死亡フラグとグロを楽しむ漫画
グロ苦手な人は読まないほうが無難
『月刊少年チャンピオン』にて連載されていた『ハカイジュウ』は、分類的にはモンスターパニック漫画と言ってしまえばいいだろうか。
冒頭以外に日常パートはなく、主人公たちが謎の生物たちにひたすら追い詰められる展開が延々と続く。お台場や水道橋など、東京の各所を逃げ惑う展開は、馴染みのある人々にとっては読み応えがあり面白いといえるのだろう。だが、ランドマークや地下鉄に馴染みのない地方民にとっては、少々退屈に映るかもしれない。
また、登場人物たちの多くは謎の生物たちに襲われあっさりと死んでいくが、おおむね内臓や脳漿が見えるようなグロテスクな死にざまなので、グロが苦手な人は読まないほうがいいだろう。
『ハカイジュウ』はひたすらに謎の生物に襲われていくジェットコースターストーリーであり、大ゴマを多用しているため、コミックスはあっという間に読めてしまう。コミックスがある程度揃ってから読むほうが無難かもしれない。
人が死ぬのを楽しむ漫画
さて、そんな『ハカイジュウ』の最大の見せ場はなんであろうか。
まず、作画は特別上手くも下手でもない。キャラクターたちは現実世界にいそうな写実的特徴を持ちながら、漫画的な美醜を備えている。作画の特徴は『GANTZ』に近い。極端なことをいえば、主役級は外見も生存率も漫画キャラらしく補正がかかったハイスペックなものになっているが、その他サブキャラは外見も人生も言動も、総じて全てが雑魚だ。
描写自体は決して下手という訳ではないのだが、キャラの言動や行動が総じてチープで、いまどき三流邦画でも使わないような、印象に残らないシーンが続く。主人公を好きになるヒロイン、ヒロインのために生きることを決意する主人公、死ぬ幼馴染とテンプレート的ベタな展開が目白押しで、漫画の教科書でも読んでいるかのような気分になる。
しかし、ベタな展開だからこそ楽しめるということがある。作中でキャラたちが繰り出す死亡フラグがあまりにもベタベタなため、自分の予想がどれほど当たっているかを確認することが出来るのだ。この、死亡フラグ予測こそが『ハカイジュウ』随一の楽しみ方である(もちろん、グロ嫌いな人には勧められない)。
途中まで主人公に同行していた連中が、突然「おれたち、結婚するんだ」などと死亡フラグを立てると「お、きたな」と読者は察する。そして予想が見事に的中すると、小テストに合格したかのようななんともいえない悦びがある。ただしこれは歪んだ楽しみ方であることは否めないので、普通に漫画を楽しみたい人は死亡フラグを「見なかったことにする」、という高等テクニックを使うべきだ。
また、パニック漫画の定番ではあるが、途中で誰が離脱する(=死ぬ)か、ドキドキして読むことが出来るのも『ハカイジュウ』の楽しみといえるだろう。あからさまに死にそうなキャラがやっぱり死ぬこともあれば、明らかに死にそうなキャラが最後まで残ったりすることもある。意外と気が抜けないところにも注意したい。
意外なキャラの生存がアツい
意外といえば、『ハカイジュウ』のキャラクターのなかには、死んだと思わせておいて実は生きているという展開も多い。というか、ある程度登場したキャラのなかで、頭部がなくなったり身体がバラバラになるなど明らかに死んだと思われる描写がない限り、生きている確率が非常に高い。
意表を突く形での登場人物の生存はモンスターパニック作品ではありがちだが、『ハカイジュウ』は更に一歩進んで戦闘兵器として再登場する。それまで『ハカイジュウ』を単なるモンスターパニックものだと思っていた読者たちは、まさかの改造人間登場にのたうち回ることになるだろう。最終局面ギリギリになってそう来たか、と。
また、フューズと謎の生物たちとの戦いが繰り広げられる第一部後半のノリは、『ウルトラマン』などの怪獣漫画のようにも見え、モンスターパニックものの結末としては度肝を抜かれる展開になる。筆者は読んでいて、正直誰が敵か味方か判断がつかず、とりあえずなんか戦っていることだけを意識しながらページをめくっていた。
しかしながら、ここに『ハカイジュウ』の見せ場がある。
主人公と主人公の幼馴染がフューズとなって戦うシーンはまぁありがちだとしても、「先生」こと武重がヒロイン・白崎への執念で戦う姿は勇ましくカッコいい。空回りのストーカーもここまで来るといっそ潔いものさえ感じる。
むしろ先生こそが『ハカイジュウ』の唯一の魅力あるキャラクターで、彼の活躍を追っていけば十分に楽しめる漫画といえる。
後半の『ウルトラマン』的怪獣バトルはモンスターパニックという当初の趣旨とは大幅に外れるが、このあたりは作者の趣味と思って寛容に受け止めるべきであろう。
しかし、第一部最終回が本当に『GANTZ』のような展開になっているのは本当に頂けない。まだ謎の多い第二部で、もう少し見どころが増えるといいのだが…。
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