西尾維新原作の漫画連載　吉か凶か - めだかボックスの感想

オタクの間では知らない人はいない有名作家・西尾維新

自分がある程度のオタクであると自認する人のなかで、西尾維新の名を知らない者はいないだろう。

超速筆で知られ、デビュー以降刊行した本の数はラノベ・文芸業界でも随一である。代表作『化物語』や、２０１５年冬ドラマ化した『 掟上今日子の備忘録 』はオタク以外にも広く知られるところである。

その西尾維新が、週刊少年ジャンプ上に連載する漫画原作を担当した。それが『めだかボックス』である。

漫画原作者たる西尾維新は、すでに読み切りでジャンプ上にお披露目されていた。それも作画は小畑健。ジャンプにおいて小畑健作画はブランド化しており、小畑健の作画漫画は長持ち（長期連載）しやすいと言われている。

ジャンプ編集部から、破格の待遇を受けた西尾維新の”初連載”は、果たしてどういう結果に終わっただろうか。

ハマればハマる西尾イズム。万人受けは難しい

西尾維新は、もともと漫画家を目指していた。だが、絵の才能がないことを自ら悟り、メフィスト賞に応募し、デビューするに至った。

その西尾維新最大のウリが、登場人物たちの掛け合いーーダイアローグだ。

関西人である西尾維新らしく、会話はポンポンと進んでいく。このポンポンは決してサクサク進むという意味ではなく、話の脱線が多く要点もかなりズレる。でたらめに言葉の矢を放って、相手（多くは主人公）陣営に投げる。相手が矢を受け、（あるいは刺さって）、また相手は矢をでたらめに放つ。その繰り返しだ。

また、言葉遊びも西尾節の大きな特徴といえるだろう。

アニメの話になって申し訳ないが、『化物語』の次回予告では、主人公の妹たち・ファイヤーシスターズが”不思議に思った日本語”を延々と喋っている。このやり取りが西尾維新の小説では随所で見られる。有名なところで、「蕩れ」が「萌え」に変わるセンシティブな言葉、という戦場ヶ原ひたぎのセリフだろう。

いずれにしても、西尾維新はダイアローグとレトリックで人気を博した作家である。オタクの間では西尾維新原作は人気が高く、ライトノベル作家を目指す者のうち、西尾維新から影響を受けている者はかなり多いと聞く。

だがーー優れた文芸・アニメ原作を書ける者の漫画原作が、必ずしも面白いとは限らないのだ。

『めだかボックス』が掲載されたのは週刊少年ジャンプ。他の漫画誌を読まなくても、ジャンプだけは読むという層が一定以上存在する。そして彼らは、いわゆるオタク層と比べて、アニメや漫画にそれほど造詣が深くはない。彼らの多くは、西尾維新の存在を知らなかった。

彼らにとって、西尾維新の言葉遊びは、大変に奇異に映った。

何が面白いかわからない。何を言いたいかわからない。登場人物たちのどこにも魅力を感じない。

くわえて、作画の暁月あきらの絵も決して万人受けするものではなかった。登場人物はデフォルメが強く、トーンが多すぎる。表情も一辺倒で迫力がない。

つまり、原作・作画とも、ライトノベルには向いているかもしれないが、少年漫画には一向にむいていなかったのである。

少年漫画向きではない、という言葉が意味するのは、つまり読者に読んでもらえなくなる、ということだ。一度離れた漫画には読者は戻らない。特に週刊連載のストーリー漫画は一つのエピソードを読まなくなってしまうと、コミックスでも読まない限り話についていけなくなる。

読者の困惑を反映するかのように、『めだかボックス』は掲載順をみるみる下げていった。

幾度となくジャンプのラスト掲載に留まるようになり、打ち切りは秒読みと思われた。

打ち切り候補からの逆転劇　

しかし、『めだかボックス』は復活し、アニメ化までこぎつけている。

華麗な復活劇の背景には、まず一つに、展開の切り替えがあげられるだろう。

日常部活系だった漫画が、ジャンプ読者に好まれるバトル系へと変わっていった。これはジャンプでは決して珍しいことではなく、『家庭教師ヒットマンReborn』のようにギャグからバトルへ転身して売れた漫画もある。

しかも、結果として西尾維新独特のレトリックが、ここにきて功を為した。

いわゆる能力モノにおいて、西尾維新による能力のネーミングは目をひいた。そして一風変わった能力特性も、読者の興味の対象になった。もともと西尾維新は『ジョジョの奇妙な冒険』のファンだったというから、能力モノへの造形が深かったのだろう。

もう一つは、ネット上での人気に支えられた、という点だ。

正直にいえば、『めだかボックス』を支持する声は漫画ファンの間では聞こえなかった。『めだかボックス』を読むのをやめた人からは、「あぁ、あれね。まだ連載してたんだ？」という声が聞こえたほどだ。

だが、ジャンプファンの知らないネット世界において、『めだかボックス』は面白いと評価され、アンケートやコミックス売り上げが上々だったか詳細は不明ではあるがーー結果として連載継続、アニメ化までこぎつけたのである。

これはジャンプを購読し続けた読者にとっては全く不可解な事態であったが、ネット社会というアングラな世界の影響力をしらしめる機会になったのかもしれない。

いずれにしろ、『めだかボックス』はこういった二極化する人気の中で、それでも連載を続けた不思議な作品となった。

賛か否か。『めだかボックス』を、読者諸兄はどう評価したであろうか。