無戸籍の少女の成長物語
戸籍のない人が抱える苦悩
私は無知なので、戸籍のない人がこの日本に存在するということがよく理解できませんでした。離婚300日問題がいろいろと改訂されつつある昨今、こういう状況に苦しむ人がいるのだなあと何となくわかってきたけれども、そのきっかけとなったのがこの『息もできない夏』でした。このドラマは、普通であることのありがたさを教えてくれたような気がします。世の中に、戸籍がないことで制限されることがたくさんあるのだということです。玲の場合は就職と留学でした。
無戸籍の人にはいろいろな事情があるようです。このドラマに関しては、元夫の戸籍に入れられるのが嫌だったのと、認知を受けようにもDVの被害にあっていたため、顔を合わせたくなかったということですが、他にも病院で出産しなかったから出生証明がもらえなかったとか、病院の会計を払わずに逃げたから出生届を出せなかったとか。あるいは親まで無戸籍であるためといった理由です。一方、捨てられた子であっても戸籍を取得することはできるのだそうです。何ともややこしいことです。
それでも、このドラマの無戸籍者、武井咲ちゃん演じる谷崎玲はきちんと高校まで卒業しています。一方、無戸籍のサイトで出会った広太は義務教育も受けていません。無戸籍者でもいろんな違いがあって、苦労の度合いみたいなものが違うんだなと思いました。玲は保険証を持っていなくて病院で母親が実費で多額の現金を払っていました。広太は生活保護費を受け取っていました。何ができて、何ができないのかドラマではそこまで教えてはくれなかったけど、そういう不幸な現実が改善されていけばいいなと思います。戸籍って何のためにあるのだろうかと改めて考えさせられるドラマでした。
それにしても、玲が自分が高校を出るまで戸籍がないことに気づかなかったのは、その一方で母親の苦労があったからだと思いました。私が子どもの頃は学校の修学旅行の時に保険証のコピーを持ってこいとか言われたけれども、どうやってしのいだのだろうか。それとも今は、個人情報の関係でそういったことはないのかしら。
母親に同情できないストーリー展開
玲が無戸籍であることが分かって、母娘で戸籍取得に向けて頑張ろうという話になりました。待ち合わせの役所に行く途中、母親の葉子はDVの元夫の姿を見かけて雲隠れしてしまいます。それはないでしょうよと、私は憤りを感じました。大体、パリ留学の話に浮かれている娘にフランス語の本をプレゼントする気持ちが全くわかりません。その時はまだ、玲は自分に戸籍がないと知らなかったのに。後から考えるとこのシーンはなんて残酷なのでしょうか。ぬか喜びさせるだけですもの。あまりに酷すぎでしょうよ。
大体、DVの夫から逃げてすぐに他の男と恋に落ちるからDNA鑑定みたいなややこしいことになっているのだし、最後の交渉はレイプだったとはいえ、いろいろと脇が甘すぎるでしょう。DVの恐ろしさを強調するのはわからなくないけれど、自分の保身に走りすぎている気がしました。そりの合わない父親でも、シェルターの人でも民生委員でも警察でも、いろんな人に協力してもらって、まずは玲の戸籍のことを第一に考えるべきではなかったのか。とにかく、この母親の弱さが諸悪の根源となっているのは間違いないでしょう。自分だったら、もっと子どものことを必死で守ってあげたいなーとイライラしながら見ていました。
樹山さんの存在意義
そんな、当てにならない母親の代わりに戸籍取得のために奔走してくれた江口洋介演じる区役所の夜間窓口の樹山さん。玲がお礼にと自分で焼いたアップルパイをプレゼントするシーンがあったけれども、規則で受け取れないから買いますという実直ぶり。何も買わなくても…と思ったのは私だけではないはず。玲にとって頼れる大人は樹山さんだけだったのでしょう。しかも、小さい時に父親を亡くしている彼女にとって、樹山さんは次第に父のようで、兄のようで…とにかく表現できないほどの心強い味方であったのは間違いなかったと思います。そこを最終回で「ただのおじさんだろ?」とさらりと流す樹山さんがめちゃくちゃかっこよかったです。
樹山さんと同居している亜沙美から嫌みな態度を取られたのは、玲の顔が可愛いからかな?嫉妬なのか、樹山さんだけ幸せになるのが許せないのか。普通に考えればお互い恋愛対象になる年齢じゃないのにね。あの謎の親子はこのドラマのなかで何の役割があったのでしょうか。ヒールなの?贖罪のために一緒に住んで縛り付けるって訳がわからないわ。普通だったら顔も見たくないと思うところでしょうが。
とにかく、ラストは何もかもハッピーエンドかと思いきや、玲が元夫の子どもであったことだけが家族にとっての不幸だったのかもしれません。しかし、死の前に心を入れ替えているし、誰の子であったとしても自分の夢に挑戦できることに変わりありません。戸籍取得は玲にとって成長のためのつらい試練だったのでしょう。
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