名脇役?凄まじいまでの小物悪役ムーブをしながら、何故かファンに愛されし男
憎たらしさの権化、無能な小物で敵役、彼の名は。
Fate/stay nightの魅力は壮大なシナリオ、シーンを盛り上げる音楽、あまりに深遠な世界観など多岐に渡ります。中でも魅力的な数々キャラクターは多くのファンを惹きつけてやみません。過酷な過去により人間性を失い、人を助ける以外に存在意義を見出せない主人公、衛宮士郎。一流の魔術師でありながら人らしい善性を体現し続けるヒロイン、遠坂凛。自らの過去を極限まで後悔し、自らの過去を殺したいほどに憎む、今作品の影の主人公、アーチャー。この作品は主にこの三人を軸に物語が展開していきます。もちろん登場人物は彼らだけでなく、他にも多くのキャラクターが登場し、それぞれの見せ場でその魅力を輝かせていきます。そんな中、メインキャラクター達の輝きにも劣らぬ、一際異彩を放つ男が一人います。自分はほぼ戦闘能力皆無のくせにサーヴァントや主人公たちを見下し続け、自らの器以上に調子に乗ったあげく、あまりに無残な最期を迎えかけたあの男。そう、ワカメ、もとい間桐慎二です。
ここまでしておいて。
まずは間桐慎二の劇中における活躍の数々を確認しましょう。自身のサーヴァントであるライダーに命令し、学校中の生徒から魔力を吸い上げさせて集団昏倒を起こす。その後、葛木宗一郎に逆に強襲され、あっさりとライダーを失う。それからは聖杯戦争の監督役である言峰綺礼に保護を求める立場ながら、敗退したのはライダーひいてはライダーを召喚させた言峰側の責任だと罵倒。ギルガメッシュや言峰の口車にまんまと乗せられ、凄まじいまでに増長、衛宮士郎や遠坂凛への態度もこれまで以上にデカく悪いものへ。増長しきった彼は遠坂凛へのセクハラ、もはや強姦といっても過言では無い行為に及ぶものの、ランサーの妨害にあい、あまりにも情けない悲鳴と共に逃走。最終的に、聖杯の核をギルガメッシュに無理やり埋め込まれ、ふえるワカメ、もとい、全人類を殺害しうる呪いをまき散らす災害へと変貌してしまいました。さて、改めて確認して、いやそもそもこの作品をご覧になった時点でお気づきでしょうが、真っ当な活躍が一切見当たりませんね。教科書に載るかのような小物悪役ムーブ、ここまで徹底されるといっそ清々しいと言わざるをえません。普通に嫌な奴、そもそも意図して嫌われ役として描かれているのが彼、間桐慎二なんです。しかし、それでも彼は数少ない衛宮士郎の「友人」というポジションです。加えて、メタ的にこのFateシリーズのファンの視点からしても、当たり前のように嫌い、ウザい、という感想を抱いている方も多いですが、同じぐらいに彼が好きだと、間桐慎二のファンだという方々が存在します。作中でここまでしておいて、こんなことをするような性格で、それでも主人公の友人であり、多くのファンを獲得できている彼の魅力とは、どこに、どんな形で存在しているのでしょうか。
愛されし海産物、その魅力とは。
彼のトレードマークとは、ずばりここまでしつこいほどに述べてきた彼の愛称の由縁、その特徴的な髪型、いわゆるワカメヘアーです。公式作品中で彼がそう呼ばれたのは本作品の原作、ゲーム版Fate/staynightではなく、その後に発売されたFate/hollowataraxiaです。話は逸れますが、この作品でようやくFate/staynightでは描かれなかった、彼の善良な部分や彼と衛宮士郎の友人らしい掛け合いが見られます。話を戻して、この作品による彼の愛称の普及度はシリーズのファンの間ではすさまじく、「Fateのワカメ」と言えば冗談でなく、どのキャラクターを指しているかけっこう普通に通じます。そういった愛称を含めたある種の滑稽さ、いわゆる道化のような在り方が多くの人に好かれる要因なのかもしれません。彼の小物ムーヴがなくては物語も動かず、彼の道化のような在り方があったからこそ物語は正しく素晴らしい形に完結しました。彼もまた、Fate/staynightに無くてはならない存在です。であれば、彼が好まれ、ファンが存在するのは必然でしたね。おお、彼こそは愛されし海産物。ワカメよ、永遠なれ。
間桐慎二、彼に惹かれるその理由。
