ロールプレイングゲームの小説版のはじまり
主人公のトムとエレナ
トムとエレナはどちらもおじさん夫婦に育てられています。しかしトムはおじさんたちにかわいがられているようですが、エレナはそうでもないようです。冒険に出るときトムは、急に自分がいなくなってしまったらおじさんたちが心配すると言っていますが、エレナのほうは自分がいなくなっても気が付かないだろうというようなことを言っていました。トムは、「疾風(はやて)のタラドン」の息子ということで、アデュロ王国の王様でもあるヒューゴ王や魔法使いたちに名前の知られた勇者の息子のようです。トム自身は幼い時に父親と離れてしまい記憶がないようですが、勇者の子どもらしく自分が住んでいる村であるエリネル村が火龍フェルノにおそわれたとき宮殿まで村の惨事を伝えに行きます。
まるでロールプレイングゲームの物語を見ているような設定で、主要人物の二人も一人は愛されて育った子、一人はあまり愛されずに育った子と対照的です。トムは愛情をかけられて育ったということがわかるように、勇敢で正直で人を疑うといったことがないといった少年です。おじさんたちからも父親が勇者であることは聞いているようで、トムは自分をおいていなくなったと思うどころか、父親のように勇者になりたいと願っています。剣の練習もしていますが、さすがに剣はもっておらずそのかわりに火かき棒で練習をしているようです。この火かき棒は鍛冶屋であるおじさんが、トムに与えたものなのでしょう。エレナのほうはあまり愛されて育っていなかったようで、一人で生きていく術を身につけているようなたくましさがあります。相棒でもあるオオカミのシルバーと、弓矢があればどこでだって生きていけそうです。そんな対照的な二人だからこそ、相手の足りないところを補えるパートナーとなっていくのかもしれません。
魔法使いアデュロとマルベル
アデュロとマルベルはアバンティア王国の魔法使いです。もともとマルベルはアデュロと同じようにアバンディア王国に仕えていた魔法使いのようです。しかしアバンティア王国を守っているビーストたちをあやつり、王国を滅ぼそうとしている悪い魔法使いとなりました。アデュロはトムたちをたすけ王国を救おうとしている良い魔法使いです。
マルベルはビーストたちと特別な絆で結ばれている「ビースト使い」の力をねたみ、自分もビーストたちを意のままに操りたいと、ビーストたちに呪いをかけ悪いことをさせます。呪いをかけるといっても火龍フェルノには金の首輪をつけているだけのようですが、その首輪に呪いがかかっていて悪いことをするような魔法がかかっているのでしょう。呪いを解くのに魔法ではなくカギというアイテムがあり、勇者がそのカギで呪いを解くという設定が、ゲーム感覚で読むことができるということにつながっているのでしょう。
アデュロは王様の近くに仕えていることから、王国就きの魔法使いといってもよいでしょう。トムを助けるために衣装や武器など魔法をほどこしてあたえています。宮殿に忍び込んだトムをヒューゴ王と引き合わせたのもこのアデュロです。王国には予言があり、ビーストを開放し王国を助ける勇者があらわれると言われていました。アデュロは最初からトムがこの勇者になるのがわかっていたのではないかと感じさせます。それは、トムには魔法のかかったアイテムを与えるのに対し、最初の勇者カルドールには首輪を外すカギだけしか与えていなかったことからも想像できます。もしかしたらカルドール自体が自分は勇者なので、装備はすべて整っているといったのかもしれませんが・・・。
アイテムが盛りだくさんのストーリー
ゲーム感覚で読める設定と思えるのは、アイテムの多さにうかがえます。「ビーストの呪いを解くカギ」「魔法使いが与えた盾」「剣」「魔法の地図」「ビーストを開放するたびに手に入るアイテム」などです。冒険の仲間としては「弓の使い手エレナ」「風のように走る馬(ストーム)」「主人の命令に従うオオカミ(シルバー)」と魔法の地図でヒントをあたえてくれる「魔法使いアデュロ」です。アデュロは実際冒険に一緒に行くわけではありませんが、ゲームに例えるならばストーリーとアイテム解説の役割をしていると思ってよいでしょう。
この「火龍フェルノ」は冒険のはじまりにあたるためか、ビーストと戦う場面よりどちらかというとゲームの説明画面のようなシーンが多い気がします。ビーストを倒すと「木の盾」に一つずつ特別な力を持ったアイテムが追加されるといったところも、ゲームでモンスターを倒した後に手に入るアイテムのような設定といえるでしょう。近年ではゲームの普及により、子どもたちの読書離れが問題になっています。ビースト・クエストは全部で19巻あり、シリーズとしては全部で3シリーズ、1シリーズ6巻とシリーズとは別に単独で1巻あるようです。このようなストーリー設定もゲーム感覚で読めると言われているところかもしれません。
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