観るには観れる映画
やりすぎと芯のある言葉
個人的に表現がやりすぎに思えた。マスコミの殺到具合、事件後の被疑者の家族に対する警察の対応方法は際立たせるにしてもやりすぎのように感じた。確かに繊細に描く必要もないが、記号化したコマのようであまりリアルではなくなり、観ていてげんなりしてしまう。ドキュメンタリタッチだとの評価もされていることを思うと、もっと現実に即して描いてほしかった。例えば具体的な箇所をあげるとすれば、書類にサインさせる所というのは果たしてあんなにたたみかけるものか。そこまで前の人の言葉を食ってまで作業を進めるものだろうか。といった具合にひどいものを見せられた気持になった。確かにひどい要素はあるかもしれないが、あそこまで機械的な人間に描いていいものか。実際にその仕事で働いている者が見たら何か腹正しく思うのではないだろうか。そんなことを気にしてみる必要もないかもしれないが、映画に入り込めない抵抗感を冒頭は強く感じた。
本作があの「踊る大捜査線」シリーズの脚本家君塚良一監督によるものだと思えば、そういった表現方法もなるほど彼の作風だからといって納得できないこともない。しかし、「踊る大捜査線」シリーズだからそういった表現を受け止める土俵はあったが、本作のテーマではそれを受け止める土俵はなかった。特に一番違和感を覚えたのは、マスコミの車を巻くためのカーチェイス。このテーマであれをする必要はない。趣味全快といった限りである。商業映画・大衆映画としての演出で仕方なかったという可能性もあるかもしれない。アクションものや「踊る大捜査線」シリーズのファンには受けがいいかもしれないが、本当にこのテーマを描いていくにあたり、あのようなシーンは切った方がより雰囲気を出せたと思う。
また、2009年に観ていれば、感じなかったかもしれないが、今の2016年から観ると、途中に入れ込むインターネットの掲示板のみせ方は実にダサい。テーマが不変であり、語り継ぎが可能であり、且つ語り継いでほしい内容だけに、描き方も後世にわたって引け目のない描き方をして欲しかった。残念でならない。
ただこれらのやりすぎをやった効果として、重要なセリフがより芯のある言葉になる効果もあった。なので、散々批判してきてあれだが、それを鑑みると一言で悪いとは言えない。要所のセリフは素晴らしい。「踊る大捜査線」シリーズで名言を作っただけのことはあるなと思う。こういったセリフたちに関していえば、不変さを持ち、後世に訴えるだけの力はあったので、良かった。つまりは、全体のバランス上なんとか観るには観れる映画であったといったところである。
下手な薄ら笑いの芝居の柳葉敏郎
柳葉敏郎が出てきた瞬間は思わず笑ってしまいそうになった。「踊る大捜査線」のテイストがプンプンする本作で、その重要人物であった柳葉敏郎が出てきて、まったく正反対の役を演じていることにまずちょっと驚かされる。そして、下手な薄ら笑いに気持ち悪さを感じる。眉間にしわを寄せた「踊る大捜査線」の室井のイメージにとらわれてしまっている私が悪いのかもしれないが、正直こういった役はあまり上手ではないなと感じてしまうほど、心のない表面上の笑顔なのである。これはミスキャストではないかと思ってしまった。縁あってのキャスティングだろうと思い、ますますげんなりポイントが加算された。しかし、その後のシーンで本音を言って、主人公に怒鳴り散らすとこはとても気持ちが入っており、良かった。もしかしたら、そのための下手な薄ら笑いだったのかと思うと、なるほどやられたなと思う。しかし、その後すぐに謝るシーンが来てしまい、その時にまた下手な薄ら笑いなので、結局のところ柳葉敏郎というキャスティングに関しては残念な気持ちが勝った。
また、内容的に考えて、主人公が旦那である柳葉敏郎と話すよりも、奥さんと話すシーンにしてもいいはずだと思えたので、やはり監督の縁がこのシュチュエーションを作らせたのではないかと思ってしまう。事件現場にいた奥さんこそ、より被害者の立場なのだから、奥さんの描きをもっとして欲しかった。私が女の立場にあるためにそのように思ってしまうのかもしれないが、実に物足りなさを感じた。
調和を与えてくれる音楽
メインテーマのリベラ「あなたがいるから」がとてもよい。当時この映画の宣伝CMがテレビで流れるたびに観たい気持ちが高められていたことを思い出したが、この音楽に引き寄せられていたのだと分かった。なぜなら、時間が経った今でもこの音楽はこの映画のテーマとマッチして観る者を引き寄せる力があるからである。特にラストのシーンでのセリフ「それでも生きるんだ」、「お父さんを守ってあげるんだ」といった、海での二人の会話のシーンにとてもマッチしていた。試練の多かった二人の旅路の終結として調和を与え、そしてこれから先を懸命に生きていくことに対してのエールになる音楽であった。
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