実際的な工芸案内書 - 手しごとを結ぶ庭の感想

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手しごとを結ぶ庭

4.204.20
文章力
4.00
ストーリー
4.50
キャラクター
4.00
設定
4.50
演出
4.50
感想数
1
読んだ人
2

実際的な工芸案内書

4.24.2
文章力
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

わたし、こういうの苦手なんだけど

最初のページを読んで、「わたしこういうの苦手なんだよ」と思った。何の仕事をしてる人ですかと聞かれると、いつも困ったというくだりで、「のっけから煙に巻いてきたな」という感じなのです。人の感じていることは、曖昧なものだから、誰でも他人に説明するときは、「そう言いきられると違うんだけど」的な違和感と戦っていることが多い。それでだけに「きっぱりしなきゃな」と努力している身には、この感じは少し疲れるのです。これを感覚的というか、女性的というかは微妙だけど、個人的にはこういう話し方をする人は男性にもてるから嫌いなんです。

そして、女は強いのだ

文章は煙に巻くような感覚的な人だけど、筆者の性格は身軽にして大胆、そして体は頑健な人だろうと思う。「ごぼうの匂い」から「哀しい壺」までの"種"と題された7章を読めば、身軽にして大胆だし、最後まで読めば仕事量から頑健なことはわかります。この"種"は金沢の章ともいうべき章で、多少とも北陸を実感したことがある人には、大変面白い、とても金沢っぽいのである。金沢が伝統工芸の町であることもそうだし、「そうやってサナエちゃんは悲劇のヒロインになって帰るんや」の一言にひどく金沢らしさを感じた、この一言を切り取った筆者は大したものだ。

他人の不幸は蜜の味

「哀しい壺」でこの本にはまってしまった。何しろ、不幸が彼女に襲いかかるので面白くなってしまった。今どきは、真っ当に生きていこうとするなら、何にでも共感と遠慮と協調が要求される時代で、他人の不幸をほくそ笑むことができるのは、読書とひとりでテレビを観るときくらいですし。思いが重くのしかかっているせいか、口に出したいけど、言っちゃいけないけど、わかる人にはわかるという複雑構造の文章がとても面白い。こういう乗り越えた不幸の話は明るくてよい。この不幸が筆者の仕事人の出発点になっていくところがまさに"種"なので、幸運は不幸の顔をしてやってくるの典型でもあると深く感じる、「人はしぶとくていいな」と感じるのです。

この本は実際的な工芸案内書です

「切り戻し」を読めば、筆者の仕事量のすごさがわかる。これだけの仕事量の中で出会った工芸品とその作者が章ごとに紹介されているので、工芸品のよい案内書になっている。写真は少ないので完結した案内書ということではなく、とっかかりになると思う。後半は文章から水におりが舞っているような曖昧さが減って、筆者のものに対する感覚が素直に表現されていると思う。もともと俳句から巡り巡って工芸の紹介にはいった筆者のギャラリーの案内状の文がいい味を出していて、工芸好きにはいいだろうと思う。

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