主人公が強い理由
実際に利用されている
筋肉の病気に罹り体が動かせなくなった人が、脳波によって機械を動かす技術……。こういうことが実際に研究されており、2013年の段階で80%の成功率で思い通りに機械を動かせるまでになっている。近い将来、実用化もされるだろう。CLAMPがこのことを原作連載の1999年当時に知っていたかは分からないが、この脳波を利用して意のままにものを動かすというのを格闘ゲームにしたものが本作の“エンジェリックレイヤー”である。
子供も大人もおもちゃを楽しむ平和な世界
このようなおもちゃやゲームを題材とした作品を見ると、この作中の世界は平和だな、と感じる。大人も子供と一緒になっておもちゃを楽しむ世界、実にほのぼのしていて素敵な世界だ。遠くの出来事であっても国同士がいがみ合っていたり戦争をしていたりするような状況では、こんな余裕などないだろう。つまり、この世界は平和だ、ということだ。理想の社会ともいえるのではないだろうか。
みさきちが強い理由
さて、われらが主人公、“みさきち”こと鈴原みさきは、エンジェリックレイヤー超初心者ながら全国大会優勝という偉業を成し遂げた。それを成し遂げられた要因はどこにあるのかを探っていく。作中では“目がいい”と表現されている。もう少し詳しく言うなら“動体視力がいい”ということである。相手の動きがよく見えているから攻撃をかわせるし、相手の必殺技を一度見ただけでコピーしてヒカル(みさきちのエンジェル)にも使わせることができている。実はこれはお母さん譲りであることが作中でも語られている。その正体はお母さんであるチャンピオン、シュウが強いのもうなずける。しかしそれは、決定的な要素にはなり得ないだろう。
最終的な勝敗の要素は“思いの強さ”
それでは、勝敗を左右する決定的な要素とはなんなのか。それは“思いの強さ”であると考える。脳波によってエンジェルを動かして戦っていくエンジェリックレイヤーだから、デウス(操縦者)の心の奥に潜む思いも感知できる、と考えることは自然なことであろう。心の片隅にでも「もうだめだ」と思ったらその勝負は負けなのだ。特にシリーズ後半のバトルにおいて、ダメージの残量のチェックに長い時間を費やす場面が見受けられる。このとき、実は脳波を読んでいるのではないだろうか、と考えるわけである。心の迷いとかブレとかが出た側が負けになるように設定されているのではないだろうか。そう考えるとしっくりくる場面が非常に多い。チャンピオンのシュウが強いというのもこれで説明がつく。シュウこと鈴原萩子は、自身の難病のための義足を開発に協力すべくエンジェリックレイヤーをやっている。日頃の練習は義足開発の貴重なデータにもなっている。エンジェリックレイヤーが流行っている限り開発費が入る。そのためには絶対王者として君臨し続ける必要がある。早く義足を作ってもらって、元気な姿で娘に会いたいという思いもある。“思いの強さ”としてこれ以上のものはないだろう。シュウの絶対的な強さ、というのはこういうことから分かる。一方のみさきちも、人一倍の“思いの強さ”がある。小さいことにコンプレックスがあり、大きい人には負けたくない、小さくたってやればできる、という気持ちがとても強い。初めてアテナ(シュウのエンジェル)を見たときから魅了され、シュウと戦いたいという思いも誰よりも強く持っている。もしかしたら、お母さんの存在をどこかで感じていたかもしれない。作中では全国大会の準決勝で初めて知る、ということにはなっているが、いつのころからか何となく感じ取っていた、と解釈することもできよう。だからこそ、シュウと戦いたいという思いが誰よりも強いのである。もちろん、母親譲りの強さ、というのもあるだろう。このように考えていくと、二人が強いデウスだ、ということも納得できる。ただの主人公補正というだけではない、きちんとした設定に裏打ちされた強さだ、ということである。
実現の可能性を探ってみる
最後に、作中のバトルゲーム“エンジェリックレイヤー”が実際に商品化できるのかについて考えてみたい。冒頭に書いた通り、技術としてはほぼ完成されつつあり、小さな人形程度を動かすことは可能であろう。ただ、エンジェルが飛び跳ねる動きをどのような力で動かすのか、という問題があるだろう。それをクリアしたとしても2つの問題がある。レイヤーや練習場をどうするか、ということである。練習レイヤーでも卓球台の長いほうを直径とする円の大きさが必要で、公式試合用のレイヤーとなるともっと広い。それを日本各地にある程度の数を作る必要があるだろう。デウスや司会者が座る大掛かりな装置は作中の演出としても、それだけのものを日本全国で設置して、エンジェリックレイヤー市場を展開するとなると膨大な資金が必要だろう。作中では医療技術の開発のための資金源調達という名目で事業を興せたわけだが、実社会でもこういう目的が別にないと難しいかもしれない。実現の可能性を探りながら本作品を見る、というのも一興だろう。
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