かの名作「逆境ナイン」の足元にも及ばない、島本よ!!パルスを正せ! - ゲキトウの感想

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ゲキトウ

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かの名作「逆境ナイン」の足元にも及ばない、島本よ!!パルスを正せ!

2.02.0
画力
1.5
ストーリー
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キャラクター
1.5
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演出
2.5

目次

自身の最高傑作の続編、前作を乗り越えられるか

本作は2004年に連載した作品、周知の通り1989年~91年に連載した「逆境ナイン」の続編である。「逆境ナイン」は島本作品の中で最高傑作との評価が高く、私自身も島本氏はもはやこの作品を超えるものを書くことはあるまい、と思っている。前半こそイマイチなスポーツギャグマンガだが中盤から「男の道」「教訓」「熱さ」「ギャグ」が噛み合ってきて最終的にはギャグテイストのまま感動するという不滅の作品になった。デビュー直後の「炎の転校生」あたりは勢いだけの読みづらい作風だったのに対して、「逆境ナイン」はその読みづらさを反省するどころかさらに熱く濃くして感動を呼ぶレベルまで高めた。

その最高傑作の続編である。周囲の期待もあり本人のプレッシャーも大きかったことだろう。そしてしかし、本作は見事に前作の威光を汚す駄作に終わった。面白くなる片鱗も無くはなかったがついに花開くことはなかった。本考察ではどのあたりがダメだったのかを語りたい。 

息子、妻の描き方が全くダメ

父親の晴れ舞台でもゲームをしている息子、という設定は悪くはない。しかし無視したまま特に進展しない、というのが「逆境ナイン」の続編にはあまりにも似つかわしくない。他の作品なら「人生こんなもんよ」という書き方もあるだろう。しかし、本作はあの熱い作品の続編なのだ。最初は冷めていても「男の魂の伝達」が起こるべきである。単純に「すごいよトウちゃん!」みたいじゃなくてもいい。島本作品ぽく、父親より悪乗りして「男球」ならぬ「子供球」を投げるとか、いつものようにゲームに向かっているようだが魂だけが伝わっており通常の100倍のスコアをたたき出すとか、何かしら「バカバカしいけど熱い」を継承するやり方があったはずだ。

妻は息子よりはいいが、今ひとつ甘い。不屈の妻となる女性であればより大きなパワーを持っているべきだろう。前半はいい。崩れかかった不屈を冷静に見つめるあたりは悪くない。しかしやはり息子に対しての嘆き、あきらめが「逆境ナイン」の続編らしくない。100パーセントの解決が無いとしても、「いつか不屈闘志の男の魂を注入してやるわよ!」くらいの勢いがほしいところである。 

もしかして続いていれば盛り上がったのか?

「逆境ナイン」も連載開始初回こそ勢いがあったもののその後の数回は大した作品ではない。単行本で言うと2巻までは読みどころが少なく、私は知人に勧める際は「2巻までは我慢してくれ、そのあと必ず面白くなるから」と言っている。中盤から明らかに作風が変わるのだ。1、2巻では主人公たちが「逆境をどう乗り切るか」、という消極的な流れが強い。しかし途中から「逆境にどう立ち向かうか」という前向きなものになる。ここから男球が生まれるまでの流れが十分に凄いのだが、そこから更に加速度的に面白さが増していく。この前例を考えるともう半年読者や編集社が我慢してくれればきっかけを掴んだかもしれない、とも思う。しかし、所詮「たられば」である。名作と呼ばれた作品で最初から構想があったのならまだしも年単位の期間をおいて続編を作ってうまくいく例は少ない。何しろ読者の期待値が半端ないからだ。仮に本作が続編でなければ私もそこそこの点数をつけたかもしれない。年輪のくだりなどはそれなりに面白いし島本作品特有の熱さもある。いっそ不屈ではなく「逆境ナイン」終盤に甲子園決勝で対戦する強力学園の無敵勇士を主役にでもして、客席から腕がつぶれるまで投げて伝説の男となった不屈が見ているとか、炎尾燃が見ているとかいう展開もアリだったかもしれない。「情けないぞ、無敵!それが一度は男球を投げた男の姿か?」などと叫ばせるなど読者も納得しただろう。そう、本作に足りないのは「納得」なのだ。

不屈は10年間何をしていたのか、「樹齢サウザンド」を投げる時点で不遇の10年に果てしない年輪を積み重ねた、という趣旨の言葉があるが、それならば何故息子に「男の魂」は伝達されていないのか。全く納得がいかない。何よりも「男の闘い」をよく見ていなかった息子が、最後に笑顔で不屈を迎えるシーンも腑に落ちない。ゲームをセーブしなければならなかった、というのはオチとしてはあまりにも弱すぎる。2010年発行の完全版には島本本人のコメントも有り、もっと続けていれば日常生活もかけた、とか言っている。しかし所詮それは言い訳でしかない。結局島本は10年後の不屈に「男の魂」を注ぎきれなかったため、それを持っていない「ゲキトウ」の不屈は息子にも読者に熱さを伝えられなかった。

そもそもあの感動のラストに続編を作ろうという考え自体が後ろ向きだ。名作と言われる作品であれば続編の話は当然来るだろうから、「頼まれて仕方なく」的な話ならまだ分かる。しかし前述の巻末コメントでは島本自らの企画であるようなことを語っている。復刻版とか完全版とかを出すときにセールス上の理由で「幻の○○を収録」とか書かれるが、それ自体が駄作の証明ともいえる。昭和のマイナー雑誌時代ならともかくこれほど情報過多な時代に面白いのに埋もれる作品など滅多にない。所詮打ち切りされる程度の作品だった、という事を素直に認めるべきだと私は思う。

「逆境ナイン」中盤に「負け犬パルス」という言葉が出てくる。『人生ってこんなもんさという(中略)サラリーマンなどはこのパルスである。(中略)君よ!!パルスを正せ!』、と熱く語っていた島本。しかし「ゲキトウ」そのものが「負け犬パルス」を発してしまっているところが辛い。

最後に敢えて言おう!

島本よ!!パルスを正せ!

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