人間の醜さを描いた作品といえるでしょうか
早く人間になりたい!
オープニング曲のセリフ部分ですが、オープニング曲自身、メロディと歌詞はとても作品そのものの有り様を語っているように感じます。私自身も実際に子どものころ歌っていましたし、今の30代後半から40代前半の方で知らない、歌えないなんて方はいないように思います。また随分と替え歌にすることも流行りましたね~あまり上品なものではなかった記憶がありますが(笑
今、振り返ると実験場のようなところから偶発的にベム・ベラ・ベロは誕生していることから妖怪という表現はおかしいように思ってしまいますね。化け物的な存在であることは間違いないですが、妖怪というのは本来、昔からその地に根差した存在でしょう。今でいうなら人造生物や突然変異の生物と表現されるべきものでしょうね。
タイトルと噛み合わないストーリー展開
子ども向けの番組だったからでしょうか、タイトルは「妖怪人間ベム」であるにもかかわらず、物語はベロを主人公として進行していくことが多いように思います。むしろベムが主人公として進行していくストーリーはもっとも少ないのではないでしょうか。
子どもであるベロを主人公に据えることで、視聴者の子どもたちの共感を誘う手法がとられていたように思います。また観ていてベムは父親役で、ベラが母親役といった位置づけですね。しかしそれをはっきりと形として設定にしてないし、本人たちもそういった発言をしないことが全体的に謎に包まれている感じをうまく演出できていたように思います。
人間って酷いですよね…
妖怪人間の活躍に助けれらることが多いわりに、人間が妖怪人間に感謝する場面って本当に少ないと思います。そういった場面はいつも観ていて、消化不良な気持ちにさせられます。でも改めて現実社会でも、世の中そんなこと多いな、と感じることが多い気がしますので、子どもたちに向けて暗に送ったメッセージ性のようなものに受け取ることができるように思います。
妖怪人間である三人の方が、人間たちよりよっぽどピュアな存在なんですよね。しかしそれは良い行いをしていれば、人間に生まれ変わる、人間になることができる、と盲目的に信じているからなのかもしれません。夢、目標があれば、それに向けて高いモチベーションを保つことができるというのを表しているように思います。同時に彼らが人間になってしまったら、それはそれで酷い人間になってしまうのではないでしょうか。
スタンフォード監獄実験というものが過去に現実でされており、被験者は21人で行われたそうです。11人が看守役で残りの10人が受刑者役、実際に近い刑務所設備を設置して約一週間に渡って実験されたそうです。これは映画化などもされているので、知っている方も多いかもしれません。実際に、看守役の被験者は看守らしい性格に、受刑者役の被験者は受刑者らしい性格に変化してくることが実証されたそうです。
今になって、この作品を思い返すと不思議と立場によって、考え方や性格が変わってくるというこの実験が思い浮かんできます。きっと人間って恵まれているから、冷たくなるし横柄になってしまうという制作側の風刺のように思えてきます。
最終回は人間になれるのか!?
人間になれそうな唯一のチャンスが巡ってきましたが、その為には救える人間の命を救わないという選択肢を取らざるを得ない状況に迫られます。その時にベム・ベラがとった選択は素敵だと思います。自分自身の欲や願望はありながら、人間の命を救うことを選択したことは、これまでのストーリー展開から想像できました。しかしその選択をするのは辛かったでしょうし、夢は叶うのか、という目の前の一千一隅のチャンスが遠くなったように感じたでしょう。しかし、彼らはその選択をとった自分自身を振り返るシーンがありますが、そのことに対して後悔はしません。もちろん幼い子どもでもあるベロも同様にその選択をして良かったと言います。自分自身の欲と、踏み入れて犯してはいけない倫理感の中での葛藤、さらにはその選択肢で正しかったことを振り返ることで、尚更に制作側のメッセージが強くなったように思えます。
人間、いや子どもたちにそんな選択ができる立派な大人になってほしいという制作側の強いメッセージに感じてなりません。そして大人になって、この作品をみたときに不思議と後ろめたい気持ちが生まれてくるのも確実にいえることだと思います。
子どもたちにとって、後ろめたい気持ちをもつって悲しいことですよね。私たちの後に続く世代に良い世の中を残していってあげたいです。大人たちもそんな後ろめたさをもつことなく、堂々と正義の心をもって生きていかなければならないのではないでしょうか。
最後は妖怪人間たちは生き残ったのか、死んでしまったのか、分からない謎を残す描写になっています。またそのことに対して、人間が放った言葉は、冷たい世間、汚い世の中、自分勝手な人間たちを見事に表現しているように思います。そして生死を謎にする最後を迎えたメッセージは、見返りを求めない愛情なのではないでしょうか。
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