トムとジェントの行動で見る「信じる」という行為 - ビースト・クエスト 15 海獣ナーガの感想

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ビースト・クエスト 15 海獣ナーガ

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トムとジェントの行動で見る「信じる」という行為

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目次

安易にケルロに助けを求めたトム

ケルロはトムが危機的状況におかれたとき、どこからともなく現れてヒントを出してくれます。しかし今回トムは助けてほしいという気持ちのほうが優先してしまい、助けになるヒントをケルロが出していることに気が付きませんでした。トムはそれだけ切羽詰まっていたとも考えられますが、この場合はヒントをもとに自力で何とかすることより単純に助けを求めていたために気づくことができなかったと思われます。

誰かに助けを求めるときには、目の前の手助けを求めることが多いようです。自分の力できり抜けるためのヒントを求めているのではなく実際に助けを求めるのです。そのため、いくら自分で考えて乗り越えることができるようヒントを出したり、導いたりしてもらったとしてもそれは助けとして認識できないのです。それは求めている者が、成長することより今助かればいいという目先の利益にとらわれているからでしょう。ヒントに気が付かなかったトムは助けてもらうことを他人に求め、困難を自分たちで乗り越えようとする気持ちが薄かったといえるでしょう。それとは反対にエレナは、困難を自分たちで乗り越えるためにどうしたらよいかをいろいろ考えていたから、ケルロがヒントを出してくれていることに気づくことができたと考えられます。

信用できない人を信用してしまったジェント

ジェントは賞金稼ぎで、トムとエレナにかけた賞金を目当てにマルベルに二人を引き渡そうとします。二人はジェントにマルベルが約束を守るわけがないことや、自分たちにかけられた容疑は真っ赤な嘘だと訴えますが、ジェントはそんなことはお構いなしで、とにかくお金がもらえさえすればいいと言います。目的さえ果たされれば細かいことには気にしないということでしょう。

しかし、それはきちんと約束を守る人との約束であれば成り立つことだと言えます。トムやエレナがいうように、マルベルはそもそも約束を守るような人物ではありません。トムやエレナを引き渡したところで賞金をもらえるとはかぎりません。つまりは二人が指名手配書にかかれていることが嘘かホントかどちらでもよいという前に、捕まえたところで賞金がもらえる可能性のほうが少ないことをジェントは知るべきだったかもしれません。結局二人に逃げられてしまうため本当にマルベルが賞金を払う気があったのかどうかということはわからずじまいでした。

 信じることと信じないこと

トムとジェントは自分たちの都合のいいことだけを信じて、都合の悪いことは信じていません。これまでトムはケルロを完全に信用しているわけではなかったのですが、困難な状況に陥った時のヒントに対してはワナかもしれないと思いながら、慎重にしたがっていました。しかし、今回に限ってはケルロが自分たちの味方だと信じているかのように、助けてくれなかったことに対し腹をたてています。味方であれば腹をたてることも理解できますが、まだ味方かどうかわからない状況では助けてもらえると思う方が間違っているのではないでしょうか?ジェントも「二人は極悪人で捕まえればマルベルが賞金を払う」ということは信じているのに、二人の言い分には耳を貸しません。

これらのことから人を信じるときその人自身がよくわからない場合、自分が信じたいところだけを信じて信じたくないところは信じないという心理が働くようです。そしてそこには自分にとって利益があるかないかが重要なポイントとなっているのでしょう。利益がある方は信じて利益がない方は信じないのです。しかし、信じていいかどうか判断する事柄が乏しい場合は仕方がない判断基準なのかもしれません。 道徳的には「人を疑うことはよくないこと」という考えがあります。特に自分に好意的な人に対して疑うということは悪いことだという考え方も付け加えられます。そのため自分に利益をもたらす行為をしてくれた相手を疑うことは悪いことだという考えになってしまうのでしょう。

しかし、自分に好意的な人は本当に信じてよい人でしょうか?確かに何でも疑うという行為は他人はもちろん自分自身もあまり気持ちのいい行為ではありません。しかしインターネットが普及する今、実際に顔を合わせて何かをやり取りするということも少なくなりました。そのため最近では自己責任という言葉をよく聞くようになりました。信じるか信じないかは自分次第で、その結果だまされていたとしてもそれは自分が判断した結果だということです。最初から騙すために好意的な態度をとるケースも増えています。何かを信じる場合は自分に対して好意的かそうでないかというより、自分が感じた疑問や違和感を解消した上で決定することが必要となってくるでしょう。この物語では信じること疑うことに対してどちらが正しくどちらが間違っているというのではなく、どちらも必要な行為だということを、トムとジェントを通して伝えているのだと思われます。

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