は、これらのプラスのオプションをひとつも受け取らずに来たのだ、ということが彼のたたずまいを見ていると、話を聞いているとよく分かるのです。多分、それらの受取りを拒否することだけが、その呪いも引き受けずに、あるいは最小限で済ますことのできる方法なのだろうと思います。

どれだけ多くの人々が、このオプションを無邪気に享受してだめになっていったことか、多くの例が示しているとおりです。

だから何の華やかなこともなく、孤独であることは、ウディが彼自身が満足するレベルの仕事をコンスタントに生み出し続けて行くことと切っても切り離せないのだと思いますし、享楽的で華やかで、周囲の人に崇められたり持ち上げられたりするようなライフスタイルと長期的なクリエイティビティーというものはけして共存しないのだろうと思います、おそらく。せつないことではありますが、この世の仕組みのひとつなのだと思います。

その上で、ささやかな日常の幸せの中にウディがあらんことを、といちファンとしては願うばかりです。

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