『マギ』作者の出世作
大高忍の出世作
週刊少年サンデー誌上で連載し、アニメ化された『マギ』。現在も連載は継続中であり、着実に人気作品としての地位を築いている。
その作者・大高忍がスクウェア・エニックス『ヤングガンガン』で連載していた漫画が『すもももももも』だ。
内容はバトルコメディとなっており、武術家の末裔でありながら戦えない高校生・犬塚孝士の元に、強すぎるヨメ・九頭竜もも子がやってくることから始まる。序盤はコメディの要素が強く、孝士ともも子のもとにやってくる武術家の刺客を追い返す話がメインとなる。虎金井村以降は、バトル漫画の面が強まり、もも子を主役とする武術家対武術家の手に汗握る死闘が見ものとなる。
こう書くとコメディからバトルへ転換したようにも見える『すもももももも』だが、どちらの描写も卓越しており、全体がバトルコメディとしてうまくまとまっている。また、物語の要所要所で、もも子の愛情が孝士を励ます姿は、とても純情で温かい。全体的なテイストは、高橋留美子の『らんま1/2』にとても近いといえるだろう。
この辺りのバランスの良さが特に集約されているのが、最終話である。
武術家として目覚め、ムキムキになって帰ってきた孝士が結婚の許しを貰うためもも子の父親と対戦し、目からレーザー(犬塚の瞳術)を出しつつ、もも子の父親を圧倒。「好きっ!!」ともも子に抱き着かれて終了…というぶっ飛んだエンディングが大団円に見えるのも、『すもももももも』ならではだ。
余談ではあるが、アニメのオープニング”最強○×計画”はネタとしてよく扱われ、聞いたことのある人も多いのではないだろうか。
メインはギャグ! 大高忍のセンスが光る
ちょっぴりエロくもあり、骨太のバトル展開もある『すもももももも』。だが、やはりメインはギャグといえるだろう。
ぶっ飛んだエンディングからもわかるように、『すもももももも』は勢いから来るギャグセンスがとんでもないのである。特に武術家界での暗黙の了解は常にぶっ飛んでいて、一般人の孝士を驚かせている。
たとえば、孝士が犬塚家秘伝の書を読んだとき、「鳥を見ていたらいつの間にか撃ち落していた経験がありますよね?」と1ページから人間の所業を超えたネタを平然と入れてくる。ヒロインであり強すぎるヨメ・もも子は特に孝士を悩ませ、常識という概念を問わせている(残念ながらこの辺りのネタは本考察では詳しく取り上げられないので、実際に読み返すしかない)。
また、もう一つの作品の柱であるバトルも見逃せない。
『マギ』でもそうだが、大高忍はバトルを描くのが非常にうまい。構図や人物の身体の動き、表情に至るまで、他のバトル漫画の連載大御所陣からなんら引けを取らない。
武術家であるもも子、いろは、虎金井天下など、それぞれの戦い方をしっかりと描き分けているのも素晴らしい点だ。
特に初めてバトル展開に突入した虎金井村編で、その才能が一気に発揮されている。バトル漫画において、女性キャラは男性キャラに一歩先を譲ってしまいがちだが、もも子が作中最強として描かれ、誰よりも傷つきながら戦っている点も好感が持てる。虎金井天我との戦いのなかで、孝士の武術家としての才能の兆しが見え、もも子を救うシーンも、主人公を立てる最高の構成といえるだろう。
そういった最高の構成で挑んだ虎金井村編が終わってしまうと、やや物語が低調する。キャラクターが一気に増えたのと新展開がいまいちだったことが原因だろうが、それでも『すもももももも』はまだまだ面白くなる資質を秘めていた。だが…。
なんで終わってしまったのか
結果として、『すもももももも』は次編・第7次十二神将戦争編の完結で物語を閉じてしまう。
ストーリーの節目としてはちょうどよく終わったが、全体的な設定・伏線からみれば中途半端に終了してしまった感は否めない。十二神将でまだ登場していない一族も多く、読者としては消化不良気味だ。
これはファンにとっても賛否両論であり、「大団円でよかった」という声もあれば「後半明らかに打ち切りに向かって展開が加速していた」という声もあり、一読者としては区別が難しいところだ。
また、男性読者と女性読者で『すもももももも』は意見がとても分かれている。男性読者は特に序盤のちょいエロなカットや”脱ぐと強くなる”早苗を支持していたようだが、女性読者からは「あざとい」と非難されている。『ヤングガンガン』は青年誌といえども、スクウェア・エニックス自体が女性読者を囲ってきた長年レーベルなので、これはなんとも男性読者・女性読者の好みのさじ加減が難しいところではある。
女性読者は『マギ』からさかのぼって読んだという人も多いため、よりいっそう、同じ作者の絵でエロは見たくないと考えている人もいるようだ。
筆者の個人的感想を述べるならば、『すもももももも』はかなり面白く、好みの作品だ。むしろ『マギ』よりも好きなのだが、やはりこの辺りも意見が分かれるところであろう。
どういった経緯で『すもももももも』が(おそらく打ち切りで)終わってしまったのか、現在も調査中である。
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