掟破りのパロディで人気があった『太臓もて王サーガ』
週刊少年ジャンプのギャグ枠に居座り続けた『太臓もて王サーガ』、その秘訣は。
週刊少年ジャンプの歴史は長い。黄金期と呼ばれる面白い作品ばかりの時代もあれば、読み応えのない連載作品ばかりの過度期、また長期連載作品が飽きられた衰退期もある。
中でもギャグ漫画においては、きわめて短いスパンで隆盛と衰退を繰り返す。そもそも週刊少年ジャンプにおいてギャグ漫画の比率は少ない。本誌上の構成は、ストーリー漫画が7割、『こち亀』のような短編作が1割、新人の読み切りが1割、あとはギャグ漫画が1割といったところだ。
その少ないギャグ漫画の中に、『太臓もて王サーガ』はあった。
当初、無個性な絵柄と特筆すべきところのない『太臓もて王サーガ』は、10週で打ち切られるものと読者に目されていた。
事実、作者・大亜門の前作『無敵鉄姫スピンちゃん』はジャンプ本誌に連載したものの、わずかコミックス一冊で打ち切りになったからだ。 少年漫画誌の大激戦区であるジャンプは、新人もベテランも連載枠を狙っている。そのなかで、10週打ち切りの経歴を持つ大亜門に期待する読者は少なかった。
だが、『太臓もて王サーガ』は思いのほか続いた。それは、『太臓もて王サーガ』を読み飛ばしていた読者の目を振り向かせるのに十分な結果だった。
『太臓もて王サーガ』は結果として、全8巻で連載を終える。だがジャンプの、しかも連載枠の少ないギャグ漫画としては、大健闘である。近年のジャンプのギャグ漫画のうち、『ピューッと吹くジャガー』『すごいよマサルさん』で知られるうすた京介を除き、ギャグ一本で連載を継続し続けた作品は極めて稀なのである(長期連載作品『銀魂』も、ギャグとストーリーが混在している)。
さて、では『太臓もて王サーガ』の何が読者の目を引き付けたか。次項で詳しく語っていこう。
パロディ・パロディ・パロディ。怒られながらも続けたパロディ路線
『太臓もて王サーガ』の見どころといえば、主にジャンプの他の作品から引っ張ってきたパロディだ。
特にひどい(ほめ言葉だ。念のため)のは、荒木飛呂彦作『ジョジョの奇妙な冒険』のパロディである。
急に作中のタッチが変わったらその合図だ。主人公・太臓やその仲間たちの顔が芸術性を帯び、ファッション誌のモデルのようなポーズを取り始めたらそこはもうパロディの発信地。
しかも大亜門の巧みなところは、パロディ元の構図・絵を完全に作中に落とし込み、ギャグとして披露するところである(中には露骨に『ジョジョ』のキャラを模したキャラクターも現れ出した)。
これがウケた。『ジョジョ』を知っている人も、知らなかった人も、急に変わる画やテンションのハイ!になったキャラクターに驚き、笑ってしまう。
結果として、これが『太臓もて王サーガ』の人気に火をつけた。読者によっては、「今週のパロディは何だろう」とパロディ自体を楽しみにする者も現れた。
しかも、これは『ジョジョ』を敬遠していたジャンプ読者が、『太臓もて王サーガ』によって『ジョジョ』を読み始めるという予想外の逆結果をも生んだ。『ジョジョ』の作者荒木飛呂彦と大亜門が仲良くしている姿が描かれたあとがきにも驚かされた。「あぁ、これ荒木先生も公認なんだ」という事実が読者に安心を与え、『太臓もて王サーガ』を支持する声は次第に増えていった。挙句の果てには本誌上で荒木先生が描いた太蔵が登場するという一幕があった。貴方ならどうする?最高だった…。
しかし、パロディ元が『ジョジョ』だけでなく、他のジャンプ作品にも波んでいたことが時折波紋を呼んだ。
『太臓もて王サーガ』作品内でも「パロディして怒られた」との旨を示唆するセリフがあり、読者は「あぁ、やっぱり怒る作者もいるんだ」とジャンプの裏事情を垣間見ると共に、先生に遠まわしに怒られた子供のような不安を抱く者も少なくなかった。
いずれにしろ、『太臓もて王サーガ』はジャンプの問題児とされながら、連載が続いていったのである。
問題児の落日。やがては連載打ち切りへ
しかし、人気はいつまでも続かなかった。ジャンプは掲載が後ろに回れば回るほど、人気がなくなっている=打ち切りが近づくと云われている。『太臓もて王サーガ』の掲載順はいつの日から後ろに追いやられ、打ち切りの憂き目にあったのである。
何が原因か、詳しい理由はわかってはいない。確かなのは、『太臓もて王サーガ』の面白さに陰りが刺したと考える読者が増えたことと、『太臓もて王サーガ』のパロディに苦言を呈した漫画家の圧力によるものでは決してないということだ。
だが、『太臓もて王サーガ』は今でも熱心なジャンプ愛好家のなかでは語り継がれる”面白かったギャグ漫画”であり、連載終了を嘆く声は多い。それは「少年ジャンプ+」が2014年から2015年にかけての年末年始に開催したネット上のイベント「ジャンプ大復刻祭」で読者のリクエストを受けて復刻したことからも明らかである。
謎のカリスマ性と卓越したパロディセンス、総合して確かな面白さを持った『太臓もて王サーガ』の名は、わずかな連載期間であったが、ジャンプ読者の記憶にはしかと残っているのである。
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