雄渾、アナーキーで血湧き肉踊る傑作 - 風と雲と虹との感想

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雄渾、アナーキーで血湧き肉踊る傑作

5.05.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
4.5
音楽
5.0
演出
4.0

目次

最古の時代を扱った大河ドラマ

1976年制作のNHK大河ドラマ。現在までのところ、最古の時代を扱ったものであり、全話のVTRが保存されている最も古い大河ドラマでもあります。

大河ドラマで取り上げられる時代は圧倒的に戦国時代後半と幕末に偏っており、たまに平家台頭から源平争乱(12世紀後半)が舞台になることもありますが、そう多くありません。この「風と雲と虹と」は、(10世紀前半)を舞台にしたものなのでそれより200年以上遡ることになり、断トツの古さです。原作は海音寺潮五郎の「平将門」「海と風と虹と」を併せて福田善之が脚本執筆。後者は平将門と同時に瀬戸内で反旗を翻した藤原純友を主役にした作品で、二人主役ということになりますが、ウェイトは将門に置かれています。

冴えわたる福田脚本

さて、この事件がこれまで大河ドラマに取り上げられなかった理由としてはいくつか考えられます。まず、数年で収束しており、1年の長丁場を持たせるのが難しいうえに、前段階としての将門や純友の生涯も資料が少ないこと。そして、何よりも、将門が天皇を頂く日本国家に真っ向から挑戦状を叩きつけた「賊徒」であること。西郷隆盛もまあそうには違いないのですが、将門は自らが「新皇」を名乗るなど、いっそう過激です。ヘタをすると街宣車がNHKに押しかけかねない。

政治的な側面をあまり強調せずに、関東の風雲児の大暴れドラマとして、戦物語の面白さに徹する方法もあったと思います。ですが、当時のNHKは今の1億倍ぐらい勇敢で大胆でした。まず、主演は加藤剛。明らかに暴れん坊というよりはインテリタイプです。革命家タイプと言っていいかも知れない。緒形拳はこれよりややワイルドですが、それでも一筋縄ではいかないクセ物俳優です。

そして驚くべきことに、脚本には福田善之が起用されました。後にも先にも大河はこれ1回きり(俳優として顔出ししたことはあります)。あの、60年安保の挫折を時代劇ミュージカルの形で歌い上げた伝説の名作「真田風雲録」は、映画化もされておりますし、その後何度となく再演され続けています。この瞬間「風と雲と虹と」は「千年の昔に武力革命を挑んで敗れ去った男たち」の物語に路線決定したのです。今なら逆立ちしたってゴーサインは出ないでしょう。時代ですねえ。

ここでの将門は農民に「いいか、公(おおやけ)があって我等がいるのではない。逆だ。逆さまだ。まず大地と共に生きる民衆があり、ずと後から公がやってきたのだ」と痺れるような檄を飛ばします。もちろん脚本オリジナルです。全編この調子でアナーキズム全開。福田脚本は冴えに冴えわたります。

豪華な中にも凝ったキャスティング

大河ドラマといえば「札束番組」と言われるほど豪華な出演者の顔ぶれが毎年の話題を呼びます。本作ももちろんその例にもれず、小林桂樹、吉永小百合らビッグネームにも事欠かないのですが、豪華な中にも少し拘りのある、凝ったキャストが散見されます。

まず、将門の従兄弟ながら敵対関係となる平貞盛に山口崇。大岡越前と吉宗が敵味方に分かれてしまったわけです。この人が当時、吉宗役だけでなく民放ゴールデンタイムドラマでもピン主役を張るだけの人気スターだったことを記憶されている方は今や少ないかも知れません。そして討伐軍を指揮して将門を滅ぼすのは露口茂。名優にもかかわらず「山さん」以外の映像がホント少ないので貴重です。

この二人は将門に敵意をほとんど持っていない,心ならずも敵となったキャラクターなのですが、対照的に憎まれ役を一手に引き受ける伯父叔父トリオが佐野浅夫、長門勇、蟹江敬三。当時スターと呼びえたのは長門だけでしょう。佐野は地味で渋い脇役俳優。蟹江敬三なんか甥実年齢6つも下だし、ロマンポルノの名作「天使のはらわた・赤い教室」で注目を浴びるのは3年後ですから、大抜擢もいいとこです。で、この3人の縁戚として徒党を組むのが西村晃、星由里子、峰岸徹の親子。のちのダブル水戸黄門が悪役コンビを組むわけです。星さんは当時32歳。さすが悪役をやっても可憐です。

味方の方では高岡健二、森昌子、草刈正雄、真野響子といったフレッシュな面々に混じり、なぜか皇族なのに将門に肩入れして先導する興世王に扮する米倉斉加年が絶品です。舞台以外ではNHKと山田洋次のみに愛された稀代の天才俳優でしたが、奇矯な中にも凄みをさたえ、最後の場面など実にかっこいい。

そして何よりも音楽

最後に山本直純の音楽に触れないわけにはいかないでしょう。NHK交響楽団に、ささらが印象的な和楽器群、歌詞のないコーラスを加え、雄渾かつダイナミックな主題曲は古代日本のロマンに相応しく、長い大河ドラマの歴史でも一、二を争う名曲といえるでしょう。注目すべきは、この主題曲を除くその他のBGMで、これが本当に充実しています。この番組の血湧き肉踊る興奮は、福田脚本のセリフ回しとともに、この音楽が支えているのです。

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