本当に最終話?と思ってしまうようなストーリー展開 - ビースト・クエスト 18 サソリ男 スティングの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

ビースト・クエスト 18 サソリ男 スティング

4.004.00
文章力
5.00
ストーリー
5.00
キャラクター
5.00
設定
4.00
演出
5.00
感想数
1
読んだ人
1

本当に最終話?と思ってしまうようなストーリー展開

4.04.0
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
5.0

目次

トムが助けたかったのはセス?

トムは敵であるセスが瀕死の状態になっているのをみて、見捨てることができず助けようとしますが、マルベルに呪いをかけられて「サソリ男スティング」になろうとしていたセスはそれを拒否します。いくら悪人マルベルの手下であったにせよ、ビーストになるくらいなら死んだほうがましだと思ったのでしょう。トムの助けはセスを守るどころか、余計に悪い方向へ向かわせてしまいました。トムとセスのように、一般的にみれば助けになることでも、場合によっては助けてもらっても迷惑なだけの行為であったり、事態を悪い方向へ向かわしただけということになってしまったりすることもあります。敵であるセスの命を助けようとした行為は一般的に考えれば美談となりますが、今回はマルベルがトムの優しさや英雄としての行動を逆手にとった罠に、見事にはまってしまったというよりほかないでしょう。


ではどうすればよかったのか?トムは助けてほしくないというセスの言葉にもっと耳をかす必要があったのだと思います。なぜ瀕死の状態になったのか、なぜ助けてほしくないのか。トムはどうしたらセスの助けになるかを考えて行動したというより、ここでなにもしなければ、見捨てたと思われるかもしれないと恐れたためにとった行動だったのかもしれません。実際にはどちらにしても助けられなかったかもしれませんが、少なくともトムがエポスの力で治さなければ、セスがもう一度痛い思いを自分ですることはなかったのかもしれません。結局のところトムが助けたかったのは、セスを見捨てたことで窮地においやられるかもしれないトム自身だったのかもしれません。エポスというどんなに瀕死の状態でも回復させられる力をもったビーストを操ることができたために葛藤が生まれてしまったのでしょう。

少し雑な感じを思わせる最後

最後アバンティア王国に戻ったトムたちですが、セスとマルベルは崩れた建物の下敷きになって死んだと聞かされます。しかしトムたちは二人の最後を見ていません。トムたちどころか誰も見ていないようでした。それでもアデュロが解放されたため、「二人は死んでしまったと思ってもいいのだろう」という結論に至ったのかもしれません。そしてアデュロからもヒューゴ王からもトムとエレナのおかげで平和が戻ったといわれます。しかしここで救いを感じるのは、トムも同じ違和感を感じていたところです。それはトムに、マルベルを倒したという実感と、アデュロを救いだしたという実感がないからです。トムはマルベルやセスを戦いで倒したというよりは、地下室の壁が崩れたおかげで運よく倒すことができたといったような最後だったからでしょう。まるで紫の霧を通り抜けたときにタイムワープがあったのではないかと思わせるような展開の早さでした。

ビースト・クエストはこの「さそり男スティング」がシリーズの最終話となっています。トムの「マルベルがどうなったかはいずれ、時間がたてばわかることだ」という言葉から、続編があるかのようにも感じさせられる終わり方ですが、これ以降新しいストーリーは出版されてはいないようです。最後に対して誰にも確信を持たせないことで、そのあとの物語を今度は読んだ人たちが想像できるように、展開できるようにとの狙いもあるのかもしれません。しかしそのことを考慮に入れても、あまりにも唐突な終わり方で結局どうなったのだろう?本当に終わったのだろうかと疑問の残る最後でした。もしそのことも踏まえてあえてこの終わり方だったのであれば作者の演出は成功だったと言えるでしょう。

「故郷は消えたときにその貴重さに気づく」

この物語の初版が発行されたのは2011年の2月でした。2011年といえば日本では3月に東北地方太平洋沖地震が発生し地震と津波で多くの犠牲者が出た年です。もちろんこの「故郷は消えたときにその貴重さに気づく」というケルロの言葉は、災害を受けてから作者が書いたものではありません。しかしこの地震で被災された方たちに思いをはせると、改めて故郷の大切さ・貴重さに気づかされる言葉だなと思わせられます。ケルロはマルベルに負けて故郷に帰ることができなくなってしまいましたが、故郷に帰ることができないという点では、いまだに原発や津波の後遺症のために故郷に戻ることのできない悲しみの深さと重なるのではないでしょうか。「故郷はかわらずそこにあって当たり前」そんな感覚を誰もが持っていると思います。ずっとそこに住んでいるときには気づかなくても、少し故郷を離れて戻ってきたときに、自分の住んでいた時とは印象が変わってしまっていた場合、少し寂しい感覚をおぼえることがあります。そしてそこで自分がどれだけ安心して暮らしていたのか気づかされます。離れてから、失ってからではなく、そこに生活しているときに故郷の大切さに気づくことができれば、また違った目で故郷のいいところを再発見できるかもしれません。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ビースト・クエスト 18 サソリ男 スティングが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