密室推理劇に求める「面白さ」とは?
緊張した面持ちの8人のビジネススーツの男女。彼らが向かう無機質な室内には簡素な机と椅子が並べられ、机上には受験番号が記された一枚の白い紙。ある会社の入社試験のようだが、帯銃した警備員が入り口を固める異様な雰囲気。やがて監督官が入室し、試験(エグザム)のルールを述べ始める。
問題用紙が白紙で不審な表情を浮かべる一同。ストーリーは、決められたルールを活用して問題は何か突き止め、他者を出し抜いて解答を得るという、知的バトルへ向かっていく。ユニークな設定と二転三転する展開は、試験会場と廊下だけという限定されたシーンで構成されたとは思えない広がりを見せ、最後は何と世界を救う、という感動まで付いてくる。
傑作だと思うのだが、映画紹介のサイトなどでの評価は概して高くない。どうやら予告などの惹句から、「SAW」や「CUBE」のようなドラスチックなソリッド・シチュエーション・スリラーを期待した向きが多かったようだ。美味しいラーメン屋さんと思っていたら、カレーが出てきたかのような肩すかし感を味わったのだろう。
2007年に日本で制作された「キサラギ」は、自殺したB級アイドルの一周忌に集まった5人のファンが、彼女の死の真相を推理する同様の密室推理劇だった。キサラギの妙味は、ただのオタクだと思われた5人の正体が薄皮を剝くようにはがれるにつれ、真相が見えてくる展開の旨さにあった。
エグザムもまた、表に掲げられた謎である試験問題を探るにつれ、密室の外にある世界の意外な姿が浮かび上がっていく仕組みになっていた。世界は若者に広がったウイルス病で危機に向かっており、この会社がブロックバスターとなる薬を開発したという背景が明らかになる。
この世界観に近いのは、萩尾望都の傑作コミック「11人いる」ではないかと思う。この作品でも、宇宙大学の最終試験となる密室の宇宙船内で、11人目の存在により試験の枠組みが崩壊するなか、登場人物がいかに対処していくか、という展開が面白かった。
エグザムでは、常識に囚われない発想をする候補者の選別のため「なにか質問は?」という監督官の最初の質問に答えた者が正解者というオチだった。ひとつ気になったのは、このとき手を挙げて「トイレに行っていいですか?」と訊いたヤツがいたらどうしたのだろう、ということだ。
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