夢の偉人無双
平野耕太だからこそ出来た漫画
最初に断言したい。これは、平野耕太にしか描けない漫画だ。
『ドリフターズ』は、島津豊久、織田信長、那須与一を中心に、異世界に集まった歴史上の人物が、廃棄物たちや異世界の兵士たちと戦っていく無双漫画だ。豊久、与一の武力が、信長の策略が異世界勢に痛恨を与える様は痛快爽快の一言であり、「もっと彼らの活躍を見たい!」と思う一心でページをめくってしまう。これだけ一方的な展開なのに、中だるみせずもっと彼らドリフターズの活躍を見たいと思わせるから不思議だ。
平野耕太にしか描けない、と断言したのは、そういった読者に飽きさせず読ませる力があるからなのだが、世界各地・様々な時代から登場人物たちを引っ張ってくれる知識の多さにも理由の一端がある。
『ドリフターズ』に登場するキャラクター=偉人たちの幅はとても広い。ハンニバル、キャプテン・キッド、アナスタシアにラスプーチンと挙げるのも大変なほどだ。しかも、確かに偉人ではあるのだが、あまりメディアや創作の舞台で取り上げられることが少ない、いわばマイナーな人物まで多く登場する。一般的な歴史好きがついていくのがやっと、というレベルだ。
これだけ魅力溢れる偉人たちを取り上げられると、次にどんな人物が登場するのか想像するのも楽しくなる。また、手練れの歴史ファンになると、廃棄物たちの王である黒王の正体は一体誰なのか、と意見を交わすことも出来るだろう。ディープな歴史好きもそうでない人も楽しむことが出来るのである。
しかも、これだけ多くの時代、世界から人物を引っ張ってきているにも関わらず、それぞれの人物の個性や魅力が損なわれず、各々の役割をこなしていっているのが凄まじい。偉人たちをうまく取りまとめて漫画として調理し、混ざって美味しいチャンプルー状態としているのもヒラコーの漫画家としての実力があってこそだ。
むろん、『ドリフターズ』の面白さは設定の妙だけに尽きない。ちょっとメタが混じったギャグセンス、声が聞こえてくるような独特の言い回し。最初はぐちゃぐちゃしているように見える作画も、慣れればスッキリ見えてくるからあら不思議。流石オタクの支持が厚いヒラコー先生である。筆者はコミックスカバーをめくっての「漂流物&廃棄物候補案」と信長のブログがお気に入りだ。
一回読んだだけでは絶対に把握できない。三度読み推奨の漫画
しかし、『ドリフターズ』を一回読んで内容を全部把握できる人は少ないだろう。それはこの漫画がいかに、ワクワク層を備えているかということである。
(ワクワク層とは筆者が今勝手に作った言葉であるが、いわば物語としての楽しみの層である。一回読んだだけで伏線やキャラクター像、ストーリーを把握できる人間もいるにはいるだろうが、そんなことは凡夫の筆者には到底不可能な領域なので、ワクワク層として認識している)。
まず一回目はどんなキャラクターがいるか、大体何をしているかを把握する。次にキャラクターたちがどういった勢力の元で、どういった目的で戦っているかストーリーを把握する。最後に、どういった伏線があるかを把握する、と分けて読み方を分けるのである。
『ドリフターズ』の場合、とにかく登場人物が多いという点で、底知れないワクワク層を秘めているのだ。
豊久は鉄砲玉のようなまさしく「薩摩男児」で目的も大義もないように思えるが、もののふとして強い意志を秘めており、主人公として物語をどう動かすか読めない。信長はそんな豊久を擁立して国を建てようとしているし、与一は何やら義経と因縁がある模様。廃棄物である土方が豊久と剣を交えたことでどう変わっていくかにも注目したいし、デストロイヤー菅野が他のドリフたちとどう関わっていくかにも目が離せない。ドリフターズたちの行く末はどうなるのか、紫やEASYの目的は一体、と考えるのがはかどるはかどる。
一度読んだだけでは、絶対にこの面白さは伝わらない。三度読んで、いやもっと読み深めて初めて、『ドリフターズ』の面白さを語る資格を得る、と筆者は考えている。
唯一の弱点は連載スピード
それだけに、連載スピードが遅いのが本当に悔しい。もともとヒラコ―は遅筆で読者をやきもきさせる傾向にあったが、アニメ化を控えた今となってはこの遅さが憎らしいほどだ。連載開始が2009年で現在(2016年9月)5巻が出たところ。月刊誌連載とはいえ、これにはいささかやきもきしてしまう。
とはいえ、これほどの完成度を持つ作品なのだから、焦って完成させたものを読むのもまた味気ない話だ。イチ読者として、どんな人物たちが登場するかを楽しみに待っていたい。
もう一つ、これは完全なる個人的趣味の願望であるが、ここまで偉人たちをうまく取り扱っているのだから、ゲーム化を期待したいところだ。豊久で戦場を駆け抜けるドリフターズ無双、出ないかなぁ。出てもいいよなぁ。コ○テクさんお願いします。
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