好みが分かれる漫画
革新的な雑誌で連載中のエロ&グロ漫画
『チャンピオンRED』は革新的な雑誌である。
それは幅広い連載作のジャンルであったり、他社から生まれた人気漫画のスピンオフ作品を定期・不定期含む四つも抱えていたり、挙句の果てに男性キャラのお風呂ポスターだったり漫画家に書かせた分厚い小説だったり大御所漫画家が二十年前ぐらいに出したマイナーカプの同人誌を付録にしたりすることからも明らかである。
その節操のなさは、「とりあえず面白そうな企画は取りこもうぜ!」という確固たる意志を感じるほどだ。世の流れに喜んで飛び込んで大はしゃぎするそういう姿勢、嫌いじゃない。
『DEADTube』はそんな傾奇者のような漫画雑誌で、とりわけ異色ともいえる作品だ。
元ネタがYOUT○BEであることは言うに及ばず、エロければエロいほど、グロければグロいほど、閲覧数を稼げるサイト。そして閲覧数トップに立てば貰える多額のカネ……。こんなサイトがあってもおかしくないな、とちょっぴり思ってしまうほど現実味があるのがこの作品のミソだろう。
これは社会派漫画なのか
前項で筆者は『DEADTube』を現実味があると述べたが、「そんな訳ねーだろ」というツッコミが聞こえてきそうだ。
それもごもっともな意見で、実際『DEADTube』は荒唐無稽な設定が多い。まだ真相が明かされていないにしろ、人があっさりと大勢死んでいき、何食わぬ顔で日常がくる、という設定はちょっと理解が出来ない。
だが、そういったところに目をつぶって漫画を読み、『DEADTube』の現実味に目をやっていただきたい。
筆者が思う『DEADTube』の現実味とは、漫画のなかに登場してこない“非現実的の日常を見たさに動画サイトを覗く人々”のことだ。
ネットを大なり小なり“たしなんだ”ことのある人々であれば、やたらとグロ&エロについて詳しい意見を述べているコメントを見たことがあるだろう。やれ焼死体はこうだ、やれこういう死に方をしたときの死体の状況はこうだ、という、「いったいその知識はどこで得たのか」と問い詰めたくなるようなコメントである。
人間、普通の人生を送っていて、そうそう死体や事故現場について詳しくなれるとは思わない。だが、詳しい人間が存在するという事実はつまり、非日常的な刺激・情報を、ネット上のサイト、動画、ないしは本などで、知的好奇心の赴くままに求めている人々が一定数存在する、ということだ。
これについて否定できる人は少ないのではないだろうか。グロに限らず、たとえばエロにしてもリョナだとか触手なんて現実にはあり得ないものを好んでいる人もいる。あるいは超常現象を観たいがために、幽霊だとか宇宙人、UMAの動画を漁る人もいるだろう。
普段倫理だとか道徳だとかでお飾り立てている人間としての本能を、容易に手に入れやすい動画サイトやネット上で発散させる。この“現実味”を、『DEADTube』は抉るように突いてくるのだ。
こうなると荒唐無稽な設定も、むしろ風刺的な意味合いとも見てとれる。エロ&グロ満載の動画を閲覧するたくさんの人々。風刺画が挑発的にまで現実を誇張するのと同じように、『DEADTube』もまた現実にありえないこと知りつつ舞台として使い、“非日常を糧とする人々”を描いている。
このように『DEADTube』は、風刺漫画としての側面もあると筆者は思う。題するなら、“誇張的社会派漫画”といえばいいか。
現実では滅多に覗けないエロ&グロの世界。自分は全く興味がないと言い切れるだろうか。
革新的で確信的な漫画
さて、次は『DEADTube』の評価について述べたいと思う。
『DEADTube』に風刺漫画的側面があるというのは前項でも述べたが、これは作品として諸刃の剣でもある。
というのも、現実の一端を映すものが風刺の常であるように、『DEADTube』は時代の一部分を描いた作品だ。しかもネットのエログロ動画サイトという、社会的に見ればまだまだアングラな世界を映しだしている。
そういったアングラ世界は好きな人はとことん好きな世界であろうと思われるが、同時に受け入れられない人も多い。
また誇張的手法が過ぎるがゆえに、『DEADTube』はアングラな世界を好む人々にターゲットを絞っている“確信犯”な一面を持っているとも思え、そちらに振り切っているがゆえにそういった人たちに媚びているようにも取られてしまう。
肝心のストーリー部分やキャラクターがいま一歩なことも、作品への評価に影響を与えているだろう。ストーリーは誇張が過ぎて大味ぎみ。キーワードに太字を使うのも金田一チックで、マガジン臭さが感じられて、より誇張的現代漫画の匂いがする(ストーリー上に白々しく政治だったり化学を絡めてくる、あのなんともいえないうさん臭さだ[注:悪口ではありません])。エロを意識しているためか、女性キャラクターも総じて肉厚的で、表情も顔芸といっていいほどオーバーだ。言ってしまえば、いかにもネット民が話題として取り上げそうな要素ばかり。
このようなことを鑑みると、『DEADTube』は世間一般に認知されにくい漫画であるのかもしれない。
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