何かが足りないかずはじめの絵 - Luck Stealerの感想

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Luck Stealer

2.002.00
画力
1.50
ストーリー
1.50
キャラクター
1.50
設定
3.50
演出
1.50
感想数
1
読んだ人
1

何かが足りないかずはじめの絵

2.02.0
画力
1.5
ストーリー
1.5
キャラクター
1.5
設定
3.5
演出
1.5

目次

『明稜帝 梧桐勢十郎』で知名度を上げた漫画家・かずはじめ

かずはじめは、週刊少年ジャンプ上で『明稜帝 梧桐勢十郎』を連載していた漫画家だ。

独特のクセのある作画に思い当たる節のある方も多いだろう。トーンやベタをほとんど使わず、キャラクターの描写も一貫して淡泊だ。だが、主人公であるセージのキャラが濃いせいか、特徴的な絵でも気にならなかった。

90年代のジャンプ黄金期において、二年にも亘って連載し続けた漫画家の次回作。

さて、それでは月刊誌『ジャンプSQ』に舞台を移し連載を始めた『Luck Stealer』は、どういった作品なのであろうか。

ありそうでなかった秀逸なアイデア

『Luck Stealer』は、運を吸い取る始末屋という秀逸なアイデアが何よりも良い。

運を奪って人を殺すから証拠は残らない。人が常に感じながら、それでも決して視覚化できない運という要素に踏み込んだことは漫画家として非凡なものを感じ取れる。

しかしながら、『Luck Stealer』で目を引くのはその点だけだ。

妻を失った主人公、生まれつき運がないせいで事故に会う娘、主人公に仕事を依頼するバーの店主、とどこまでもテンプレートなキャラ設定とストーリーが延々と続いていく。

ストーリーが進むにつれ明らかになる主人公の出生の秘密、主人公を利用しようとする組織と、組織に反発するレジスタンス。娘のためを思いレジスタンスに参加する主人公…と、展開が進んでいるのにも関わらず読者のテンションはいまいち上がらない。敵の組織のボスの通称が”アークマスター”というのも残念で、もっとひねって欲しかった。

キャラには一切共感できず、どこかで見たことのあるストーリーが続き、キャラ同士の掛け合いはどこか嘘臭くテンションが上がらない。

”運を吸い取る始末屋”というどこまでも広がりそうな設定なのに、これは本当にもったいないことだ。

『明稜帝 梧桐勢十郎』で感じた少年漫画らしい熱も、暑苦しいまでのメッセージ性も、『Luck Stealer』からは感じ取れない。作者には物語をもっと面白く実力があるはずなのに、なぜ日和ってしまったんだ…と本当に残念でならないのである。

良い設定もやはり絵でつまづく

『Luck Stealer』が名作たりえなかった原因の一つに、やはり絵があるだろう。

かずはじめの絵の特徴は、総じて”淡泊”に尽きる。

背景が白く、登場人物の動きには総じて迫力がない。横顔はいつも同じで、女性キャラクターに色気はない。武道をたしなむ男性キャラクターに筋肉はなくスラッとしていて、悪役はみんな同じ風貌…と、とにかく絵が課題なのだ。

この画風をして透明感のある画と評価する方も多いが、かずはじめが描きたい内容にはこの絵はそぐわないだろう。

特にアクションシーンが物足りないのが致命的だ。『Luck Stealer』は始末屋と、彼に狙われる者との命をかけたやり取り、被害者は気づかずに運を吸い取られ、事故死、という流れから、ダイナミックでドラマ的な手法が使われてもいいはず(というか、そこまでしないと物語は人目を引かない)なのに、オープニングからオチに至るまでやはり淡泊、淡泊なのだ。

辛いのは、感動的なシーンですら、画面が真っ白で全く感情移入が出来ないところだ。泣きたいのに泣けないお寒い展開は、むしろ滑稽にすら映ってしまう。伝えたいことが伝えられない、漫画家にとっても辛い事態なのではないだろうか。

ラストはハッピーエンドで終わるが、そこまでの持っていき方についても疑問が残る。

主人公・来栖はあくまでも殺し屋。人の運を吸い取る始末屋でありながら、代償は自らの力を失っただけ。贖罪も懺悔もないまま、娘と自分だけは無事で生き残る…。これでは、エピローグとしてもいささか物足りない。

闇の世界に生きる人間ならば、それ相応の生き方が求められる。それがハッピーエンドでは、一生懸命物語を読んできたファンにとっても不本意だ。消化不良を起こした読者にとって、『Luck Stealer』は納得が出来ないエンディングになってしまった感は否めない。

振り返っても、やはり”もったいない”作品

と、酷評ばかりで申し訳ないが、やはり『Luck Stealer』はもったいない作品なのだ。

秀逸なアイデアがなければ漫画として注目されない。これだけ良き設定を生み出せるのだから、かずはじめには確かに漫画家としての非凡な才能がある(でなければ、よほどのツテがない限り20年も漫画家で食ってはいけないだろう)。

思うにかずはじめは、原作に回った方がいい漫画家の一人だ。ジャンプの掲載を目指す漫画家は多く、彼らは常に自らの才能と戦い続けている。漫画家になりたいと志望して、連載会議に通らないまま自分の道を振り返り、原作専門・作画専門になった漫画家は数多く存在する。かずはじめも、そちらに回るべきなのではないだろうか。

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