社会を小分けにしてみたら
印象的なシーン
フリーターは家を買えないんじゃないかなあ、と思うのですが、パートや派遣さんでも勤続年数が長ければ、住宅ローンの審査が通ったりするから、何か裏技みたいなものを悲喜こもごも交えながら紹介してくれるドラマなのかな?なんて予想は見事に裏切られました。あまり明るい部分のないドラマだったように思います。家を買うからといってウキウキルンルン気分、と言うわけではないんですね。最後に引っ越しの片づけをしているシーンも、もちろん嬉しさは伝わってくるのですが、しみじみと嬉しいといった感じです。色々あったなあというのと、これからがまばゆいばかりに明るいわけではない、というのとで、家族にとって「ここはまだ通過点」なのだなと感じさせられる作業風景でした。見ていると毎回、心がガタつく。自分の生活を振り返っても、このガタつきを感じたことがある。前回倒れたものを、今回立て直しても、今回もどこかがガタついて、倒れたり、アンバランスが妙に気なったりして「んー」とうなる感じ。そんなドラマだったと思います。
テーマのせいか役者のせいか
なんだかアンバランス、なのは、俳優さんたちもそうで、この人とこの人が夫婦で、その子供がこの人なんだろうか…という違和感。工事現場にいる美人はこんな顔のタイプの美人なのだろうか、とか。ただ、一人一人を見ると、合っていると思うのです。例えば、こういう性格の父親は竹中直人で合っている、とか。他の方たちも、キャラクターはぴったりなのですが、全体のバランスがなんとなくデコボコしているなあと、感覚的に思いました。浅野温子の「うつ病の母」の演技は必見で、鳥肌が立つほどでしたし、二宮君のフリーターぶりも「こういう人いるいる」と言ってしまうくらいでしたが、何がアンバランスなのか、設定が「分かり合えているとは言えない家族」だから自然そんな風に見えたのかもしれません。また、その人のイメージに逆らうような役どころだったとも思います。浅野温子さんは、明るい役柄のイメージがありましたし、竹中さんも、少し遊びのあるような役柄を期待してしまいますし、二宮君もどちらかと言えば、いい子役のイメージでした。全て私感ではありますが。これまでたくさんの役をこなしてきた人たちですが、なんとなくそのイメージがあるものです。今作では、他の作品での様子が重ねて見えるようなことが決してなかったのが、本当に驚きです。俳優さんたちにとっても、ちょっと新鮮な、挑戦的な作品になったのではないかと勝手に思ったりして、その様子を見るのも楽しみの一つでした。そんな中、家を訪問して宗教まがいなものに勧誘してくるムロツヨシさんはかなりはまり役だったと思います。不気味で冷たくて、だけどいい人そうに見えて…。罠の匂いがプンプンする感じが、面白かったです。
男性の立場・世界観
内容を見ると、ありそうでなかったのが、息子が家族をまとめようとして奔走するところではないでしょうか。お父さんが頑張る、お母さんが頑張る、そういうお話はありますが。家族がまとまらない時に、大抵息子はグレるんじゃないかと、それでなければ家を出て行って「自分は自分」な人生を送ったりするのが定石な気がします。ところが、今作では息子が頑張ります。お父さんもお母さんも頑張っているのかもしれないけれど、息子が主人公で、息子が家族再生に向けて家を買う目標を立てます。そもそもは母親の精神の病に思うところがあり、一念発起した感じではありますが、彼自身も自分の在り方や将来に不安があり、起爆剤は必要だったのでしょう。自分を省みることが出来る、正直な目で見つめ直せる男性は偉いと思います。その点、父親は欠けたところがあるし、年齢のせいもあってか頑固になっている。青年と中年男性の差と見ていいのか分かりませんが、父と子というよりも、男性として「その時彼はどうするのか」が暗に比較されているようで面白い。また、アルバイト先の男性たちもそこに加わって、環境や性格の違いで、男性の着地点が様々にあることを感じられる作品になっていました。やはり男の人は、どこかに自分が構える場所を見つけるようになっているのだなあ、と思いました。どこで勝負するか、ということでしょうか。多分、何で勝負するか、ではなくて。
女性
一方で、女性は、何で勝負するか、そういう世界に生息しているように思います。例えば「勝負服」と言うと女性が着る物に使うことが多い気がしますし(服で勝負するんですね)、女性らしさと言えば、優しさや愛嬌や美しさや、料理上手や子供好きや、そういうその人が持っているもの、性質として、技術として身に着けているものが重視される。(主人公の好きな女性もそうでした)無い人は妬むか、諦めるしかない、もしくは努力する、奪う、しかない。それで、ここのお母さんは「持っている」人だったから妬まれてしまったわけで…ご近所の意地悪や、旦那さんの傲慢や、息子の甘え、悪徳商法の誘いを跳ね返す力を「持っていなかった」とも言えます。持っているものを発揮できないと、女性はとても弱るのですが、このお母さんは「持っていたもの」によって救われつつあります。それが、自分が大事にしてきた息子だった。ここが見所になっていて、心を込めたものから心が返ってくるような現象は胸に響きます。自分の行いが、自分に返ってくるようなことがあると、ほっとするし、無性に嬉しい。勝負で言えば、勝利をおさめたといってもいいのだと思います。さもなくば、女性というのは奪い取ることを勝利だと思いがちなので。それは色々を不幸に巻き込んでいくのだと感じます。(お隣の主婦のように。)今作は、こうした若者の、男性の、女性の立場を俯瞰でき、それら全部が混ざったコミュニティ(社会)を描写した秀作だったと思います。
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