『うみねこのなく頃に』の序章
夏海ケイは竜騎士07作画担当者としては随一の画力を持つ
『ひぐらしのなく頃に』、『うみねこのなく頃に』など様々な作品を世に生み出した竜騎士07。今回考察する作品は、その『うみねこのなく頃に』を夏海ケイ作画でコミカライズしたものである。
孤島・六軒島を舞台に、魔女伝説になぞらえて起こる連続殺人事件。しかし、島に存在した全員が死亡するという不可解な謎を残したまま、EP1の物語は終わってしまう。
犯人とその目的を知ること、そして、果たしてこの物語は空想なのか真実なのか暴くことが、『うみねこのなく頃に』エピソードを通しての骨子となる。
『うみねこのなく頃に(以下、うみねこ)』は、『ひぐらしのなく頃に(以下、ひぐらし)』のコミカライズと同じく、エピソードごとに作画担当者が変わる。夏海ケイはEP1・3・8と、『うみねこ』のコミカライズのなかで最多となる作画担当者となっている。
実際、夏海ケイの絵は見やすく、作画にクセもなく丁寧なので、中年・老年のキャラクターが多い『うみねこ』においても淀みがない。この辺りは、少女漫画のような画風の作者が多かった『ひぐらし』の作家陣とは対照的だ。
また、『ひぐらし』『うみねこ』といえば登場人物たちの顔芸だが、これについてもしっかり描けているところが好感が持てる。普段の表情とのギャップも、狂気を帯びた顔つきも、作画を狂わせることなく見事に描ききっている。竜騎士07原作のなかで、トップクラスに入るほど上手い作家といえるだろう。
また、漫画の構成・演出も冴えわたり、終盤のなだれ落ちるようなホラーテイストが見事に表現されている。
ひとり、またひとりといなくなっていく大人たち。完璧な密室殺人、ありえないような殺害方法。不気味に魔女の存在を主張しつづける真里亞。読者は戦人たちと共に、ありえないはずの魔女の存在を徐々に認めはじめていく…。
この一連の演出が、非常にうまいのだ。『うみねこ』という物語のトップバッターとして、夏海ケイは十分にその役割を果たしたといえるだろう。
うみねこのなく頃に生き残れた者はなし
ストーリー・ネタバレにおいては解答編たる『うみねこのなく頃に散』があるため、出題編であるEP1を取り上げた今回はストーリー部分の考察の出番はない。
しかしながら、EP1だけを読んだ読者が、『うみねこ』をミステリーかファンタジーか考察するのは大いに楽しい読み方といえるだろう。筆者はバイト中、ひたすらに『うみねこ』のトリック一つ一つを考察しまくっていた時期があって、まったく頭が退屈しなかった記憶がある。
そして偶然か奇跡か、解答編で明かされた答え(といっていいかは怪しいが)と推理が一致していたのだから驚きである。筆者はミステリーを全く読まず、学力は並み以下の普通の人間であるが、裏を返せばその程度でも頑張れば『うみねこ』の真相の一部にたどり着くことが出来るのだ。『うみねこ』EP1だけしか見ていない、などという読者がいれば、頑張って読み解いて解答の断片にたどり着いてもらいたい。
これだけネットの普及した現在、わかったところで誰にも自慢できないという切ない気持ちを覚えることだろうが、筆者という残念な前例がいたことを励みにして、人生の極めて暇な時期にでも考察してもらいたいところだ。
ホラーを楽しむには最適か
閑話休題。作画と考察という二つの読み物としての面白さを兼ね備えている『うみねこ』であるが、むろん本編も読み応えがある。
EP1はホラーテイストが秀逸で、誰が最後まで生き残るのか非常に気になり、最後までどんどん読めてしまう。魔女の碑文どおりの見立て殺人が起こるなら、次に死ぬ人数もおのずと把握出来てしまうのが更に怖くなる。最初の6人が一気に死んでしまうシーンなどは、初見の人間はまず震え上がってしまうだろう。しかも、犯人像が全く見えてこないのもますます恐怖をあおる。
しかも、何度か述べているとおり、EP1の物語は全員死亡という最悪の形で幕を閉じてしまい、EP2へとバトンを渡す。EP2からはメタ世界でのベアトリーチェと戦人のファンタジーvsミステリー(のちに、アンチファンタジーと言い換えられる)のシーンが挿入されるため、純粋に六軒島連続殺人事件の概要を楽しめるのはEP1までとなる。
また、エピソードが進むにつれキャラクターも増えに増えてしまうので、ホラー的な雰囲気も、このEP1がもっとも楽しめるといえるだろう。
しかしながら、本作は全て謎に包まれたまま終わってしまうので、魔女ベアトリーチェの正体、犯人の有無、凄惨な事件の数々はトリックか魔法によるものか、などと真相が知りたい人は続けてEP2以降を読む必要があるだろう。
ただし、エピソードが進むにつれ酷評が多くなっているシリーズでもあることを老婆心ながら追記しておく(筆者の個人的意見としてこのEP1のテイストのまま出題編が続いてくれるのが一番嬉しかったのだが、あの『ひぐらし』の作者がそうおとなしく終わるはずもなかったのだ…)。
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