さて、ここからは真面目に、いや間桐慎二のワカメや小物要素も間違いなく彼の魅力を構成する要素ではあるのですが、もっと根本的な部分、間桐慎二が多くの人惹きつける理由を考えてみようと思います。彼、間桐慎二が多くの人たちを惹きつける理由、それはずばり、彼が物語に関わるキャラクターの中で、私たちにもっとも近いという意味で、等身大だから、ではないでしょうか。主人公である衛宮士郎やヒロインである遠坂凛はサーヴァントのマスターであり魔術師、常識外の存在です。サーヴァントに関してはそもそもキャラクターのモデルが神話や伝説上の英雄や怪物である以上、能力もマスター以上に常識はずれです。それにともなって彼らの在り方や性格は、どうしても現実における一般的な感性の在り方とは相いれません。ただそれは、身もふたもない言い方をすれば創作である以上、こういったことは当然で、ままあることではありましょう。しかしそれでは、そのあたり間桐慎二はどうでしょうか。あんな分かりやすいほどに小物でクズな性格をした男、現実の周囲には存在しえないでしょうか、いや割合そんなことはないはずです。大きい力を手に入れたつもりになって、調子に乗って周囲を見下して、ある時急に報いを受けるがごとく悲惨な目にあう。こう書いてみると、よくある話に見えてきませんか。また、彼は魔術の知識こそ持っていますが、魔術を扱う能力、才能は一切ありません。一般人として勉強、運動、異性との付き合い方などは優秀ですが、優秀止まり、魔術や英霊なんてものが跋扈する劇中で言うと、序盤でライダーの結界の被害を受けて倒れていたモブ学生たちと、能力的にさほど差が無いと言って過言ではありません。そして、彼の性格にしても何の理由もなくあんな悪辣さを発揮してる訳ではないのです。この作品中ではほとんど触れられませんが、間桐家は魔術師として歴史ある名家です。こと聖杯戦争においては始まりの御三家と呼ばれるいわば企画者の一族で、祖父にいたってはその企画者達の一人であり超がつくレベルで優秀な魔術師でした。間桐慎二はそんな自身の家柄、血統であることに誇りを抱いており、魔術師として大成することを夢見る少年だったのです。しかし、彼には魔術師となるために必須な魔術回路という機能を受け継ぐことが出来ず、そもそも魔術師に決してなれないという現実をつきつけられます。さらには義理の妹、間桐桜の方に魔術師としての才能が有り、あまつさえ間桐家の魔術師としての跡取りは自身でなく彼女の方だったという事実を知ります。この時点で彼はかなり性格を拗らせました。いじわるだが桜の良い兄として、また根は良い奴として衛宮士郎の友人であったはずの彼の在り方は、おおよそ作中のああいった性格へと転じていきます。最後の決め手として、同じ御三家の一人であり女性としても気にかけていた遠坂凛、そしてただの一般人の友人であったはず衛宮士郎までもが、マスター、魔術師として聖杯戦争へと参戦します。羨望、嫉妬、憎悪、間桐慎二の性格はこの時点で最大まで歪んでいたのでしょう。そして、これも作中では触れられてないことですが、間桐桜からライダーのマスター権を譲渡された時、彼の運命は決しました。そこからの間桐慎二の活躍は作品をご覧になった通りです。さて、どうでしょうか。間桐慎二のことを理解いただけたでしょうか。つまるところ、どうしようもなく矮小でどうしようもないほど普通の人間らしい間桐慎二は、あるいは捨て身で人を助けるために動く衛宮士郎より、身近で理解しやすい存在ではないでしょうか。すなわち、超常の存在が大活躍する本作品の中で、本筋に絡みながら私達にとって理解、あるいは共感しやすい貴重な存在こそが間桐慎二なんです。つまり、間桐慎二に惹かれる多くの人たちは、こんなどうしようもない彼に、あるいは親近感が沸いてしまったからこそ惹かれたのではないか、と私は考えます。
間桐慎二のこれからの活躍にご期待ください。
さて、長々と述べてきましたが、いいや、間桐慎二の魅力はそこじゃない!という意見もあることでしょう。いやはや、その通りかもしれません。何だかんだ私自身、間桐慎二のファンの一人ではありますが、彼を完璧に理解できているかと言えばそうではないでしょう。彼の多くの人を惹きつける、真に輝いている部分は他にあるのやもしれません。それを知るためにも、間桐慎二ひいては、Fateシリーズの今後ますますの活躍に期待していきましょう。
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