中国人と日本人の枠を超えるヒューマンコメディ
中国は敵
いつから日本人は働かなくなったのか?そんな事を考えてしまうぐらい中国人と日本人の働く概念が違っていることに気づかされる。大企業の東慶商事総務部総務課舞台のしかもOL神崎島子(観月ありさ)が主人公というファッションにオシャレなドラマかと思いきや、そこは、さすがは中園ミホ先生!海外アウトソーシングの波を受けて総務課も海外に委託されるのか!なんて、普通クライマックスででてくるような展開を第1話からズドーンとと容赦なく突きつけてきて、しかも、コメディタッチな感じで、さらーっと描いていらっしゃるおかげで、最終話は、ハッピーエンドになるんだろうなぁなんて思ってみてたら、えらいことになります。2008年のドラマで当時私自身も、職場に中国の女の子がいたためとにかくものすごくリアルでした。ふつう、少しはオーバーな演出になりがちですが「あーそういうことあるわ」とOLあるあるが満載でした。しかし、このドラマが素晴らしいなぁと思ったのは、中国側からもちゃんと描かれてることでした。チャンリンとヤンヤンが家族のために中国の田舎から日本に出稼ぎにきた事などきちんと描く事でよりドラマに深みと、登場人物への感情移入が増していきました。中国人が研修生としてきた事で島子達は勿論いい顔しません。なんとか、その流れを止めたい。自分達の首が切られる、仕事がなくなる不安をつのらせていきます。しかし、「大丈夫。総務はいわば会社の顔だから」と少したかをくくっていたのが、年配の派遣さんが突然契約更新しないと言われる。このジワジワ感、あっぱれなリアルでした。
島子、中国人に負ける
なかなか中国の研修生に仕事を教えない、教えられない島子達に日本語でのタイピング勝負を持ちかけます。ミス総務とまで言われる島子に勝てるわけがないとみんな思っていました。私も観月ありさが勝つんだろうなぁと思っていました。ところが少しの差ではありますがチャンリンが勝ってしまいます。私も昔工場の作業場でアルバイトをしたことがあるのですが4人ぐらいのグループの中でそれこそ中国の男の子だったのですが、どうしても勝てなかった経験があり、本当に設定は違えど、色んな事が蘇りました。中国人って凄いなぁと漠然と彼自身の凄さよりも、中国という大きな能力を感じました。島子も、悔しさと情けなさとで、阿部サダヲ演じる中国アウトソーシング会社マネージャーの小旗に問います。「チャンさんは、どれだけかけてスキルを身につけたの?」「三ヶ月です。」また、愕然としている島子に言い放った阿部サダヲのセリフは忘れられません。「島子さんは、努力というものをしたことがありますか?勿論ありますよね。小さい頃は落ちこぼれにならないように努力して、大人になったら、負け組にならないように努力し、いい男を捕まえるために努力する。そんな事は中国では努力のうちに入らないということです。あいつらは、本気で生きてますから。」島子同様、私も雷に打たれた気分でした。中国人の能力の高さの理由はそういう事なのかと思いました。
ハッピーエンドにはならない
中園脚本の特長として、女性が主人公である事とハッピーエンドにはならないという事があげられると思います。主人公をとうして現代社会の問題点や、なんかおかしいと感じる違和感みたいなものを浮き彫りにしていると思います。しかし、その問題点や違和感に答えがあるわけではなく、主人公や登場人物達自身の問題として、立ち向かったり苦しんだりします。だからこそ、セリフが私達の心に突き刺さるのでしょう。結局、総務課はなくなるという結末を向かえる中、彼女たちの奮闘記はコメディで描きながら涙が止まらないシーンもありました。人は一生懸命生きていると笑う事も、泣く事もつきものなのかもしれません。悲劇と喜劇は紙一重のような。さて、最終話は名言が飛び出します。この言葉を聞けただけでも、このドラマを観て良かったと思えたほど感動しました。それは、島子が昔の上司を訪ねて旧社屋を訪れた時に、『社員は宝だ』という言葉が書かれた掛け軸を見つけました。その掛け軸の言葉を島子は『人は宝だ』に書きかえて新社屋に飾ります。中園さんが一番言いたかった事はこれかと思いました。中国人も、日本人も、正社員も、派遣社員も、、、『宝だ』ということなんですね。
さらっと描く重たいテーマ
総務課が解体かと不安な島子の心情も、出稼ぎで日本に来た中国人研修生の心情も、日本人なのに何故か中国アウトソーシング会社のマネージャーをしている阿部サダヲ演じる小旗の立場も丁寧に描かれていました。しかも、エンターテイメント要素としても、井上芳男さんの歌声披露あり、阿部さんのカンフーあり、恋愛模様あり、凄く楽しめました。中国との関係が良くならない2016年の今も、何かのヒントになるような傑作ドラマだと思います。不況が続く日本において、ハッピーエンドでは終わらない主人公達のたくましさやピンチをチャンスに変える発想はまだまだ得るものがありそうです。続編ができる内容ではないのかもしれませんが、また、あのキャストでその後どうなったのか観てみたいです。
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