AIの進化に感動!『OZ』
別れても、やっぱり好き
この作品を買ったのは、たしか大学生の頃だったと思います。単行本でなくデラックス装丁版みたいな、ちょっと大きめの装丁本が読みたくて探しているときに見つけました。タイトルと表紙のアンバランスな感じが、気に入ったんだと思います。試しに1巻を購入して、翌日には全巻揃えました。「この後どうなっちゃうの?!」というドキドキ感と、テンポよく進んでいく展開の速さが好きでした。
社会人として独り立ちするにあたって、持っていたマンガたちの売却 or 保存の仕訳をしたのですが、その時に『OZ』は売却に仕訳しました。他にもたくさん売却に仕分けた作品があったし、あの当時「もう大人なんだし、マンガは卒業!」と思っていたような気がします。とかいいつつ、吉田秋生先生の『バナナフィッシュ』や岡野玲子先生の『陰陽師』は保存に仕分けたんですがね。
そして最近になって、某電子書籍サイトで『OZ』に再び出会いました。しかも「完全版」になってた。映画でいう「ディレクターズカット版」みたいなもんですよね。当然、すごく気になります。1巻が期間限定無料配信だったので、とりあえず試し読みしたのが運の尽き、当日の内に5巻まで購入しました。先がわかっているのに読みたくなっちゃう、ドキドキ感と展開の速さ。一度は手元から遠ざけたものの、好きな話はやっぱり好き、でした。
なぜ売却仕訳したのか
その一番の理由は、作画に矛盾を感じたから。
ムトーやネイトたちもひょろひょろすぎる。ムトーは東洋系っぽいからまぁ、筋肉質でなくても仕方ないかなと思うけれど、ネイトは白人でしょう? こんなにひょろっこいはずないじゃん、傭兵なのに! 少年兵か! って突っ込みいれたくなります。
30ナンバーたちの中で、1030だけが衣装を身に着けているところも気に入らなかった。1019と1024がジャケットを着ているのは、外の世界にいたから問題ないけれど、1030は外に出てないのになんで他のバイオロイドたちと区別されているのか、納得がいかなかった。特に、リオン(成人)が実はバイオロイドだった、と分かった時。彼らのボスであるリオンが一番気に入っている1030だけが特別に衣装を着ている、という設定だと思っていたのに、そのリオンも偽物なんだとしたら1030を特別視している意味がなくなっちゃうじゃん! と。むしろ、30ナンバーたちの区別はリオンにしかできないほうがよかった。その方がバイオーグに脳移植した本物のリオン(少年)を1030が殺す描写も、もっと怖い感じになったと思うし、1019が1030を殺すときも二人の違いが明確に出たのになぁ、と。
こういう細かい矛盾が、気持ちのどこかにとげみたいに引っかかっていたんだと思います。
ストーリーが大好き
まず、テーマがいいですね。核戦争で地球がボロボロになり、人口は激減。それでもなお、資源と領土を奪い合って戦争を続ける人間たち。一歩間違えれば、現実の世界でも起きる可能性がある世界観です。そんな中でも一生懸命に生きようとする人たちの成長物語ですよね。
1019が人間になっていく過程は、とても感動しました。赤ちゃんのように純真無垢な1019から、凶悪な殺人鬼パメラが目覚め、そして1019に戻っていく。でも中身はAI→人間→AIから進化した人間、なんですよね。パメラプログラムを修正してもらうためにOZへ向かった1019。でも、途中でパメラを吸収できたのは、人の命を軽んじていた殺人鬼パメラよりも、「生きたい」という1019の生への執着が強かったからじゃないかな。
1019が初めて記憶障害を起こした時のことを告白するシーンも、すごくいい。1019が「あなたは言った/機械にまでキスしてやる気はないと」と言っても、ムトーは全然覚えてない。確かに1巻で「機械にまでキスしてやる気はねーぞ」と言ってるけど、コマ割りとしては特別扱いされてない。むしろフィリシアとのキスシーンの方が大きく扱われている。2巻で1019が「ムトーの言葉が思い出せない」と回想しているシーンも、ムトーのあんな顔のコマ、1巻で出てたかな? と何度か確認したくらい。つまり、1019には重要な言葉が、ムトー(そして私たち読者)にとっては、さらりと流せる言葉だったってことが、ちゃんとコマ割りでも表現できてる。ここに気が付いた時は「樹なつみ先生、やるじゃーん!」と、うれしくなりました。ちなみに、2巻のパメラがムトーにキスをするシーン、読み始めは意味が分からなかったけれど、これもこの「機械にまでキスしてやる気はない」というムトーの言葉とつながってたんだなぁ、と腑に落ちました。
一番感動したのはやっぱり最後。1019はムトーを治療して人口冬眠させ、自分は施設の外に出ていくなんて、ムトーが死に際(実際には気を失っただけ)に言った「OZの所産は無に帰すべき」という言葉に従ってる。こう考えると、1019はOZに帰る理由も出ていく理由も、ムトーの言葉に従っているんですね。だからこそ、ムトーの身体をもらった時にうれし泣きしたのかも。この時、とうとう1019は人間に進化したのかもしれないと思うと、すごく感動的です!
そして大ラスの、目覚めたムトーがフィリシアに「麦畑だ/19の髪の色だ」という言葉。殺人兵器として開発されたサイバノイドが「麦畑」という平和の象徴につながっていって、とても満足しました。今、私たちの身の回りにいるAIたちも、19のような進化を遂げてくれるといいな、と思います。
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